「ハリポタ」にアイスクリーム、北朝鮮ユーチューバーの実態は
パンデミックが始まってからは、「(北朝鮮でも)これまでのプロパガンダの形式を捨て、新たな形式を導入するという話し合いが行われた」とハ氏は述べた。「金総書記が(当局に)プロパガンダをもっと工夫するよう命じた後、ユーチューブに動画ブログが現れ始めた」
北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」の19年の記事は、金氏の発言を引用し、北朝鮮のプロパガンダや放送局は「確立された慣習や従来の方法で執筆・編集するという古い枠組みを思い切って捨て去る」べきだと宣言した。
ユーチューバーが英語を話していることは、世界の視聴者にアピールするという狙いを反映しているといえる。ユミさんもソンアさんもこれを後押しするように、それぞれ「オリビア・ナターシャ」「サリー・パークス」という英語名をチャンネルに記載している。
なぜユーチューブなのか
この10年、北朝鮮は別の形でユーチューブにプロパガンダを投稿してきた。だがおうおうにして、北朝鮮の公式動画はモデレーターによって削除される。
17年、ユーチューブは利用規約とガイドラインの違反を理由に、北朝鮮の国営ニュースチャンネル「わが民族同士」と、在日朝鮮人が運営する「Tonpomail」チャンネルを削除した。
「ウンア」と名乗る北朝鮮人が運営しているとされるチャンネル「エコー・オブ・トゥルース」には、平壌で日常生活を謳歌(おうか)する動画が投稿されていたが、これも20年後半に削除された。
だが、アカウント閉鎖は一部の専門家から批判を買った。たとえプロパガンダだとしても、動画は北朝鮮や指導者の貴重な内情を伝えていたという専門家もいる。
削除されたチャンネルや、ソンアさんとユミさんのチャンネルについてCNNがユーチューブにコメントを求めたところ、広報担当者は同社が「適用される制裁や事業コンプライアンスの各種法律をすべて順守している。規制対象者が作成・アップロードしたコンテンツに関しても同じだ」と述べた。
声明によれば「アカウントが利用規約やコミュニティーガイドラインに違反していることが判明すれば、それを閉鎖する」という。
専門家も言うように、ユミさんやソンアさんの動画は、モデレーターの関心をひくことなく視聴者に接触しようという北朝鮮政府の試みかもしれない。
たとえ内容が仕組まれているにせよ、国内の内情を伝える貴重な窓口になると専門家は言う。
「(動画が)プロパガンダ目的で作られたことは周知の事実だ。世間もすでに気づいている」と言いつつ、ハ氏はこうも付け加えた。「単に扉を閉ざすのではなく、(こうした)コンテンツをどう受け止めるべきか、適切な教育と対話を行うべきだろう」