OPINION

米中間選挙、民主党の勝機を損なうスローガン

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犯罪を争点にしたがらない米民主党の傾向は、来る中間選挙で裏目に出る可能性がある/David Dee Delgado/Getty Images

犯罪を争点にしたがらない米民主党の傾向は、来る中間選挙で裏目に出る可能性がある/David Dee Delgado/Getty Images

(CNN) 犯罪は重要な争点だ。

言ってしまった。問題は、そう口にする民主党の候補者が足りないことだ。中には、この争点についてどうしたらいいのか分からないように見受けられる候補者もいる。

ポール・ベガラ氏
ポール・ベガラ氏

筆者は単純な人間ではない。一部の共和党議員が犯罪を符号として用い、人種の色合いを帯びた政治的攻撃を行っているのは知っている。アラバマ州のトミー・タバービル上院議員のケースに至っては、「色合い」の部分を落としても差し支えない。

民主党議員は「犯罪を望んでいる」。タバービル氏はネバダ州でのトランプ前大統領の集会で、MAGA(トランプ氏の掲げるスローガン、<米国を再び偉大に>の頭文字)仲間に向かってそう息巻いた。「なぜなら彼らは人の持っている物を奪いたがっている。人の物を支配したいと考えているからだ」。加えて同氏はこうも言った。民主党議員はアフリカ系米国人への「償いを望んでいる」。奴隷にされた人々を祖先に持つ人たちへの償いだ。「彼らは犯罪を犯す人々に対しては、それだけの借りがあると考えている」。

筆者の友人であるバカリ・セラーズ氏は、疑いなく膨大な数の仲間を代表する形でこう言った。「トミー・タバービルは地獄行きで構わない」。同氏の指摘によると、大学のフットボールのコーチとして、タバービル氏は黒人アスリートたちの無償の努力から巨万の富を得た。そうした人種差別的な言葉を元大学コーチから聞かされるのはいかにも腹立たしい。本人が金持ちになったのは、アフリカ系米国人の男たちがフィールドで命を危険にさらしたおかげなのだから。

人種差別的な攻撃に走る政治家を罵倒する以上に、民主党議員は犯罪についてどう対処するべきだろうか? まずはそれを語る上でやってはいけない手法を挙げさせてほしい。

長年政治に携わってきた中で、筆者は「警察予算を打ち切れ」というスローガンほど破壊的なものを見たことがない。我が愛する民主党議員に公正を期して言うなら、予算打ち切りを支持しているのはごく一握りの左派活動家のみだ。現行の選挙シーズンで、こんな馬鹿げたことを問題にしている民主党議員、実際の民主党の候補者は全く見当たらない。圧倒的多数の米国人は、大半のアフリカ系と大半の民主党議員を含め、警察予算の打ち切りに反対している。それでも上記のスローガンがもたらす政治的ダメージは実際に存在する。

犯罪について語りたがらない民主党議員もいる。彼らが期待するのは、多くの有権者の正当な怒りが最高裁に向くことだ。中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド事件」の判例を最高裁が覆した問題の陰に隠れ、犯罪が争点として見えにくくなるのを望んでいる。こうした人々の姿勢は間違いだと筆者は思う。賢明な民主党議員の多くは、犯罪に関する実績を活用し、争点を相手の党に譲り渡すのを拒んでいる。その党を主導するドナルド・トランプ氏に言わせると、昨年1月に起きた連邦議会議事堂襲撃事件は「議会警察と議事堂に向かった人々との愛情の応酬」だった。事件当時は多くの警官が負傷し、後になって5人が死亡しているにもかかわらず。

素晴らしい事例が、民主党のキャサリン・コルテスマスト上院議員(ネバダ州選出)だ。上院で最も危機的状況にあるとも言われるコルテスマスト氏は、ネバダ州司法長官のアダム・ラクサール氏と接戦を演じている。コルテスマスト氏はラクサール氏の前任の州司法長官で、連邦検事を務めたこともある。夫は元警察官であり、法執行機関からの支持を宣伝する選挙広告も打っている。州内の都市リノに勤務する共和党員の警察署長の支持を取り付けてさえいる。

コルテスマスト氏が犯罪と戦う人物としてあまりに強い印象を与えたため、ラクサール氏は司法長官職を引き継ぐ際、同氏を「手本となる存在」と呼んだ。また司法長官を選ぶ選挙への出馬時には、同氏が「卓越した仕事をした」と称賛した。果たしてコルテスマスト氏は、犯罪への厳しさに関する信用にものを言わせて上院に戻ることができるだろうか? 筆者には分からない。それでも仮に同氏が犯罪に力を入れていなかったなら、この選挙戦はすでに終了しているかもしれない。

バル・デミングズ下院議員(フロリダ州選出)も、臆することなく犯罪を争点にする民主党議員の一人だ。同氏の陣営のウェブサイトを見れば、寄付を呼び掛けるバナーのすぐ下に、警官の制服に身を包んだ本人の画像がある。

デミングズ氏は27年間をその制服姿で過ごし、オーランドで最初の女性警察署長になった。ある選挙広告の中では大股で堂々と画面を横切り、巡回区域を見回る警官さながらの姿を披露する。背後には、制服を着た本人の画像が写し出されている。

そこに重なるナレーションが同氏の実績を列挙する。「これ以上ないほど劇的な凶悪犯罪の減少(以下略)」。続けて候補者自らが語る。「上院で、私はフロリダ州を悪しき考えから守る。例えば警察予算の打ち切りだ。とても正気の沙汰とは思えない」。その上で「今こそ地元の警官を上院に送る時だ」と締めくくっている。

これこそ、犯罪に力を入れるということに他ならない。

デミングズ氏は現職のマルコ・ルビオ上院議員(共和党)に対し、最近の世論調査で5ポイントのリードを許している。しかしルビオ氏は大事を取っているのか、あるいは焦っているのか、物議を醸す広告の中でデミングズ氏を非難。「男の子を女の子にする」といったような「過激な左派の方針」を支持していると強調した(オーランドのWESH―TVはファクトチェックを行い、ルビオ氏の主張を「虚偽」と位置付けた)。

コルテスマスト氏にせよデミングズ氏にせよ、選挙の行方は接戦で予断を許さない。しかし犯罪に対して強い立場で臨むことにより、どちらの女性もいかにしてこの争点に対処すべきかを民主党に示している。

当然のことながら、多くの民主党議員は、数十年の警官としてのキャリアや複数年に及ぶ検察官の経験を引き合いに出すことはできない。それでも中道左派のシンクタンク、サードウェイの最近の研究を読み、その内容を売り込むことは可能だ。彼らはそれをするべき、いやしなくてはならない。サードウェイの調査によれば、民主党議員は実際のところ犯罪との戦いについて共和党議員より格段に良い仕事をしている。少なくとも殺人率という、1つの重要な測定基準に関する限りは。

2020年、トランプ氏が制した州の1人当たりの殺人率は、バイデン氏が勝利した州より40%高かった。実は1人当たり殺人率の上位10州中8州では、今世紀の全ての大統領選で共和党の候補者に軍配が上がっている。タバービル氏の愛すべき地元、アラバマ州は殺人率の高さで4番目。それを上回るのはミシシッピ、ルイジアナ、ケンタッキーの各州のみだ。

共和党議員はこう反論するかもしれない。犯罪の問題というのは州ではなく都市についてのものだと。よろしい。ではフロリダ州ジャクソンビルを見てみよう。同市の市長は共和党だが、殺人率は民主党の市長を抱えるニューヨーク市のほぼ2倍だ。共和党のケビン・マッカーシー下院院内総務の生まれ故郷、カリフォルニア州ベーカーズフィールドもまた市長は共和党だが、殺人率は民主党のナンシー・ペロシ下院議長の愛するサンフランシスコよりずっと高い。殺人率で全ての状況が分かるわけではないとはいえ、地域全体の幸福感、あるいはその欠如の一因となっているのは間違いない。

サードウェイの研究は、米国の地方における殺人に関する驚くべき事実も暴露した。「殺人率の増加が著しい上位5州中3州はトランプ氏が制した州だった。増加率はそれぞれワイオミング州が91.7%、サウスダコタ州が69%、ネブラスカ州が59.1%だった。これらの州は明確に地方であり、犯罪の議論を席巻する都会の混沌(こんとん)というパターンに適合しない」。

犯罪にまつわる複数の事実は、民主党に味方している。民主党は今こそこの争点について、防御から攻撃に転じなくてはならない。彼らに今必要なのは、争点を力づくで奪い取れると信じる勇気だ。共和党が長年、事実に反して、自分たちのものだと主張してきた争点を。

ポール・ベガラ氏は民主党の戦略担当者であり、CNNの政治コメンテーター。ビル・クリントン氏の1992年の大統領選で政治コンサルタントを務め、同氏の政権下では顧問に就任した。記事の内容は同氏個人の見解です。

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