地球上で最も遠い場所「南極」で心と胃袋を満たす方法は?
移り変わる景色に常に魅了
過去10年間、デュコンセイユさんはフランスで最も高い場所に位置する山小屋、モンブランの「グーテ小屋」をはじめ、フレンチアルプスの数々の山小屋で管理人を務めてきた。
「私は移り変わる景色、美しい場所、高所に常に魅了されてきました。これらの地域でこの仕事をする人たちの世界は狭いので、別のシェフが基地のディレクターに私のことを話してくれたのです。ひとつの場所で働くことで、新しい扉が開かれる。こうして私はアルプスから南極へ行くことができました」とデュコンセイユさんは語る。
南極にいない時はフレンチアルプスに滞在し、標高4807メートルのモンブランに挑む登山客に食事や宿泊などの世話を行っている。
プリンセス・エリザベス基地のクルーは週6日働く。状況次第だが日曜日が休みとなる。その日はフィールドガイドに同行して、氷床から頂部が突き出たヌナタクを訪れるなど、自由に行動できるという。
「他のメンバーとの山歩きは楽しいです。私はランナーでもあるので、約1.9キロある滑走路を走ることも好きです。しかし日曜日は大抵、本を読んだり、昼寝をしたりして、翌週に備えます」(デュコンセイユさん)
チームの中には、クロスカントリースキーを楽しむ人もいれば、大きな斜面でアルペンスキーを楽しむ人もいる。もちろんリフトはないので、再び滑りたかったら自力で戻らないといけない。生物学者でありバードウォッチャーでもあるロベールさんは、白銀の大陸に足を踏み入れることができる貴重な機会についてこう語る。
「海岸に着くまでに、長さ約200キロにわたる氷が続きます。このエリアには美しい野生生物が生息し、鳥のコロニー(集団繁殖地)もあるので、我々は完全に孤独ではないのです。私は鳥に興味があるので、ここに来るといつもわくわくします。日曜日は機会があればヌナタクに行き、そこで繁殖している鳥を観察するか、休息します。天気次第です」
密接な関係にある食と士気
デュコンセイユさんは、人里離れた山岳地帯の山小屋を管理してきた経験から、料理の提供という枠を超え、故郷から遠く離れた場所に安らげる居場所を作るという心構えができている。
氷底湖や滑降風、東南極の氷床下にあるとうわさされる幅約482キロのクレーターなど、南極は世界で最も孤立した大陸というより、もはや全く別の惑星のようにすら感じられる。ロベールさんは基地について「スイスのシャレー(山小屋)のような快適さ」と表現したが、極度に孤立していることや、予測不可能な天候、故郷や家族と何カ月も離れることは、どんなに勇敢な人でさえも疲弊してしまう。
「南極では、食はチームの士気を高めるために重要なのです。長い1日を終えて皆が食卓を囲み、楽しく集えるようにすることは大事です。1日の終わりに皆が幸せになれるようなデザートやケーキを作るのが好きです」とデュコンセイユさん。
黄金色のブリオッシュやとろけるチーズといった形でクルーに喜びをもたらすデュコンセイユさんだが、自身にとっての喜びとは何なのだろうか。
「家族と離れた最初の数日はつらいですが、着いてしまえば、仕事に集中でき、かつ美しい自然に囲まれた環境に身を置くことになります。ここでの生活は刺激的で、常に何かが起きています。私たちは多くの人たちと科学的な活動を支えています」
再び南極を離れることは、うれしくもあり、悲しくもある。
「夏の終わりに帰国できるのはうれしいですが、南極を離れるのは悲しいという複雑な気持ち」とデュコンセイユさん。「信じられないような素晴らしい環境と、ここでしか体験できない生活があるのです」