正念場の年を迎える中国アリババ、「存続の危機」との見方も
香港(CNN Business) 中国IT大手のアリババ集団にとって、今年は20年前の創業以来最も重要な年になる可能性がある。
中国で最も有名なIT企業アリババは現在、同社を永久に変化させかねない多くの課題に国内外で直面する。中国当局はIT企業に対する締め付け強化の一環として、独占禁止法違反を理由にアリババを調査。傘下の金融会社アント・グループに対しても事業の全面見直しを要求した。
米政府が脅威となる可能性も残る。トランプ前政権はアリババや他のIT大手2社への米国人の投資を禁止する案を撤回したが、米中間の緊張がすぐに収まる公算は小さい。
しかもこうした中で、アリババ共同創業者のジャック・マー元会長は公の場に姿を見せない状況が数カ月続く。(訳注:マー氏は20日、インターネット上のビデオに登場した)
「アリババは他の中国のIT大手と同様、存続の危機にある」。ヒンリッヒ財団の研究員で、シンガポール国立大の客員上級研究員を務めるアレックス・カプリ氏はこう指摘する。
国内での締め付け強化
カプリ氏はアリババや同業他社にとって特に懸念される材料として、中国国内での締め付け強化を挙げる。
中国の習近平(シーチンピン)国家主席は当局者に主要IT企業の抑制を要請。国営新華社通信によると、先月には、ウェブプラットフォームに対する独禁規制強化を2021年の重要目標のひとつに位置付けた。
アリババや他企業に対する調査は、こうした優先順位を浮き彫りにした。14日には電子商取引を手掛ける別の中国企業VIPショップも、「不公正な競争慣行の疑い」で当局の調査を受けていることを確認。さらに、アリババと電子商取引の分野で競合するピンドウドウも労働文化を巡ってやり玉に挙げられており、中国政府がIT業界への幅広い批判を喚起しようとしていることがうかがえる。
民間IT企業に影響力を行使しようとする中国政府の意向は、一連の調査をはるかに超える範囲に及ぶ。締め付けが加速したのはここ数週間だが、中国政府はかなり前から地ならしを進めてきた。カプリ氏は、一部のIT企業は国有企業との提携を強制されていると指摘。一例として、アントの決済サービス「アリペイ」が新技術開発のため2018年に国営ユニオンペイと組んだことを挙げた。
カプリ氏はそのうえで「この傾向は今後数週間から数カ月で加速するだろう」「データやデジタルプラットフォームへのアクセスと支配が重要になる。もしそれがアリババの解体や実質国有化を意味するなら、そのシナリオが現実になる可能性もある」としている。
アリババの事業は中国に集中しているが、事業展開に大きな変化があれば影響は世界中に及びそうだ。同社は2014年に史上最高額で新規株式公開(IPO)を果たして以来、米株式市場に上場する。大株主には日本のソフトバンクが名を連ねるほか、バンガードやティー・ロウ・プライス、ブラックロックといった世界的な資産運用会社もアリババ株を保有している。
国外での圧力
ただ、中国政府はアリババや他社にどの程度圧力をかけるか慎重に見極めたい考えかもしれない。米中間の緊張がくすぶる中、米国は相次ぎ中国企業に制裁を科してきた。先日も中国2位の携帯電話メーカー、シャオミーへの米国人の投資を禁止したばかりだ。
ニューヨーク証券取引所は先ごろ、中国軍の提携または支援先とみなされる企業への米国人の投資を禁じる大統領令を順守するため、複数の中国企業の上場を廃止。さらにトランプ氏は最近、中国企業が米国の監査基準を満たさない場合、米証券取引所から上場廃止にできる法律に署名し、成立させた。
カプリ氏は「米国はバイデン政権下でも引き続き、こうした問題に注力するだろう」「たとえ米国が穏健な発言や外交姿勢に戻っても、中国IT企業からの戦略的デカップリング(切り離し)は増える可能性がある」と語る。
たとえばアリババのクラウドサービスは、苦境にある中国通信機器大手ファーウェイ(華為技術)の5G事業と同様、世界で逆風に直面する可能性がある。
近代中国の政治と歴史を専門とする英オックスフォード大のラナ・ミッター教授は「中国は米新政権が注目する中で国内有数の大企業をつぶす(意向がある)ようには見せたくないはずだ」と指摘。そのうえで、アリババの事業に変化があるとしても、「完全解体」ではなく「中程度」の変化になるとの見方を示した。
中国政府の意思決定がどの程度米国の行動に影響されるにせよ、共同創業者のマー氏の沈黙が長引いたことで、国内におけるアリババの問題は悪化している。「それがアリババに対する市場の信頼を一層損ないかねない」(開元資本のブロック・シルバーズ最高投資責任者)
シルバーズ氏は「アントのIPOは今や遠い記憶になった。同社は解体されて全体の評価額が大きく減るように規制されるかもしれない」と語る。中国当局は昨年11月、大きな期待を集めていたアントのIPOを棚上げにしており、上場が再実施される兆しはない。
これに比べるとアリババは打撃を免れる公算が大きいが、同社に規制上の脅威がないわけではない。
シルバーズ氏は「2021年にアリババへの逆風が和らぐかどうかは、マー氏の突然の沈黙の最終的な性質と期間に左右されるかもしれない」と指摘する。