公式には「存在しない」国々、ブラジル人作家が歴訪

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「未承認国家」に興味を持った作家のカネバー氏(中央)は、該当する16カ国をめぐり、その様子を著書にまとめた/Guilherme Canever
写真特集:「存在しない」国々、作家が綴る旅行記

「未承認国家」に興味を持った作家のカネバー氏(中央)は、該当する16カ国をめぐり、その様子を著書にまとめた/Guilherme Canever

(CNN) 独自の政府やパスポート(旅券)があり、市民がいて、時には通貨もある。しかし、さまざまな複雑な事情で公式には存在せず、地図にすら載っていないこともある。世界にはそんな国が数多く存在する。

ブラジル人の作家ギリェルメ・カネバー氏は、2009~14年にかけて、正式に国家として承認されていない16の国を訪れ、その経験を新著「Unrecognized Nations:Travels To Countries That Do Not Exist(仮題『未承認国家:存在しない国への旅』)」に記している。

国家の定義はさまざまな解釈が可能だが、国際法の下で国家と認められるためには、常住する住民が存在し、領土と国境を明確に管理し、独立して統治する能力を有し、他国との関係を築いている必要がある。

そして最後の難関は、国家として国連の承認を得ることだ。国連に承認されると世界の経済ネットワークの利用が容易になるなど、さまざまなメリットがある。

逆に国連の承認を得ていない国は、たとえ他国から承認されても正式に国家として認められず、その結果、多くの困難に直面する可能性がある。

カネバー氏は、ソマリランドへの訪問をきっかけに「未承認国家」に興味を持った。ソマリランドは、「アフリカの角」と呼ばれるアフリカ大陸東端に位置し、1991年以来、ソマリアからの独立を求めている。

91年にソマリアからの独立を一方的に宣言したが、まだ他のどの国からも主権国家として認められていない。

承認を得るための戦い

そのため、ソマリランドはこれまで数々の苦難に直面し、長年、経済危機にも見舞われている。

ソマリランドは他のどの国からも主権国家として認められていない/Guilherme Canever
ソマリランドは他のどの国からも主権国家として認められていない/Guilherme Canever

カネバー氏は、「ソマリランドは孤立無援の状態だ」とし、「同盟国がないため、存続に四苦八苦している」と付け加えた。

ソマリランドは失業率が高く、非識字率も高いが、カネバー氏は、困難に対してくじけない地元住民たちの強さに大きな感銘を受けた。

カネバー氏は、「住民たちから彼らが直面する困難について話を聞いた」とし、「多くの人が、海外で働く人々からの送金に頼っている」と付け加えた。

「ソマリランドは(国として)認められていないため、他国との交流が非常に難しい」

「(他国に)物を売るのも容易ではないため、多くの人が他国に出稼ぎに行く」

「非常に難しい状況だが、一方で多くの改善もみられる」(カネバー氏)

ソマリランドへの旅の後、カネバー氏は、ソマリランドと同様の問題を抱える他の国々の調査を開始した。

そして、一部の国からしか国家としての承認を得ていない10の独立した地域と、過去に独立していた、あるいは将来独立を目指す6つの自治区に絞り込んだ後、大旅行の計画を練り始めた。

カネバー氏は「世界の屋根」と呼ばれるチベットも訪れた/Guilherme Canever
カネバー氏は「世界の屋根」と呼ばれるチベットも訪れた/Guilherme Canever

カネバー氏の旅行先リストの中でも特に有名な「未承認国家」の1つが、欧州のバルカン半島中部に位置するコソボだ。

同盟国不足に悩まされているソマリランドとは対照的に、コソボは多くの支援国から恩恵を受けている。

2008年にロシアの支援を受けてセルビアからの独立を正式に宣言して以来、国際オリンピック委員会(IOC)に加え、100カ国以上から独立国家としての承認を得ているが、国連への加盟は果たしていない。

しかし、他の未承認国家とは異なり、コソボには海外から多くの旅行者が訪れている。その大半はアルバニア、トルコ、ドイツからだ。2018年には、海外からの旅行者が前年から19%も増加した。

「たしかにコソボは発展しているが、まだ多くの小さな問題が残っており、完全な独立国家となる前にそれらを解決する必要がある」とカネバー氏は指摘する。

住民との交流

カネバー氏は旅行中、宿探しに「カウチサーフィン」を利用した。カウチサーフィンは、旅先で宿泊先を探している旅行者と自宅を宿として無料で提供してもよいと考える現地の人々を結びつけるソーシャルネットワーキングサービス(SNS)だ。

カネバー氏がこのサービスを利用したのは、地元住民と関係を築き、存在自体が疑問視されている場所で暮らす人々の生活をより深く理解するためだ。

「これらの(未承認)国家への旅で最も気に入ったことの1つは、地元住民との交流が非常に独特なものである点だ」とカネバー氏は言う。

「地元住民が旅行者にサービスを提供しているという感じではなく、旅行者がそのコミュニティーに溶け込む」

「住民らは自宅を(宿として)提供してくれるだけでなく、彼らの活動にも参加させてくれる」とカネバー氏は言う。

カネバー氏は、これは住民らが心底から親切であると同時に、旅行者に対して好奇心があるためと考えている。

カメラに向かってポーズを取る西サハラの子どもたち/Guilherme Canever
カメラに向かってポーズを取る西サハラの子どもたち/Guilherme Canever

「あまり旅行者が来ない場所では、住民が旅行者に好奇心を抱いたり、自分たちが世界の他の国々からどのように見られているのか知りたがることもある」

「これらの国々の大半は、自分たちに大変誇りを持っており、住民の中には自分たちは外国の人々よりも幸せと考えている人もいる」(カネバー氏)

独立よりも大切なこと

南スーダンは、2011年にスーダンから独立し、国家として認められた世界で最も新しい国となったが、正式に国家として認められたい他の国々が、すぐにでも南スーダンと同じ特権を与えられる可能性は非常に低い。

カネバー氏は、自分は国境紛争の専門家ではないとした上で、自身の体験や、著書の執筆中に始めた広範な研究から、新たな境界線や国を作ることが、必ずしも、地上に存在するさまざまな問題を解決する最善策ではないことに気付いたという。

「これらの未承認国家の大半は、さまざまな問題を抱え、独立を目指していた少数派だった」とカネバー氏は言う。

「しかし、彼らは独立を果たすや否や多数派となる。そして彼らの領地にはなおも保護する必要がある少数派が存在する」

「境界線を引いて、新たに国境を定めても、地域に完全な民主主義がなければ意味がない」(カネバー氏)

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