(CNN) 2週間前、多くの保守系の論客たちは時間を割いて2つの出来事に焦点を当て、バイデン米大統領の能力不足があらわになったと主張した。1つ目は大統領専用機「エアフォースワン」搭乗の際、タラップを上がる途中でつまずき、転倒したこと。2つ目は詳細なメモ(台本と呼ぶ解説者もいた)を見ながら、就任後初の公式記者会見に臨んだことだ。
バイデン氏のきまり悪げな様子をとらえた動画は一部のソーシャルメディアで拡散し、その週の終わりまで保守系のラジオ番組で広く紹介された。テレビ局の中にもこれらを報じたところがあった。
ランヒー・J・チェン氏/Brunswick Group
また先週物議をかもしたのは、バイデン氏が愛犬をもっと厳しくしつけるべきかどうかという問題だ。報道によると2匹いる飼い犬のうちの1匹が、ホワイトハウスの床に粗相をしたという。しかもこちらは2度目なのだが、政府職員にかみつくという事態も起きた。
こうした論評がなされることについては、仕方がない部分も間違いなくある。いかに多くの進歩派メディア人が大統領時代のトランプ氏を取り上げていたかを思えば、当然の帰結といっていい。彼らは前大統領のちょっとした手違い、うっかりミスを躍起になって伝えていた。しかし保守派は、これと同じ行動を取るのに慎重になった方がいい。バイデン氏のうわべの欠点に気を取られすぎると、木を見て森を見ない状態に容易に陥ってしまう。
より重要な論評は、バイデン氏の大統領職の中身に向けられるべきだ。同氏は大掛かりな政策変更をすでに実施し、さらにこの先数カ月、数年単位で提案もしてくる。連邦議会と各地方議会の共和党議員は、バイデン氏の政策に攻撃対象を絞った方がいい。そしてさらに重要なのは、自分たち独自の計画を提示して、問題の解決を図ることだ。バイデン氏が対処するつもりでいる問題のいくつかについては、そうした対案を示す必要がある。
バイデン氏は自らに与えられた機会を認識し、米国の政界に足跡を残そうとしている。事実、最近小規模な歴史家のグループをホワイトハウスに招待し、大統領職を務めるうえで適用し得る教訓を議論した。変革主義者としてフランクリン・ルーズベルトと同等の人物になりたいと熱望する同氏は、伝えられるところによると出席者に対し、思い切った政策変更を行った場合の影響について尋ねたという。機会が与えられれば大胆に政策を変えるというのは、まさにバイデン氏がここまでたどってきた道筋にほかならない。
まず第一に、バイデン氏が署名を経て法として成立させたり提案したりする財政出動の額は、近年のどの大統領をも簡単に圧倒するとみられる。これは連邦政府の負債がすでに我が国の経済規模を上回っている状況での話である。同氏は先週、2兆ドル(約220兆円)規模のインフラ計画を導入すると発表。これまでよりはるかに多くの道路や橋に資金を投じるとした。実際には、計画のわずか5%前後しかそうした優先事項には充てられない。全体のごく一部が「伝統的な」インフラの優先事項とみなし得るものに向かうのであって、残りは気候変動の緩和、学校や長期の介護施設などの近代化、製造業のテコ入れに使われる。
またこの法案は下院を通過した変更点も含んでおり、これによって労働者が組合を作るのが容易になる。いわゆる「労働権」法の効力を弱めるものだが、同じ変更は27の州(大半が共和党支持者の多い州だ)でも可決された。労働権法が発効している状況なら、労働者は組合に加入するかどうかを自分で選べる。また組合がすべての労働者(組合員であろうとなかろうと)に組合活動の費用負担を会費の支払いを通じて義務付けることも禁止される。組合労働者は長年にわたって「労働権」法に反対し、その影響力を制限する方策を探ってきた。
こうした項目の多くは、確かに進歩的政策にとっての「欲しいものリスト」の一部にほかならない。しかし大統領の計画を批判するなら、注目するべきはその財源に関する事実だ。それはトランプ政権時代に可決した減税(とりわけ法人税率の引き下げ)の一部を撤回することで賄われる。さらに計画への「支払い」の手段にさえ、財政上のごまかしが必要になる。バイデン氏は15年かけて、8年分の支出の財源を賄いたいとしている。あるアナリストが指摘したように、これは提案した出費の半分の額しか支払わないのと同義である。普通、財政のアナリストが着目するのは、財政出動のコストが10年間でどのくらいになるのか、同期間にどれだけ歳入を引き上げればその分を賄えるのかという点だ。ところがバイデン氏の計画に含まれる増税は、最初の10年間にかかる支出の一部を賄うものでしかない。つまり相当な量の支出(約1兆5000億ドル)は、赤字財政で賄われるということだ。
この支出のすべては、1兆9000億ドル規模の米国救済計画法に続くものである。同法には新型コロナウイルス被害に対する救済策のほかにもリベラル的な政策の優先項目が複数含まれる。例えば医療保険制度改革(オバマケア)の拡充、運営の杜撰(ずさん)なケースが多い複数の年金プラン(労働組合により共同管理されているところもある)への800億ドルの資金投入、そして民主党支持者が多い州の州政府や自治体に対する3500億ドル規模の緊急援助などだ。こうした州で失業率が高いのは、感染対策としてより厳格な経済封鎖を実施したことも一因だ。にもかかわらず財政上の恩恵を被るのはつり合いが取れない。
さらに忘れてはならないのは、大統領就任当初のバイデン氏の仕事ぶりだ。ほんの2カ月と少し前のことになるが、同氏は大統領令を乱発し(最近の前任者たちが就任後数週間で署名した数の3倍)、トランプ氏の重要な行政措置を無効化。政策の方向性を一新すると明確に打ち出した。
バイデン氏はペンの力を駆使して、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」に復帰。トランプ前政権が掲げた世界保健機関(WHO)からの脱退も撤回した。オバマ政権時代の移民政策を強化し、連邦政府職員の団体交渉力を回復させ、米国南部国境の壁の建設を止めた。すべてではないにせよ、トランプ前政権下での政策のほとんどは、保守派から広く支持されていた。これらの政策への言及はおそらく、ある部分で現大統領とその政権が行っていることへの実質的な批判になり得るだろう。
だがそうした批判はなされず、あまりに多くの右派がバイデン氏について、ワシントンから長い間離れすぎではないかといった議論に時間を費やしている。本人の失言などにしてもそうで、その手の論評は、大統領の任期を終えるにあたってどのような審判がバイデン氏に下るのかといった問題とほとんど何の関係もない。
仮に有権者が、2022年の中間選挙で議会多数派を共和党の手に戻し、2024年の大統領選挙で現職大統領を追い落とす決定を下したとしても、それは保守派が現在バイデン氏に集中砲火を浴びせているどの問題ともほぼ無関係である公算が大きい。そうした結果が出る理由は、保守派が中身のある政権構想を提示し、より多くの人々を引き付けたからだ。そして、なぜバイデン氏と民主党の追い求める政策はうまくいきそうもないのかを、首尾よく有権者に伝えたからである。
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ランヒー・J・チェン氏は米シンクタンク、フーバー研究所で米国の公共政策を研究するリサーチフェロー。2012年の米大統領選で共和党のミット・ロムニー大統領候補とポール・ライアン副大統領候補の政策担当責任者を務めたほか、米共和党上院委員会(NRSC)の政策担当上級顧問だった経歴も持つ。記事の内容はチェン氏個人の見解です。