アフリカの原野でライオンに出くわしたら 対応策を専門家に聞く
(CNN) アフリカのライオンには人を襲ったり、殺す能力があり、人を食べることすらある。一般的な推計では、年間約250人がライオンに襲われて死亡している。
米カリフォルニア州のサクラメント動物園によると、平均的な雄ライオンは体重が約225キロに達するという。また、狩りの大半を担う雌も最大で145キロに達することもある。
ライオンは、その体の大きさと筋肉に加え、強力な顎(あご)と鋭い爪を持ち、万が一襲われれば命を落とす危険性が高い。
科学誌「PLOS Biology」に掲載された、世界で発生した大型肉食動物による人間襲撃に関する研究論文によると、一般に襲われて死亡した人の割合は、トラやライオンといった大型ネコ科動物による襲撃が最も高く、襲われた人の65%が死に至った。また襲われた人の大半は成人で(全体の88%)、子どもはほとんど被害に遭わなかったことが分かった。
しかし、だからと言って夢のサファリ(狩猟・探検旅行)をあきらめる必要はない、と語るのは、アフリカ野生生物基金(AWF)の主任科学者フィリップ・ムルティ氏だ。ムルティ氏によると、旅行者がライオンに襲われることはめったにないという。
また、アフリカ旅行専門の旅行会社ディスカバー・アフリカ・サファリズの共同創業者兼ディレクター、アンドレ・ファン・ケッツ氏も、サファリ旅行者が野生動物に襲われるケースは極めてまれで、襲われる人の大半は国立公園や動物保護区近くの農村の住民たちだと語る。
しかし、襲われる可能性は極めて低いとはいえ、ゼロではない。そこでサファリを安全に楽しむ方法や、ライオンやライオンの群れに出くわした時の対処法を専門家に聞いた。
アフリカに行く前にすべきこと
草地に横たわるライオンを車両から撮影するツアー客ら/Martin Harvey/The Image Bank RF/Getty Images
「安全なサファリは、アフリカの地に足を踏み入れる前から始まっている」とムルティ氏は言う。
ムルティ氏は、旅行者は出発前に目的地やそこで目にする動物について予習すべきだと語る。
例えば、ライオンたちが走ったり、ほえたり、獲物を捕らえたり、交尾をする姿を何時間も眺められると期待してサファリに向かう人は全く予習をしていない。ライオンは通常、1日約20時間は寝たり、のんびりと過ごす。
またムルティ氏は、良いガイドを選ぶことが大切だと強調する。
「サファリが初めての人は、経験豊富なガイドに同行してもらうべきだ。優良なガイドがいるサファリ会社の一部は料金も高めだが、評判は高い。(中略)会社のウェブサイトを見てもいいし、口コミを参考にしてもいい」(ムルティ氏)
最善策はトラブルを回避すること
ナミビアの国立公園でシマウマを狩る雌ライオン/MogensTrolle/iStockphoto/Getty Images
アフリカの原野で危険を回避するための最善策は、ガイドのアドバイスに従い、安全な距離を取って(動物たちを)観察することだ、とムルティ氏は言う。では安全な距離とはどれほどの距離か。
ムルティ氏によると、車を離れた場合は100メートルだが、多くの公園では、徒歩が許されている特別なサファリでない限り、車外に出るのは違法だという。また見通しの悪い茂みや森林の中を歩くのは、開けた平原を歩くよりもさらに危険性が高いとムルティ氏は指摘する。
また、サファリのために高品質の双眼鏡やカメラのレンズを購入するのも良い。これらがあれば、動物を見るために必要以上に近づかなくて済む。
他に、ライオンを刺激したり、余計なトラブルに巻き込まれないために留意すべき点を以下に列挙する
群れを分断してはいけない:旅行者は決して車でライオンの群れの中に入り、ライオンたちを分散させてはいけないとムルティ氏は言う。群れる習性のあるライオンは、群れが分断されると怒る可能性があるという。
一人で茂みに入ってはいけない:ライオン観察やサファリの冒険では、単独行動、特に経験の浅い人の単独行動は危険だとファン・ケッツ氏は警告する。一人でいると動物に狙われやすい上に、何らかのトラブルが発生した場合はライオンや他の動物の襲撃を回避するために助けが必要になり、さらに自分が襲われた場合も誰かに助けを呼んでもらう必要がある。
車外に出ない:ファン・ケッツ氏によると、多くの野生ライオンはすでに車に慣れており、車のすぐそばを歩くこともあり、触れるくらいの距離まで来ることもあるという。
またファン・ケッツ氏の会社の同僚のスティーブ・コンラディ氏は「大半のライオンは車やテントを(形が変化しない)一つの固体と認識している(中略)よって、車の窓から腕を出して車の輪郭を壊してはいけない」と付け加えた。
狩りのピーク時を避ける:夜明け、夕暮れ、夜には、狩りをしているライオンやライオンの群れに遭遇する可能性が高まる、とムルティ氏は言う。注意は常に払うべきだが、これらの時間帯は獲物を探しているライオンに出くわす可能性が高い。またライオンは夜間の視力が人間よりはるかに良いことも忘れてはいけない。
獲物が移動する時期は特に注意する:東アフリカでウィルドビースト(ヌー)やシマウマなどの大群が移動する光景を眺めているなら、その時期はライオンや他の肉食動物にとって狩りの絶好のチャンスであることを忘れてはならない、とムルティ氏は言う。
交尾中のライオンやライオンの子どもたちにちょっかいを出してはいけない:交尾中の雄ライオンは非常に攻撃的になることがある、と旅行会社ケニア・ジオグラフィックは警告する。ライオンの求愛行動には興味をそそられるかもしれないが、近づきすぎたり、邪魔をしてはいけない。また母ライオンは母グマと同様に保護本能が強いため、母ライオンとその子どもたちの間に入ってはいけない。
危険の前兆
雌ライオンのグループのそばに立つ若い雄ライオン。群れで過ごすライオンに刺激を与えることは禁物だ/Robert Muckley/Moment RF/Getty Images
自分がその場にいることにより、ライオンの群れが動揺し始めたり、ライオンが驚いた場合に注意すべき危険の前兆として、ファン・ケッツ、コンラディ、ムルティの3氏は、低いうなり声、ライオン側のアイコンタクト、攻撃の準備をしているかのような防御姿勢、真っすぐに立ち、揺れている尾などを挙げた。
ファン・ケッツ氏によると、これらの行動は通常、(ライオンからの)警告信号を意味するという。
「『腹が減った、お前を食べたい』という意味ではなく、『お前は俺の縄張りに入ってきた。ここから出て行くチャンスを与えてやる』というメッセージに近い」(ファン・ケッツ氏)
ここで最も取ってはいけない行動は、ライオンに背を向けて逃げることだとムルティ氏は言う。
サンディエゴ動物園野生生物同盟によると、第一に、ライオンは走る速さが人間よりも速く、短時間なら時速約39~60キロの速さで移動可能だという。よって人が安全な場所に到達する前にライオンが追いつく可能性が高い。
第二に、逃げることにより、ライオンは人が自分を恐れており、獲物ではないかと考える。そして当初は人を試すために襲うふりをしていただけかもしれないが、今度は本当に襲ってくる。
よって、逃げるのではなく、内心は恐怖で震えていても、足を踏ん張り、一歩も引かない姿勢を見せるべきだと専門家らは口を揃える。
ムルティ氏によると、ある村人はライオンに襲われそうになった時、着ていた衣服を振ったという。それにより自分を大きく見せることができる。また腕を振るのも同じ効果が期待できる。
またライオンと対峙(たいじ)している時は、ライオンと目を合わせたまま、安全な場所に達するかライオンが興味を失うまでゆっくり遠ざかるのが良いとムルティ氏はアドバイスする。
ライオンに襲撃されたら
ケニアのマサイマラ国立保護区で獲物を捕食するライオン/Anup Shah/Stone RF/Getty Images
非常にまれなケースではあるが、旅行者が実際にライオンに襲われた場合、特に旅行者が銃を所持していなかったり、使えない場合は、取りうる選択肢が非常に限られると専門家らは指摘する。
コンラディ氏によると、同じグループの別のメンバーが邪魔をすることにより、ライオンが混乱し、逃げる時間が稼げるかもしれないという。これも一人で旅行しないことが大切である理由の一つだとコンラディ氏は指摘する。
では、もしライオンが襲ってきたらどうするか。ムルティ氏は「その場合は反撃しなければならない(中略)腕を振り上げ、なるべく大きな音を立てること」とアドバイスする。あとは、ライオンは自分を殺すつもりはなく、単に傷つけたいだけで、その後立ち去ると願うしかない。
「しかし、この状況に至っては、できるアドバイスはほとんどない」とムルティ氏はさじを投げる。
ファン・ケッツ氏もライオンに襲われた人への最後のアドバイスとしてこう述べた。
「ひたすら祈るのみだ」