中国の「口紅王子」が涙の謝罪、国内経済の苦境軽視する発言で炎上
香港(CNN) 中国で屈指の人気を誇るライブ配信番組の出演者が、番組内での発言を巡って涙ながらに謝罪する出来事があった。自身が番組で宣伝する商品を高額だと指摘する意見が寄せられたのに対し、この出演者は視聴者側が「しっかり働いて」十分な収入を得ているのかと問いかける形で反論。この発言に批判が殺到し、謝罪に追い込まれた。
今回の騒ぎは、中国の労働者が直面する経済的苦境を浮き彫りにする。現状若年層の失業率が記録的水準に達する中、輸出需要は落ち込み、消費者支出も低迷している。
当該の出演者はアリババの通販サイト、タオバオ(淘宝)の商品紹介ライブ番組で7600万人のフォロワーを抱える李佳キ氏(キは王へんに奇) 。中国で最も有力なインターネット上の著名人の一人として知られ、口紅1万5000本を5分で販売したエピソードから「口紅王子」の異名をとる。
31歳の李氏は10日、ある視聴者のコメントに反応して物議を醸した。この視聴者は、同氏が番組内で販売する中国国内ブランドのアイブロウペンシルについて、79人民元(約1600円)という価格は高すぎるとコメントしていた。
李氏は商品価格が何年も変わっていない点に言及し、値段が高いとの見方を「明らかなでたらめ」と一蹴。「国内ブランドは(生き残りが)難しい」と指摘した。番組内でのこの発言を捉えた動画は、ネット上で広く拡散した。
李氏はまた、「時々は自分自身に理由があるのではないかと考えてみるべきだ。自分の給料が何年もたって果たして上がったのかどうか、自分の働きぶりが十分なものだったのかどうか、考えた方がいい」とも付け加えた。
ソーシャルメディア上で瞬時に拡散した動画に対し、多くのユーザーが批判の声を上げた。それらは李氏の発言について、不況の中必死で生計を立てている人々を「傷つける」ものだとしている。
中国のSNS「微博(ウェイボー)」のあるユーザーは、「自分たちは懸命に働いて月3000人民元を得ている。彼らのようなセレブリティーなら金を稼ぐのは簡単だ!」とコメントした。
中国の若年層の雇用不足は深刻で、政府は先月、若年失業率の発表を停止する方針を明らかにした。
大量の批判を受け、李氏は複数回の謝罪を余儀なくされた。11日午前には「不適切な」コメントであらゆる人々を不快にしたと認め、「本当に申し訳ない」と述べたものの批判は収まらなかった。ウェイボーでの同氏のフォロワーは、10日の発言以降110万人減少し、2930万人となっている。
ネットでの議論は李氏個人の収入やメンタルヘルスにまで及び、12日には「李佳キと燃え尽き症候群」と題されたトピックが1億4000万回閲覧された。コメントは1万5000件投稿されている。
中には李氏が昨年、3カ月間にわたり公の場から姿を消したことに言及するコメントもあった。この前に同氏は戦車に見立てた菓子を番組で紹介していたが、当時はこれが天安門事件に対する遠回しの言及だったとの見方が多くの人から出ていた。
今回の件で李氏にコメントを求めたが返答はない。
ネットでは「79人民元が庶民にとって意味するもの」というハッシュタグもトレンド入りした。多くのユーザーによると、その金額があれば数日分の生活費を賄えるという。
李氏は11日夜に再びライブ配信で謝罪。声を詰まらせて「2日間、反省を重ねてきた。皆を失望させて申し訳ない」と述べ、批判や提言は真摯(しんし)に受け止めるとした。
この謝罪の12日正午時点での閲覧件数は4億6000万回。投稿されたコメントは2万1000件に上った。
一方で、ここへ来てネットの著名人からは李氏を擁護する動きも出ている。中国共産党機関紙「環球時報」の元編集長、胡錫進氏は「毎日ライブ配信している人たちが時に間違ったことを口にするのは、許容しなくてはならない」「もし李佳キ氏に対して異常なまでに冷静で自制的な態度を求めるなら、彼はもう面白味のある人間ではなくなり、ライブ配信も無味乾燥なものになるだろう」との見解を示した。
その上で「世論全体がここまでの厳しさをよしとするのなら、それはいずれ我々の集団的利益にも跳ね返ってくるだろう」と警鐘を鳴らした。