トランプ氏とFOXの関係が悪化、今後あり得る展開は?

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良好だったトランプ氏とFOXとの関係が、大統領選の報道をめぐって悪化している/Chip Somodevilla/Getty Images North America/Getty Images

良好だったトランプ氏とFOXとの関係が、大統領選の報道をめぐって悪化している/Chip Somodevilla/Getty Images North America/Getty Images

ニューヨーク(CNN Business) FOXニュースの幹部が公言することは決してないだろうが、彼らは内心、自分たちのメディア帝国はトランプ大統領よりも巨大な存在だと考えている。

そして、彼らにはそう考える十分な理由がある。FOXは数十億ドルの売り上げを誇り、数百万人の忠実な視聴者を抱えているからだ。

FOXの複数の情報筋によると、同社の従業員はバイデン政権下で好収益を上げることに確信を持っており、「トランプTV」の誕生を恐れて不眠になっているわけではないという。

しかし、一部の観測筋からは、FOXは懸念してしかるべきだとの見方も出ている。もし退任したトランプ氏が自らのメディア企業を立ち上げれば、FOXブランドに打撃を与え、幻滅した視聴者を奪う結果になりうる。長年にわたりFOXの支配下にあった右派メディアの勢力図が再編される可能性もある。

米大統領選でFOXその他の主要メディアが民主党候補バイデン前副大統領の当確を報じて以来、トランプ氏はFOXに対する怒りをあおり、「ニュースマックス」や「ワン・アメリカ・ニュース」のような陰謀論色の濃い小規模局を持ち上げてきた。

その一方でFOXの視聴は続け、ツイッターでお気に入りのコメンテーターを引用したり、FOXのプライムタイムの司会者ショーン・ハニティ氏に助言を求めたりしている。

今の状況を解釈するうえで最も妥当な方法は、トランプ氏とFOXを率いるルパート・マードック氏がこの5年間、企業戦略上の打算から「結婚」していたと捉えることだろう。トランプ氏はここにきて破局をちらつかせているものの、FOXは以前にも何度もこうした修羅場をくぐり抜けてきた。

目下の焦点は、退任後のトランプ氏が何をするかだ。可能性としては、ケーブルテレビで「トランプTV」を始めるよりも、自身のブランドを冠したストリーミングサービスを立ち上げる公算の方が大きいように思われる。ただ、それ以外にもラジオ番組の司会者への就任、トランプ陣営の現在のウェブキャストの拡張、ニュースマックスのような会社とのライセンス契約など、ほぼあらゆるシナリオが考えられる。

FOXで「ドナルド・トランプ・トゥナイト」と題したトーク番組を手掛ける可能性も、全くないとは言い切れない。

関係のルーツ

トランプ氏はFOXニュースのスターになる前に、そもそもFOXニュースの視聴者だった。NBCの「セレブリティ・アプレンティス」で人気を博している間もFOXの番組をチェックし、朝のトークショー「FOX&フレンズ」に電話出演することで、共和党の支持基盤について学んだ。2015年から16年にかけて共和党の予備選に出馬した際も、FOXの司会者だったメーガン・ケリー氏を口撃して一部のコメンテーターを酷評しつつ、同局への出演は続けた。

以来、トランプ氏は一貫してアメとムチの戦略を採用。FOX内の支持者相手にはインタビューに応じてツイッターで宣伝したり、ホワイトハウスに招待したりする一方、FOXの批判派に対しては不満をあらわにしてきた。

一方、マードック氏はかつてはトランプ氏の行動に対する批判を公言していた。2015年夏には、ツイッターに「国全体の恥さらしなのは言うまでもないが、ドナルド・トランプはいつになったら友人に恥ずかしい思いをさせるのをやめるんだ」と書き込んで物議を醸したこともある。

だが、共和党予備選の候補者が絞られ、トランプ氏が同党の候補指名を獲得するなか、マードック氏はトランプ氏と和解した。本選でトランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破るとは予想していなかったものの、トランプ氏が勝利すると、マードック氏は一家の友人が言うところの「緊張緩和」に踏み切った。

力を持っているのはどちらか?

記者は今年、FOX内外の情報筋の話を基に、トランプ氏とFOXニュースの関係を扱った本を執筆した。その中で引用した「FOX&フレンズ」の元プロデューサーは、部外者は両者の関係を誤解していると指摘している。

「トランプ氏が『FOX&フレンズ』に電話をかけてきて、我々に指示を出していると思われているが、全く違う。その逆だ」「指示を出しているのは我々の方だ」(元プロデューサー)

これは強気の見方ではあるが、トランプ氏のツイッターをさかのぼるとその正しさが裏付けられる。トランプ氏は「FOX&フレンズ」を見て一日を始め、出演者の発言をそのまま口にしているのだ。

ここで重要なのは、FOXが右派テレビの世界で独占に近い地位を築いている点だ。同局の視聴者が極めて忠実であることは、16年後半から17年初めにかけて示された。9カ月の間にFOXの3大スターであるメーガン・ケリー、ビル・オライリー、グレタ・バン・サステレン各氏が相次ぎ去ったにもかかわらず、視聴率は基本的に同じだった。

少なくともFOXでは、出演者の代わりはいくらでもいる――。それが多くのテレビ業界関係者が得た教訓だった。この教訓はトランプ氏にも当てはまるだろうか。

ある意味、この5年間のトランプ氏はFOXの最大のスターだった。だが今、「大統領ショー」は終わりを迎えつつある。

FOXは自分の知名度を必要としているとトランプ氏は考えるかもしれないが、FOXはトランプ氏が政治家に転身する前からトップのテレビ局だった。

社会学者アーリー・ラッセル・ホックシールド氏がルイジアナ州の「ティーパーティー(茶会)」支持者を扱った2016年の著作で指摘したように、「FOXは産業界、州政府、教会、通常のメディアと並び、政治文化のもう一つの柱として地位を確立している」のである。

「一部の人にとって、FOXは家族そのものだ」と同氏は説明している。

家族を捨てるよう説得するためには、トランプ氏のツイートだけでは到底不十分だろう。

FOXに死角も

それでも、トランプ氏が「結婚」の解消を図っている可能性はある。

12日には、以前にFOXの報道をけん制したときと同様、「FOXニュースの昼間の視聴率は崩壊した。週末の昼間はさらに悪い」とツイートした。

このところのFOXの昼間の視聴率はやや軟調のように見える。ただ、FOXの支持基盤がバイデン氏の勝利を悪いニュースと受け止めていることを踏まえれば、これは意外な結果ではない。

FOXはニュースマックスなどの極右メディアの追い上げも感じている。こうしたメディアは、FOXがアリゾナ州でのバイデン氏の勝利確実を報じ、同氏を次期大統領と呼んでいることに批判的だ。

さらに米ニュースサイト「アクシオス」は12日、「トランプ氏は友人に、FOXニュースをつぶすためデジタルメディアを立ち上げる意向を示した」と報じた。

もし定額課金制のストリーミングサービスを立ち上げた場合、トランプ氏は集会に集まる支持者を有料サービスの顧客として取り込みつつ、FOXと競争することができるだろう。

ただ、FOXの内部関係者はこの見方に疑問を投げかけ、トランプ氏は目新しいストリーミングアプリではなく、大画面のテレビに執着していると指摘する。

FOXがトランプ氏を必要としているのか、それともトランプ氏がFOXを必要としているのか――。トランプ氏が身の振り方をどうするにせよ、この問いは今後数カ月で大きく答えに近づくだろう。

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