「死の病菌」まき散らすゾンビゼミ、大発生と重なる自然界のスペクタクル
ゾンビゼミを刺激するアンフェタミン?
体を引き裂かれたセミが動き回って交尾できる理由に関連して、カッソン氏のチームは病菌の胞子からアンフェタミンが見つかったことを明らかにした。「これで行動の変化が起きる理由を説明できるかもしれない」とカッソン氏は説明する。
クーリー氏によると、アンフェタミンには脊椎(せきつい)動物の中枢神経を刺激する作用があるものの、セミのような昆虫(無脊椎動物)は神経が異なることから、同じような刺激を与えるかどうかは分かっていない。
病菌が別の手段でセミを操っている可能性もあるとクーリー氏は言い、病菌が生成するアンフェタミンは、病菌を宿したセミの天敵である鳥などの脊椎動物を追い払う役割を果たしているのかもしれないと指摘する。
今年の春は、米イリノイ州北部に集中する17年周期のセミと、中西部から南東部の一帯に生息する13年周期のセミが同時に羽化する大発生が予想されている。同時発生は1803年以来。ただし地理的に重複することはほとんどない。
カッソン氏は、それぞれの集団で感染したセミを観察し、マッソスポラに遺伝的な違いがあるかどうかを研究したい意向だ。
なお、セミは食用にもなるが、マッソスポラに感染したセミをたとえ人や犬が食べたとしても感染することはないという。しかもマッソスポラは13年周期と17年周期のセミにしか感染できず、人がゾンビにされることは恐らくないだろうとカッソン氏は言う。
セミの大発生や、セミの10%に感染している可能性のあるグロテスクな病菌について、同氏は「生物学的には一大スペクタクル。自然界の驚異として認識すべきだと思う」と話している。