OPINION

ハイチでギャングがこれほどの権力を握る理由

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ハイチ首都ポルトープランスで警官とギャングが対峙する中、自宅から逃れる住民/Ralph Tedy Erol/Reuters

ハイチ首都ポルトープランスで警官とギャングが対峙する中、自宅から逃れる住民/Ralph Tedy Erol/Reuters

(CNN) ここ数週間、想像を絶する混乱がハイチを襲っている。元々悲劇や苦難と無縁ではない国だが、今回現地から届く画像は生々しく、心を乱される。銃を携えてうろつく集団に家を追われる人々が、わずかばかりの所持品を握りしめ、路上で弾丸をよけている。身の安全を確保しようと必死だ。先々週末、米国大使館は、他の国の外交使節や国際的な利益団体と共に、ハイチからの脱出を開始した。

ギャリー・ピエールピエール氏/Courtesy Garry Pierre-Pierre
ギャリー・ピエールピエール氏/Courtesy Garry Pierre-Pierre

公共の秩序は崩壊し、警察の保護はほとんど受けられない。軍隊は兵士の数でも武器の数でも劣り、政府は事実上存在しない。国のリーダー、アンリ首相はプエルトリコで何日も立ち往生しており、先週には辞任の意向を明らかにした。移行評議会の設置後に職を辞するとした同首相は、「ハイチには平和が必要だ。ハイチには安定が必要だ」と訴えた。

まさにその通りだ。だが、平和と安定がこの問題だらけのカリブの島国に訪れる兆しは微塵(みじん)もない。筆者はそこで生まれ、人生の最初の10年を過ごした後米国に移り住んだ。筆者の一家と共に120万人のハイチ人が国を離れ、米国に定住した。この他何千人ものハイチ人が数十年間の内にフランス、カナダといった国々に定住した。それはより大きな経済的機会を求めての行動だったが、同時に残虐行為ややむことのない突発的な混乱から逃れるためのものでもあった。とはいえ、現在ハイチで起きている混乱は比較にならない。今後は新たに国から逃げ出すハイチ人の波が諸外国に押し寄せると予想される。

問題の根深さ

ハイチの混乱の根は深く、最近の突発的な暴力で始まったわけではない。現在、銃で武装した集団が国を制圧しているが、混乱自体は数十年前に端を発する。そこには数世代にわたって蔓延(まんえん)する政治家と支配層との汚職があった。彼らはハイチを自分たちの縄張りと見なし続けている。

たった六つかそこらの裕福な一族が、ハイチの主要産業のほとんどを支配下に置いている。主として腐敗した独占を通じた支配であり、これが国の病理の大部分を占める。これらのエリート層は事実上ハイチ経済のあらゆる側面をコントロールし、基本的に税金を払わない。ハイチには過去の年月で、壊滅的な被害をもたらした2010年の地震の復興などを目的とした支援が流れ込んでいるが、これらの大半は上流階級の利益となっており、それ以外の国民は依然として過酷な貧困の中で生計を立てている。一方で政界や実業界のエリート層は国内で発生する麻薬密売の多くに関与。長年、自分たちの主要な収入源としている。実際のところ、専門家らがかねて指摘するように、ハイチは米国に流れ込む麻薬の大部分のルートと結びついている可能性がある。

エリート層は、不安定な現状の原因である当該のギャングらともつながりがある。これらのギャングによって国は崖っぷちにまで追い込まれている。22年、国連と米国、カナダはハイチのギャングリーダー、政治家、ビジネスエリートらのグループに対して制裁を科した。彼らが麻薬密売やマネーロンダリング(資金洗浄)、金融犯罪行為に携わっているとの疑惑が理由だ。

ハイチの苦難の起源をさらにたどれば、フランス支配下での野蛮かつ収奪的な奴隷制と植民地主義の歴史に行き着く。不正義に輪をかけたのがフランス側への賠償金の支払いだ。ハイチは奴隷たちの反乱によって自由の獲得に成功した世界で唯一の国だが、その後は何世代にもわたってフランス側から接収した人間「資産(訳注:奴隷)」やその他資産に対する賠償金を支払わなくてはならなかった。

独立を確保した後も、ハイチは目と鼻の先にいる世界的超大国、米国による新植民地主義と放置との対象にされた。米国人は記憶にないかもしれないが、米軍はハイチを20世紀初めの20年間占領し、以降同国の政治経済の発展(もしくはその欠如)に極めて大きな役割を果たした。

嘆かわしいことに、多くはその悲劇的かつ激動の歴史に起因するところだが、ハイチは平和と繁栄の時代を謳歌(おうか)したことが一度もない。国自体は自然の美しさに恵まれ、資源も豊富。国民も勤勉で、高い能力を備えているにもかかわらず。

しかも現行の災厄が今なお国内で猛威を振るう中、米国を含む国際社会は暴力の広がりをほとんどの場合平然と眺めている。ことによると関心さえ持っていないのかもしれない。最近では22年秋、アンリ首相がギャングの暴力への対応として軍事支援を求めたが、米政府はこれを拒絶。資金の供与と兵站(へいたん)支援を申し出る一方、部隊を増強して激動する現地状況の安定化の一助とするよう呼び掛けた。国連が組織する形で、複数の国々から部隊を派遣する取り組みが進められた。中心となるのはケニアだったが、同国政府は先週、ハイチに新政権が発足するまでは部隊を派遣する計画を停止すると発表した。

希望の期間

比較的短い間ではあるが、希望を抱かせる期間はあった(輝かしい機会だったが最終的には実を結ばなかった)。当時はよりよい未来が、少しずつ問題だらけの我が祖国に訪れるかに思われた。圧倒的な破壊力を持つ2010年の地震により、ハイチは首都ポルトープランスを含む広範囲で壊滅状態に陥った。死者は数十万人に上り、まさに大災害に他ならなかった。

それでも当時は、大災害の中にあって明るい希望のようなものが存在した。突然、世界がハイチの状況を気にかけているような様子を見せたからだ。

皮肉なことに、国の歴史上最悪の部類と言っていい時期は、同時に素晴らしい希望と可能性の時期でもあった。復興支援に数十億ドルを拠出するとの約束が、外国政府や国際組織から舞い込んだ。ハイチが初めて、完全な国際社会からの注目の的になった。経済開発の点で、これほどの恩恵がもたらされたことは歴史を振り返ってもなかった。

希望はすぐに打ち砕かれた。米国によるものを含め、約束された支援の多くは届かなかった。前評判だけはやたらに高い赤十字の開発計画にはよくあることだが、支援の一部は意図された受取人の手に渡らなかったようだ。実際にハイチに届いた支援の大半は、海外からの基金がいつも最後に落ち着く場所へと向かった。長年国を支配し、収奪し続けている同じエリート層のポケットの中だ。

「パパ・ドク」

1950年代後半から、ハイチが受け取った外国からの支援の多くは悪名高き指導者、フランソワ・「パパ・ドク」・デュバリエの金庫に収まることになった。息子のジャンクロード・「ベビー・ドク」・デュバリエも、手癖の悪さでは引けを取らなかった。71年の父の死後その地位を受け継いだジャンクロードは、ハイチの手持ち資金の大部分を個人の外国口座に移した他、高額の不動産投資につぎ込んだ。父も子も、ハイチの国庫の一部を自分たちの悪名高い私的治安部隊に費やした。「トントン・マクート」と呼ばれたこの組織は、ハイチの住民を恐怖に陥れた。現在ハイチ首都の路上で繰り広げられている残虐行為は、この準軍事組織の行動をなぞるものとなっている。

しかし今日のギャングの活動を、もっと最近の歴史と結びつける向きもある。その主張によれば、無法なギャングとハイチの混沌への転落は、95年に端を発する。当時のジャンベルトラン・アリスティド大統領は、国を追われた後、米軍の助けを借りて権力の座に返り咲いた。

ハイチへの帰還に当たり、デュバリエの手法を参考にしつつ、アリスティド氏は軍を解体。「民間警察部隊」を創設した。隊員はポルトープランスの荒れた街区から集められた。最終的にはハイチの支配層と衝突し、アリスティド氏は再び国を追われ、その後数年間アフリカに亡命した。アリスティド氏の追放後、意気上がるギャングらは犯罪シンジケートへと進化。麻薬と武器を取り引きし、食糧不足が再発する中、国内で最も脆弱(ぜいじゃく)な住民を対象に強奪、搾取を行った。

これが現在の危機の悲しい背景となっている。数年間にわたり、ハイチの大統領、首相、国会議員らは、国内のギャングたちとの危険なダンスに参加し、しばしばギャングらを自分たちの私的な用心棒として利用している。これは米国の都市の一部で知られるストリートギャングではない。彼らは緩く組織された存在であり、結局のところ一般住民を恐怖させることに喜びを覚える無法な悪党たちということになる。

ギャングのリーダー、「バーベキュー」ことジミー・シュリジエ氏がメンバーを引き連れポルトープランスの路上をパトロールする=2月22日撮影/Giles Clarke/Getty Images
ギャングのリーダー、「バーベキュー」ことジミー・シュリジエ氏がメンバーを引き連れポルトープランスの路上をパトロールする=2月22日撮影/Giles Clarke/Getty Images

現在の混乱の主導者には「バーベキュー」の通称で知られるジミー・シュリジエ氏がいるが、他にも同等の影響力を持ち、同様に無慈悲なリーダーが複数含まれる。もう一人の影の人物で元兵士のギ・フィリップ氏は2004年のクーデターを率い、アリスティド氏を権力の座から追い落とした。現在自らを大統領候補と位置づけるフィリップ氏は、最近ハイチに帰国した。それまではマネーロンダリングなどの違法行為のため、米国の刑務所で6年服役していた。

しかし、ハイチを制圧し、高度に組織化された攻撃を警官や国の機関に浴びせる無法者たちが、ハイチをより安定かつ繁栄した未来に導けるはずもない。シュリジエ氏は、アンリ政権の転覆を目標に掲げた。同氏をはじめとするギャングらは、既に成功を収めたように見える。現状はどうなのか?

アンリ氏は、新たな首相が就任し、内閣が成立すれば正式に辞任すると述べている。先週のジャマイカでの会合で、カリブ共同体(CARICOM)はハイチでの選挙実施に向けた移行評議会の設置に合意したと明らかにした。民主的な選挙という目標は立派だが、果たして選挙によってハイチ国内の破壊が修復できると考える人はいるだろうか? 選挙で現地の過酷な貧困が終わるだろうか? 荒廃したインフラが元に戻るのか? 選挙で次のならず者集団の出現を防げるのか? 彼らが銃口によって国を支配しようと決断するのを阻止できるのか?

米国の役割

自国の再建を望むハイチ人の多くは、いかなる解決策にも持続的かつ計画的な米国及びより広範な国際社会の関与が必要だと認識している。当然ハイチ人たちは、米国による過去の軍事侵攻の歴史にさいなまれており、直近の国連任務が失敗したことも後悔と共に記憶している。後者は疫病の蔓延を引き起こし、数千人が死亡。秩序を提供するため送り込まれた平和維持軍による犯罪行為も見られた。だが悲しいことに、ハイチという国には他に実行可能な選択肢がほとんどない。

口にするのは酷だが、ハイチは崩壊した国家だ。元通りにするために必要なある種の秩序や、資源の投資は単純に現行の政権では達成できない。現在の状況ではこの先の政権も無理だろう。暴力を抑え込み、秩序を回復するにはハイチ政府の能力を超えた全体的な手法が求められる。混沌の終焉(しゅうえん)は米国の外交、影響力、ノウハウがあって初めて可能になる。

今後のあらゆる措置は、ハイチ国民の安全と治安を最優先としなくてはならない。具体的には法執行機関の増強、司法機関の強化、ギャングの勧誘という根本原因への対処を通じて実現する。政府にはこれらの一つも実施する能力がなく、近い将来もそれが可能になる公算は小さい。

ハイチは汚職との戦いや、少数の権力者が国内経済を牛耳る状況の緩和に向けた援助を求めている。そうした取り組みは統治力を高めつつ、潜在的なリーダーを大衆の中から育て、鍛えるものでなくてはならない。それによって、政府とその統治対象である国民のつながりは強化される。ハイチが二度と独裁者や泥棒政治家に支配されないためにはそれが最良の手段だ。

銃器や弾薬がギャングの手に流れ込むのを防げるのは、米国と国際社会しかない。米国はこれまで、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局や麻薬取締局のような機関が、暴力と汚職にまみれた他の中南米カリブ諸国で結果を出している。従って今回の課題に取り組む適性はどこよりもある。米国政府の援助、つまりアンリ首相が1年半前に要請した種類の支援さえあれば、ハイチの状況の安定化は可能だ。それによって持続的な進歩と発展への道が開ける。

当然ある時点においては、ギャングとのつながりという社会経済上の根本原因への対処が必要になるだろう。教育や職業訓練、経済的機会へのアクセスは、犯罪に手を染める生き方とは別の有効な選択肢を提供する。 地域に根差した取り組みでそうしたアクセスを確保するのが不可欠だ。

とはいえ、それもこれも暴力の鎮圧なしには本格的に始めることができない。ひとたびそれが実現すれば、平和の回復や米開発機関並びに国際非営利組織(NPO)からの追加支援を足掛かりにハイチ政権の基盤を築ける。そこから改革と和解に向けた真の取り組みが始まる。市民社会と国際社会とが、手を携える形で。

数十年間にわたって用心深く待ち続けてきた後で、自国が前に進むのを見たくてたまらないというハイチ人は非常に多い。現地にいる筆者の知人の一人は最近、現行の混乱のせいで事業を続けるのに必要なガソリンの備蓄が2週間分しかないと打ち明けた。混乱のために、追加のガソリンを入手するのが不可能だという。それでも彼はハイチを離れない。離れれば事業が略奪を受け、奪われることになるのを知っているからだ。

米国がくしゃみをすれば、それ以外の世界中が風邪をひくとよく言われる。それほどまでに米国の力と影響は強大だ。もしその巨大な力の一部を、組織的かつ持続的なやり方である国の支援に振り向けたらどうなるだろうか? その国はメリーランド州ほどの大きさで、米国本土から飛行機で2時間とかからない。

もし、世界で最も富裕な国々の一つが関心を向け、西半球で最も貧しい国の惨状と荒廃にようやく決定的な終止符を打てるとしたらどうだろう? 行く手には大変な問題が待ち構えているが、ハイチにおける平和と安定への道のりは、米国政府による適切な種類の支援があってこそ可能になる。

暴力の根本原因に対処することで、ハイチは現状の混乱から脱し、ようやく平和に満ちた国になれる。そこに暮らす市民にふさわしい、統治能力を備えた共和国に生まれ変われる。市民らはそれが可能だと熱烈に信じている。

ギャリー・ピエールピエール氏は、米ニューヨークを拠点とするハイチ人移住者向け英字刊行物「ハイチアン・タイムス」の創業者兼発行者。1993年にニューヨーク・タイムズの取材チームの一員として、最初のワールドトレードセンターの爆破事件に関する報道でピューリッツァー賞を受賞した。記事の内容は同氏個人の見解です。

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