幸せの国ブータン、住民に聞いた実際の住み心地とは

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ブータンの道路に信号機は設置されていない。首都ティンプーの交通量の多い道路などでは警官がブースに入り交通整理にあたる/Kuni Takahashi/Getty Images

ブータンの道路に信号機は設置されていない。首都ティンプーの交通量の多い道路などでは警官がブースに入り交通整理にあたる/Kuni Takahashi/Getty Images

世界のパスポート(旅券)をビザ(査証)なしで渡航可能な国や地域の数で比較した「ヘンリーパスポート指数」のランキングで、ブータンのパスポートは87位にランクされており、保有者は55カ国にビザなしで渡航可能だが、その中に米国、オーストラリア、欧州連合(EU)は含まれていない。

またブータン唯一の国際航空ハブであるパロ国際空港(PBH)は、二つの山の谷間に位置し、安全に離着陸できるのは小型機に限られるため、バンコク、ダッカ、カトマンズ、ニューデリー行きの短距離便しか利用できない。

しかし今、南部ゲレフに新しい国際空港の建設が予定されている。ゲレフは地形が平坦なため、より長い滑走路を設置するためのスペースを確保できる。そのため中東や欧州などへ飛ぶジャンボジェット機も利用できる可能性が高い。

ブータン政府のデータによると、国民1人当たりの年収は11万5787ニュルタム(約20万円)だ。パロ空港発バンコク行きのフライトの価格が5万円以上なので、多くのブータン国民にとって、海外旅行はまだ高嶺(たかね)の花だ。

また外国人がブータンに移住するのも容易ではない。まず、土地を購入できるのはブータン国民に限られる。ブータン人と結婚している場合でも、ブータン国籍を取得するには、必ず国王の個人的な承認を得る必要がある。

今必要なのは「変化」

学生時代をインドで過ごし、その後ブータンに戻ったワンモ氏は、ブータン国民と外国人の両方の視点から自国を見てきた。

ワンモ氏は「我々の生活様式は時代遅れだ」とし、「新しい生き方を学び、受け入れる必要がある」と主張する。

ワンモ氏は、ビジネスオーナーにとって不便と考える職場文化の例をいくつか挙げた。その一例として、ブータンではオンラインで口座開設の手続きが可能な銀行を見つけられなかったという。

一般的にブータンのオフィスには、会議のスケジュール調整、不在時の自動返信メール、オンラインカスタマーサービスがない、とワンモ氏は指摘する。

ブータンの大半の職業では、仕事中、男性は「ゴ」、女性は「キラ」と呼ばれる民族衣装の着用が義務付けられている。

またグリーンブータンのテンペル氏によると、ブータンの人々は地域社会を重視しており、誰もが顔見知りで、互いを気に掛けながら生活しているという。招かれなくても隣人宅に立ち寄ったり、村全体で生まれたばかりの赤ん坊を見に行ったり、退院した人を温かく迎えるのも決して珍しくない。

しかしワンモ氏は、この共同体意識に息苦しさを覚えることがあるという。周りの人々に、一人で夕食を取りたいとか、毎日来客があるのは困るとはなかなか言いにくい、とワンモ氏は本音を漏らす。

ワンモ氏は、自ら経営するレストランやカフェのスタッフに旅行者中心の思考を身に付けるよう教育しているが、なかなか変化は現れないという。

「外国産の服を着たり、車を所有したりしているからといって、それだけで思考や意識が変わるわけではない」とワンモ氏は言う。

「(変化によって)我々は大きな打撃を受けるだろう。変化を歓迎しない人もいれば、恐れる人もいる。変化によって何が起こるのか、また自分たちが生き残れるのかも分からないからだ。しかし、我々が一つの信念を共有している限り、これを成し遂げる必要がある。我々にできないことはない」(ワンモ氏)

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