(CNN) 「上院の共和党議員は、米国史上もっとも長く共和党のトップに居座っているミッチ・マコネル氏を引きずり下ろすべきだ」。ドナルド・トランプ前大統領の政治集会では、こうした発言がさりげなく出てくる。
だが、共和党・上院院内総務のマコネル氏(80)は、しかとメッセージを受け取った。
マコネル氏は「票は確保した」と素っ気なく語り、すでに再任に十分な支持を得ていることを示唆した。上院院内総務の在任記録は、40年以上前の民主党のマイク・マンスフィールド議員のものが過去最長だが、マコネル氏は次の会期で記録を更新する見込みだ。
とはいえ、共和党が来年の上院で多数派となるか少数派となるか、そしてマコネル氏が2024年以降も共和党トップを続投するかどうかは、まったく別の問題だ。
マコネル氏は多岐にわたるCNNとのインタビューで、上院での過半数獲得に向けた大一番の展望を語り、共和党が過半数を取ったあかつきには、指名した候補者の対応に用心するようジョー・バイデン大統領に警告した。ネブラスカ州の次期上院議員に関する個人的な希望を語り、民主・共和が同数の議席を占める上院で共和党議員から反感を買った投票について弁明したが、自分や妻イレーン・チャオ氏に対するトランプ氏からの無礼な個人攻撃については踏み込まなかった。中間選挙の直前に、トランプ氏との争いで世間の関心をそらしたくないという意図がはっきり見て取れた。
共和党の間では、上院奪還の見通しを懸念する声が高まっている。特にジョージア州では、上院議員選の共和党候補ハーシェル・ウォーカー氏が13年前に女性の中絶費用を支払ったという疑惑も持ち上がった。そんな中、マコネル氏は過半数獲得の戦いがまさに「紙一重」だとし、22年の選挙で再び共和党が惨敗するかどうか判断するのは時期尚早だと述べた。10年と12年の中間選挙では共和党候補が本選で精彩を欠き、大打撃を受けた共和党は上院での過半数を逃した。
「明らかに10年と12年は、シャロン・エンジェル、クリスティン・オドネル、トッド・エイキン、リチャード・マードックで大変な思いをした」。それぞれネバダ州、デラウェア州、ミズーリ州、インディアナ州の本選で敗れた候補者について、マコネル氏はこう語った。「10年と12年は明らかに問題だった。今回も苦労するのか、致命傷を負うのか、大問題となるのか、(来月になれば)わかるだろう」
中間選挙終盤、マコネル氏は相当な時間を割いて、自ら率いる特別政治活動委員会(スーパーPAC)「セネート・リーダーシップ・ファンド(SLF)」から多額の資金を継続的に投入してテレビ放映枠の獲得に力を注いでいる。マコネル氏は、中絶反対の立場を取るウォーカー氏を支持する意向を示した。ウォーカー氏は、元妻の1人に中絶を要求したという疑惑を否定している。
マコネル氏はウォーカー氏の暴露記事を懸念しているかという質問に対し、「我々はこれまで通りウォーカー氏を支持する。SLFを通じてあらゆる努力を払い、最後まで同じ姿勢を貫く」と述べ、選挙の行方は民主党候補のラファエル・ワーノック氏とバイデン大統領の連携にかかってくるだろうと主張した。
アメリカンフットボールの元花形選手で、トランプ氏の後押しで初出馬し、予備選ではマコネル氏の推薦を受けたウォーカー氏について、「かなり頻繁に話をしている」とマコネル氏は語った。「陣営はなんとか踏みとどまり、最後まで戦い抜くだろう」
21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件で、トランプ氏は「事実上の責任、および倫理的責任がある」とマコネル氏が発言して以来、両者は明確に対立している。トランプ氏の弾劾(だんがい)裁判では反対票を投じたものの、マコネル氏は前大統領に言及するのを避けたり、トランプ氏本人や同氏の取り巻きには取り合わないようにしたりと苦労してきた。トランプ氏はつい最近も自身のソーシャルメディアでマコネル氏を攻撃し、マコネル氏には「死の願望」がある、「国を道連れにするつもりだ」と言って、法案でマコネル氏が投じた票を批判した。
マコネル氏は「その件については何も言うことはない」と述べ、この件に関するトランプ氏からの攻撃に対して初めて応じた。
トランプ氏は同じ投稿の中で、マコネル氏の妻チャオ氏にも人種差別的な攻撃を浴びせた。台湾に生まれ、米国民として帰化し、トランプ政権下では運輸長官も務めたチャオ氏を、トランプ氏は「中国びいきの妻、ココ・チョウ」と呼んだ。
妻に対する人種差別的な発言は容認できるかという質問に、マコネル氏は答えようとしなかった。
「大統領が退任して以来、私がトランプ氏の発言に反応したのは、『オールド・クロウ(老カラス)』とニックネームをつけられた時だけだ。あれは私も気に入っているし、賛辞として受け止めた。なにしろヘンリー・クレイが好きだったバーボンの銘柄だ」と言い、この件についてはこれ以上の言及を控えた。
(インタビューは7日に行われたが、その後の週末には共和党のトミー・タベルビル上院議員=アラバマ州選出=がトランプ氏の集会で人種差別的な発言をしている)
中間選挙まで1カ月を切った大事な時期に前大統領と丁々発止のやりとりを繰り広げれば、共和党への関心をそらしかねないことを、マコネル氏は十分理解している。マコネル氏にとっては、トランプ氏のようなふるまいをする共和党員が増えていることよりも、選挙が「盗まれた」というトランプ氏の嘘(うそ)と戦ったがためにワイオミング州の予備選挙で敗退したリズ・チェイニー議員のような、共和党の伝統に固執する議員のほうが気がかりだという。選挙で勝つことが唯一の目標だとマコネル氏は言う。
共和党にはトランプ寄り、チェイニー寄りのどちらの方向に進んでほしいかと尋ねると、「リトマス紙は持ち合わせていない」とマコネル氏は答えた。「私が支持するのは共和党の指名を受けた候補者、そして選挙で勝つことだ。共和党が勝利すれば、民主党ではなく我々が政策を決めることになるのだから」
共和党トップとしてのマコネル氏の今後
だが11月の中間選挙の後、上院で行われる無記名投票で票を集めるのはトランプ氏ではない。数十人の共和党候補に話を聞いたところでは、来月の中間選挙で共和党が勝とうが負けようが、マコネル氏がトップの座を維持するのはほぼ確実だ。
公式か非公式かを問わず、マコネル氏の上院の議席と院内総務の座に対する関心はすでに高まり始めている。議会では、マコネル氏がいつ院内総務を退任するか、決断のタイミングによって後継者争いに大きな影響が出る可能性もある。現在、共和党ナンバー2のジョン・スーン上院議員(サウスダコタ州選出)は、次の会期終了と同時に任期切れとなるためだ。
25年1月に第118回会期が閉会すると同時にマコネル氏が院内総務から退けば、スーン議員にとっては一歩リードとなる。だがマコネル氏が続投することになれば、次期ナンバー2の座が戦いの場になりうる。
マコネル氏の決断が待たれる中、後継者を目される人々はマコネル氏の退任に備え、トップの座に関心を示している。