ありえない場所に酸素があった 「暗黒酸素」の謎解明へ、プロジェクト始動

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マンガンや銅、コバルト、ニッケルを豊富に含む岩石塊=2023年、インド・ブバネーシュワル/Pallava Bagla/Corbis/Getty Images

マンガンや銅、コバルト、ニッケルを豊富に含む岩石塊=2023年、インド・ブバネーシュワル/Pallava Bagla/Corbis/Getty Images

(CNN) 光が届かない太平洋の深海の底で、酸素を生成しているらしい金属岩が見つかった――。昨年7月のその発表は、学会を揺るがした。

金属を豊富に含むジャガイモほどの大きさの岩石塊は、主にクラリオン・クリッパートン海域の深さ4000メートルの海底で見つかった。当初の研究では、この岩石塊が電荷を放出して電気分解によって海水を酸素と水素に分解していると推定。前代未聞のこの自然現象は、酸素が太陽光からの光合成によってのみ作られるという概念を覆すものだった。

この発見にかかわった英スコットランド海洋科学協会のアンドルー・スウィートマン教授は、「暗黒酸素」の生成について解明する3年がかりの研究プロジェクトに着手した。研究チームは水深1万1000メートルまで届くセンサーを装備した特注の装置を使用。日本財団は17日、この研究プロジェクトに約4億4000万円を拠出すると発表した。

日本財団と英スコットランド海洋科学協会(SAMS)は記者会見で、研究プロジェクトの立ち上げを発表した。左からSAMSのニック・オーウェンズ氏、アンドルー・スウィートマン氏、日本財団の笹川陽平会長/Alex Rumford/SAMS/The Nippon Foundation
日本財団と英スコットランド海洋科学協会(SAMS)は記者会見で、研究プロジェクトの立ち上げを発表した。左からSAMSのニック・オーウェンズ氏、アンドルー・スウィートマン氏、日本財団の笹川陽平会長/Alex Rumford/SAMS/The Nippon Foundation

暗黒酸素の発見は、深海に関してほとんど何も分かっていない現状を物語る。特にクラリオン・クリッパートン海域は、岩石塊に含まれるレアメタル採掘の目的で探査が行われている。岩石塊は何百万年もかかって形成され、レアメタルは環境に優しい新技術において重要な役割を果たす。

「暗黒酸素の発見は、深海、そして恐らく地球上の生命についての我々の認識におけるパラダイムシフトだった。だが答えよりも投げかけられた疑問の方が多かった」とスウィートマン氏は述べ「新たな研究でそうした科学的疑問を解明したい」と意欲を示す。

スウィートマン氏によると、プロジェクトの最初の目標は、岩石塊が見つかった場所以外のクラリオン・クリッパートン海域でも暗黒酸素の生成が再現できるかどうかを調べ、酸素がどう生成されるかを解き明かすことにある。

あるはずのない場所に酸素が

酸素は太陽光の継続的なエネルギーがなければ生成は難しい。ただし、光の届かない予想外の場所で酸素分子が見つかったという研究報告はほかにもある。暗黒酸素の生成は、実はもっと幅広く起きている現象で、これまで見過ごされてきただけなのかもしれないとスウィートマン氏は言う。

米海洋生物学研究所のエミール・ラフ氏のチームが2023年6月に発表した研究結果によると、カナダ・アルバータ州では草原の数十から数百メートル地底で採取した淡水の標本から酸素が検出された。暗黒酸素は場合によっては4万年以上もの間、地上の大気から隔絶されていた。

酸素は例えば樹木や植物によって継続的に環境に加えられなければ、いずれは消滅する。

「4万年も3万年も(地表のプロセスから切り離されて)、酸素が残っている理由は考えられない。酸素は電子受容体なので、普通は化学的に酸化するか、微生物を通じて酸化する」「では、なぜそこに酸素があったのか」とラフ氏は問いかける。

スウィートマン氏と同様に、ラフ氏も最初は、14の地下水帯水層から採取した標本が大気中の酸素に汚染されたのだろうと考えた。標本の年代を考えると、酸素はとうに他の物質と反応して消えているはずだった。

辛抱強く研究室と現場で調査を続けた結果、ラフ氏は最終的に、水中の微生物が酸素を生成していることを発見した。この微生物は、光がなくても分子を生成できる仕組みを進化させていたらしい。

この微生物は、一連の化学反応によって、亜硝酸塩と呼ばれる可溶性化合物を分解し、不均化と呼ばれるプロセスで酸素分子を生成していた。この微生物はさらに、その酸素を使って水中のメタンを消費してエネルギーとする能力も備えていた。

生成された酸素は、地下水の中で酸素を必要とする他の微生物を支えるのにも十分な量だった。

「自然は驚きに満ちている」とラフ氏は言う。「『あり得ない』と言われながら、後にあり得なくはなかったと判明することはあまりに多い」とラフ氏は話す。

暗黒酸素をさらに詳しく調べるため、ラフ氏のチームは8月に南アフリカの鉱山の3キロ地底へ足を運び、岩盤の中に12億年閉じこめられていた水の標本を採取した。

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