ありえない場所に酸素があった 「暗黒酸素」の謎解明へ、プロジェクト始動
この鉱山の水に酸素分子が含まれることは以前から分かっていたが、それがどう生成されるのかは分かっていなかった。ラフ氏らが採取した標本はまだ調べている段階だが、酸素分子の形成については二つの仮説を立てている。
その一つは、放射線によって水分子が分解される放射線分解説。この鉱山では金と放射性金属のウランを採掘している。あるいは、ラフ氏がカナダの地下水で発見したのと同じように、微生物が酸素を生成している可能性も考えられる。
スウィートマン氏は17日、海底での暗黒酸素の生成に微生物反応がかかわっているかどうかの解明も目指すと語った。特に、岩石塊で酸素が生成される際に水素がどのように放出されるのか、深海で検出された微生物群のエネルギー源として水素が使われたのかどうかを探る意向だ。
ラフ氏は、スウィートマン氏など暗黒酸素を研究する科学者と協力して、海水の電気分解によって生成される酸素の化学的特徴が、微生物や放射線分解によって生成される酸素とどう違うのかを解明したいと話している。
NASAも関心
暗黒酸素の生成に関する研究には米航空宇宙局(NASA)も関心を示す。こうした研究は、太陽光が届かない地球以外の惑星で生命が維持できる可能性を探る役に立つかもしれない。
スウィートマン氏によると、NASAは土星の衛星エンケラドスと木星の衛星エウロパの強い重力下で酸素が生成されるために必要なエネルギー量を探る実験を行いたい意向だという。この二つの衛星は、生命の可能性を探る調査の目標とされている。
クラリオン・クリッパートン海域の深さ4100メートルの地点で見つかった新種の生物/Craig Smith and Diva Amon, ABYSSLINE Project; NOAA Office of Ocean Exploration and Research
深海の採掘を行う企業は太陽光パネルや電気自動車のバッテリーなどに使う目的で、岩石塊に含まれるコバルト、ニッケル、銅、リチウム、マンガンの採掘を目指しており、中にはスウィートマン氏の研究を問題視する企業もある。
深海の採掘に対しては、海底の手つかずの環境に回復不可能なダメージを与えかねず、海洋が炭素を貯留する仕組みをかき乱して気候変動の原因となる可能性もあるとする批判もある。
ザ・メタルズ社は、スウィートマン氏の研究が発表された科学誌ネイチャー・ジオサイエンスに反証の論文を提出したことを明らかにした。論文は査読が行われており、まだ発表されていないとしている。
スウィートマン氏はこうした批判のことは認識しており、査読誌を通じて返答すると説明。生態系の解明が進むまで、海底の資源開発は控えるのが賢明だとの見方を示した。