相撲界で奮闘する女性力士たち 国技の姿に変化もたらす

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女子相撲に取り組む少女たちの存在が日本の国技の姿を変えつつある/Daniel Campisi/CNN

女子相撲に取り組む少女たちの存在が日本の国技の姿を変えつつある/Daniel Campisi/CNN

名古屋(CNN) 少女力士の梶原千愛(せな)さんは、冷静な表情で、相手に頭からぶつかる。10歳前後の2人の少女は、十数秒間組み合った後、梶原さんが相手を土俵の外に押し出した。

この相撲大会で「横綱」の座をかけて争っているのはまわしを締めた男性力士たちではなく、8歳から12歳までの少女たちだ。土俵上でしのぎを削る少女力士たちは、男性優位の日本の国技、相撲の未来を着実に変えつつある。

しかし、日本では相撲は少年や男性の競技と考えている人が多いため、中には梶原さんが相撲を取っていると知って驚いたり、ショックを受ける人もいるという。

梶原さんは、少女力士や女性力士が増えれば、女性も男性と同じように相撲で生計を立てられるようになるとし、そうなることを願っていると付け加えた。

少女力士の梶原千愛(せな)さんは8歳の時に相撲の稽古を始めた/CNN Illustration/Kouhei Kajiwara
少女力士の梶原千愛(せな)さんは8歳の時に相撲の稽古を始めた/CNN Illustration/Kouhei Kajiwara

梶原さんは、穏やかな話し方をする眼鏡を掛けた12歳の少女だ。4年前、柔道と並行して相撲の稽古を開始した。2019年に開催された「第1回わんぱく相撲女子全国大会」の優勝者として、梶原さんは「横綱」の地位を維持するとともに、相撲でやれるところまでやる覚悟だ。

梶原さんは、自分のような少女がなぜ相撲を取るのか理解できない人もいるが、人からどう思われようが気にしないと述べ、自分が相撲をやりたければやるべき、と語る。

しかし、女性にとってそれは口で言うほど簡単なことではない。

大相撲では、取組や儀式への女性の参加は認めていない。また最近、角界でスキャンダルが相次ぎ、相撲の評判に傷がついた。

18年には、京都府で、土俵上で倒れた市長に救命処置をしていた女性たちが土俵から下りるよう指示され騒動になった。この事件は、日本の家父長制社会における女性の扱われ方を反映しているとの見方が多い。日本は、世界経済フォーラムの最新の「ジェンダーギャップ指数」でも156カ国中120位となっている。

スーパーウーマンとショービジネス

課題は多いものの、日本における考え方の変化が少女・女性力士たちの未来を開きつつある、と専門家らは指摘する。

大相撲は1500年以上の歴史を持つ古代からの競技興行だ。出場できるのは男性に限られ、興行は伝統的に豊作を祈願する目的で日本の神社で行われてきた。また相撲の厳格な儀式は、何世紀にも渡りほとんど変わっていない。

実際の取組はわずか数秒で決着がつき、大抵2人の力士が土俵上で対戦する。女性は土俵に立ち入ることはできない。月経があるため、神道では女性は不浄(ふじょう)と考えられているからだ。

2019年5月26日の大相撲夏場所、ジョージア出身の栃ノ心(右)と日本出身の高安の取り組み/BRENDAN SMIALOWSKI/AFP/AFP via Getty Images
2019年5月26日の大相撲夏場所、ジョージア出身の栃ノ心(右)と日本出身の高安の取り組み/BRENDAN SMIALOWSKI/AFP/AFP via Getty Images

日本体育大学の金田英子教授によると、さまざまな障害はあったものの、女子相撲は相撲が始まった当初から行われてきたという。

例えば、金田氏がインターナショナル・ジャーナル・オブ・ザ・ヒストリー・オブ・スポーツ誌上で発表した研究論文によると、日本で2番目に古い歴史書「日本書紀」の8世紀の記述に、雄略天皇が采女(うねめ)たちに相撲を取らせた時の様子が描かれているという。

また江戸時代(1603年~1867年)に出版された有名な文学作品「浮世草子」にも、女性と盲目の男性が相撲を取ったことをほのめかす記述がある。

金田氏によると、1873年に女子相撲は一時的に禁止されたが、数年後に復活し、1930年代には女性力士たちの強さを披露するためのイベントがハワイで開催され、女子相撲は世界的に知られるようになったという。

東京の相撲部屋で稽古に打ち込む力士たち/BEHROUZ MEHRI/AFP/AFP via Getty Images
東京の相撲部屋で稽古に打ち込む力士たち/BEHROUZ MEHRI/AFP/AFP via Getty Images

伝統的な女子相撲は、単なる娯楽ではなく、女性力士にはスーパーウーマンのような資質があるとの信仰を浮き彫りにした、と金田氏は指摘する。金田氏の論文によると、女性力士らが日本各地でさまざまな依頼を受けた記録があるという。例えば、秋田では雨乞いを依頼されたり(女性力士は不浄とされていたため、その不浄が神々の怒りをかき立てると考えられた)、九州では結婚式などの祝賀行事に招かれた。

さらに群馬県立女子大学の一階千絵教授によると、40年代から50年代にかけて、相撲は一種の地下エロチカと考えられ、多くのバーで女性力士がまわしのみを締めて相撲を取り、女体が見せ物の対象にされたという。

女性力士に機会を

時は流れて21世紀、東京郊外の薄暗いジムで8歳から12歳までの少年少女たちが組み合い、頭をぶつけ合いながらスパーリングを行っている。

レスリングコーチのおういけ・みき氏は、自分のクラスに多くの少女がいることを誇りに感じている。しかし、日本では全体的に相撲クラブが不足しているため、相撲に取り組む多くの少女たちは柔道場やレスリング教室で相撲の練習をしているという。

おういけ氏期待の星は12歳の原丹胡璃(はら・にこり)さんだ。原さんは地域の相撲大会で優勝し、第2回わんぱく相撲女子全国大会に向けて練習をしていた。

わんぱく相撲に出場する少女たちは、柔道やレスリングの経験も積んでいる/Emiko Jozuka/CNN
わんぱく相撲に出場する少女たちは、柔道やレスリングの経験も積んでいる/Emiko Jozuka/CNN

わんぱく相撲全国大会は、2019年に初めて少女たちに門戸を開いた。同年代の少年たちを対象に第1回大会が開催されてから30年以上が経過していた。

しかし女子相撲大会の存在はまだ広く知れ渡っておらず、相撲に挑戦する機会があることを知らない少女たちが大勢いるのは残念、とおういけ氏は言う。

通常、相撲に挑戦したい少女たちは、まず、学校やコミュニティー内の男女どちらも参加可能な相撲クラブに入る。その後も相撲を続けたい場合は、女子学生の相撲部への入部を歓迎している日本の大学に進学することになるが、女子相撲日本代表チームのメンバーである今日和(こん・ひより)氏によると、そのような大学はごく少数だという。

今氏は、幼少期は地元青森県の相撲クラブで練習し、その後京都府にある立命館大学の相撲部に入部した。

女の子の方が男の子よりも恐れずに頭からぶつかっていくと、観客らは話す/Daniel Campisi/CNN
女の子の方が男の子よりも恐れずに頭からぶつかっていくと、観客らは話す/Daniel Campisi/CNN

現在は愛知県内の日本企業に勤務し、アマチュアの女性力士として国際舞台で活躍している。今氏は、相撲を長く続けられる女性が増えることを願っているが、男性コーチが意欲のある女性力士への対応の仕方を理解しているとは限らない、と指摘する。

今氏は、昨年開催された第2回わんぱく相撲女子全国大会で司会を務め、興奮する親や興味津々の観客らが少女力士たちに声援を送る中、力士たちが繰り出す技について解説した。

大相撲は、野球とサッカーという日本の2大観戦スポーツと視聴率を争っており、大相撲の視聴率は過去20年間下がり続けている。

そこで日本相撲協会は一策を講じた。同協会は昨年10月、株式会社ポケモンとのコラボレーションを発表。わんぱく相撲全国大会の会場にピカチュウなどの「ポケモン」のキャラクターたちが駆けつけ、より新しく、若い観客たちに相撲の魅力をアピールした。

女子のわんぱく相撲大会は2019年に初めて開催された/Daniel Campisi/CNN
女子のわんぱく相撲大会は2019年に初めて開催された/Daniel Campisi/CNN

わんぱく相撲女子全国大会では、出場する少女全員がスパンデックスのショートパンツとレギンスの上にまわしを締め、年齢別に色分けされた同大会のTシャツを着て戦った。このような大会から、日本の相撲界がどれだけ進化を遂げたかがうかがえる、と今氏は指摘する。

今氏は、日本社会が以前と比べて女子相撲に協力的になっているとし、以前は存在しなかった女子のわんぱく相撲大会が19年に初めて開催され、21年に2回目が開催されたことを誇りに思うと語った。

以前は、わんぱく相撲全国大会が東京の両国国技館で開催されていたため、女子は予選の地区大会で優勝しても全国大会には出場できなかった。両国国技館は相撲の「聖地」として知られ、大相撲の初場所、夏場所、秋場所が開かれる。女性は国技館の土俵に上がることはできない。

女子相撲の未来

相撲は稼げる職業と言えるが、現在、給料が支払われているのは、6つある大相撲の力士の格付け(番付)のうち上位2階級の力士だけだ。番付の最高位である「横綱」の称号を持つ力士には、賞金に加え月額300万円前後の給与が支払われる。

角界は、女性がアマチュアレベルで相撲を取ることについて異論はないが、まだ女性が相撲で生計を立てることはできない、と元アマチュア力士のジョン・ガニング氏は言う。

今氏も、夢は女性が大相撲の番付に入ることではなく、女性も男性と同様に相撲で生計を立てられるようになることだと語る。

今氏によると、日本では女子相撲はマイナースポーツと考えられており、日本代表チームですら資金不足で合宿所を建設できないという。現在の主な課題は、いかに女子相撲のリーグを立ち上げ、アマチュア相撲をプロ化するかだと今氏は言う。

すでにジュニアとシニアの世界選手権大会も行われており、女子相撲がオリンピック種目となるには少女・女性力士の人数を増やすことが不可欠だ。

18年に、国際オリンピック委員会(IOC)は相撲をスポーツと認めたが、まだ五輪競技として採用されていない。しかし、今氏のようなアマチュア力士らは、次世代の女性力士たちがより大きな舞台で相撲を取れるようになることを願っている。

「横綱」の座を守り、仲間と記念撮影する梶原さん/Daniel Campisi/CNN
「横綱」の座を守り、仲間と記念撮影する梶原さん/Daniel Campisi/CNN

わんぱく相撲に話を戻すと、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で約2年ぶりに開催された第2回女子大会は、緊張感が漂っていた。

少女たちが会場の脇で親やコーチと練習していると、ある観客は、少女たちは土俵上で相手に正面からぶつかることをあまり怖がっていないように見えると語った。また別の観客は、相撲クラブでは少女や女性よりも少年や男性の方が多いため、相撲に参加している娘のことが心配だと話していた。

しかし、前回優勝した梶原さんは、土俵上では恐怖は感じないという。

21年の第2回大会決勝で、梶原さんは劣勢に見えたが、その後形勢が逆転し、見事小学6年生の部で「横綱」に輝いた。

わんぱく相撲全国大会は6年生までしか参加できないため、今年中学生になる梶原さんは今年の第3回大会には出場できない。しかし、地元兵庫県外の中学に進学し、そこで相撲の練習を続けるという目標を掲げている。

相撲を通じて決してあきらめない心、強い心が学べる、と梶原さんは言う。

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