世界最大の航空機、再び空を飛ぶ日は来るか
残念ながら、これは避けて通れない道のようだ。「今の時代に40年前の設計で航空機を建造するのはナンセンスだ」とソベンコ氏は付け加えた。「1号機の運用経験をもとに、機体の設計に修正を加えるほうが適切だという考えもありうるだろう」
An225は商用貨物機として設計されたわけではなかったが、90年代後半にはアントノフ社の多大な努力で商用向けに改造された。とはいえ、並外れた積載量にもかかわらず、乗組員の視点からすれば同機は依然として使いづらかった。貨物の搭載には機首を前傾させ――その挙動は「象のひざまずく様子」と呼ばれた――独自のレールと滑車で積み込まなければならなかった。
ユニークな設計により搬入口は機首の部分のみ。より実用的な小型の機種An124のような後部ランプはない。貨物フロアには補強材を使用することも可能で、既存の空港のインフラに従来より沿ったものにできれば、現代版の機体ができあがった際には魅力的な改善点のひとつとなるだろう。
費用は数億ドル? 数十億ドル?
An225はさまざまな飛行記録を打ち立てた/Ronny Hartmann/AFP/Getty Images
2機目のムリーヤ建造は安くないだろうが、具体的な費用を出すのは難しい。ウクライナの国営通信社ウクルインフォルム通信は製造コストが30億ドル(約3800億円)にのぼると発表し世間を驚かせた。2018年にアントノフ社は2機目の完成費用を最大3億5000万ドルと見積もっているが、この数字も今や上方修正の必要があるかもしれない。
「現段階では確実なことは何もわからない」とソベンコ氏は語る。「機体の回収部品の損傷具合や、どれだけ多くの修正や新しい機材の投入が必要かによって費用は変わってくる。費用の大部分は必要な証明検査の数にも左右されるだろう。だがいずれにせよ、最終的な数字は数十億ドル台ではなく、数億ドル台になるだろう」
コンサルタント会社エアロダイナミック・アドバイザリーの航空アナリスト、リチャード・アブラフィア氏も同意見だ。「機体が単にプロトタイプなのか、それとも完全な証明を取って商業使用するのか次第で変わる。証明を含めても、30億ドルよりは5億ドル前後と考えるのが確かに妥当だ」
アブラフィア氏いわく、現実的な問題は誰がそれを払うかだ。「この機体の商業活用はそれほど多くない。商業活用なしでどこから金を引っ張ってくるのか」
費用の大半はアントノフ社が負担することになることは想像に難くないが、他にも航空機や航空施設が破壊されたために同社はすでに甚大な損失を追っている。現在も規模を縮小して運営しているものの、今後の見通しは不透明だ。
「私は楽観的だ。アントノフ社の航空機が今後も空を飛び続けてほしいと心から願っている」とソベンコ氏は言う。「だが私は現実的でもある。2機目のムリーヤ建造に必要な費用は、終戦後のアントノフ社の財政状況や機体運用から見込まれる収入と関連付けられることは避けられないだろうとよくわかっている」