(CNN) どうやら米国のペンス前副大統領は、かつての上司の前職に就きたいと考えているようだ。当の上司だったトランプ前大統領も、その職務への返り咲きを2024年に果たそうとしている。
マイケル・ダントニオ氏
16日に行われたCNNの対話集会で、ペンス氏は24年の大統領選に向けてトランプ氏よりも「良い選択肢」が現れると信じていると語った。ただその選択肢に自分が含まれるのかどうかについては明言せず、「随時情報を伝える」と述べるにとどめた。
しかしペンス氏が出馬を表明すれば、トランプ氏から攻撃されるのは避けられない。繰り返し背信行為に走ったとの非難にさらされるだろう。ペンス氏は20年の大統領選で、選挙結果を認証する役割を担った。
しかし見たところペンス氏は、ボクシングで言うところのロープ際の消耗戦術を狙っているらしい。トランプ氏の攻撃をやり過ごせるかもしれないその戦い方は、有権者に自身と前大統領との密接な関係を思い出させることで遂行される。「彼(トランプ氏)は然(しか)るべき時に現れた、然るべき人物だった。彼のそばで働けたのは自分の誇りだ」とペンス氏は語り、さらに「彼は私の大統領であり、友人だった」と付け加えた。ガードを固めるには有効な手かもしれない。しかしチャンスが訪れた時、果たしてペンス氏にノックアウトパンチを繰り出すことはできるだろうか? どうもそうは思えない。
4年にわたって傍観していたその間に、トランプ氏は米国の民主主義を痛めつけてきた。ペンス氏は現在、新刊の回想録のために各地を回り、共和党の有権者にアピールしている。しかしペンス氏の狙いには両面がありそうだ。敬意と礼節を備えた「米国の新たなシーズン」を宣言する一方、トランプ政権とそこでの自身の役割を擁護したいとも考えている。たとえそれが「良い結末を迎えなかった」としても。
議員及びインディアナ州知事としての自らの実績をより深く掘り下げるでもなく、16日のペンス氏は穏やかな聖職者さながらの口調で、自身の信仰や聖書に言及。これにはうんざりさせられた。そして古いタイプの政治家と同様、多くの質問をそらす行動にも出た。
司会のジェイク・タッパー氏から特定の候補者の支援について問われても、意味のある回答はしなかった。この共和党の候補者2人は、20年大統領選の結果の有効性を否定していたが、彼らを支持したペンス氏はそれを完全に受け入れている。対話集会ではこれらの候補者との見解の違いをごまかしたように見えた。その上で、自分が支持しようとしたのは党であり、予備選で共和党の有権者が選んだ候補者を支援しようとしたと付け加えた。
ペンス氏はまた、大統領選の結果を巡るトランプ氏の要求に対し、消極的抵抗を行ったと強調した。トランプ氏は、ジョー・バイデン氏が勝利したとする大統領選の結果を認証しないようペンス氏に求めていた。この時、トランプ氏の支持者らが大挙して連邦議会議事堂に押し寄せ、「マイク・ペンスを吊(つ)るせ」というスローガンを口々に叫んでいた。ペンス氏は妻子とともに議事堂内の安全な場所へ急いで避難したと振り返った。ただタッパー氏から、まだトランプ氏に怒りを覚えるかどうか問われると直接はそれに答えず、議事堂襲撃が起きた21年1月6日から数日後にトランプ氏に会ったと述べた。その上で「私の信じるキリスト教は、聞くに早く、語るに遅く、怒るに遅くと教えている。またキリスト教において、寛容は義務とされる」と付け加えた。
ここで思い出してほしいのは、トランプ氏がいかに聖書を小道具として利用したかだ。20年、ホワイトハウスの近くで抗議していた「ブラック・ライブズ・マター(BLM=黒人の命も大切だ)」のデモ参加者らを催涙ガスで排除した後、同氏はホワイトハウスから教会まで歩き、聖書を手に写真撮影に臨んだ。そうかと思えば15年、聖書の好きな一節を問われた際には「細かい部分に踏み込まない」判断を下している。事前に聖書が愛読書だと発言しているにもかかわらず。ペンス氏が、トランプ氏の抱えるキリスト教福音派の支持基盤から一部の有権者を奪うだろうということは想像できる。しかしトランプ氏を英雄的人物と持ち上げる人々の多くは、そう簡単に同氏を見捨てないだろう。実際彼らは今後も、面白みがあり闘志にあふれるトランプ氏の方を好むはずだ。その姿から彼らが想起するのは、地獄の責め苦を強調する伝道者に他ならない。
全体としてペンス氏は非常に抑制的かつ入念に準備を重ねるタイプの政治家らしく、今後トランプ氏の足下をすくう人物になるとはとても思えない。トランプ氏は共和党による24年の大統領候補指名の獲得に向けて突き進んでいる。それでもペンス氏が、大統領になるとの根深い野心を抱いているのは明らかだ。その証拠は同氏の資金集めの取り組みや、アイオワ、ニューハンプシャーといった候補者指名争いの幕開けを飾る州を訪れている点に表れている。同氏の活動資金と全国的な支持者のネットワークはしかし、トランプ氏にとって脅威になるかもしれない。その結果、同氏による攻撃は新たな次元の悪意を帯びる可能性がある。
フロリダ州のデサンティス知事をはじめとする他の共和党員も、大統領選への出馬を虎視眈々(こしたんたん)と狙っていそうだ。潜在的な候補者にバージニア州のグレン・ヤンキン知事、サウスカロライナ州選出のティム・スコット上院議員、マイク・ポンペオ前国務長官あたりを加えれば、共和党の指名獲得争いは相当の混戦になる可能性もある。その場合は、16年がそうだったように、あらゆる機会で最も声の大きい候補者が勝利する道が開けるだろう。比較的少ない得票数でも、他に太刀打ちできる候補者がいない状況になる。
党内での幅広い合意によれば、トランプ氏には18年、20年、22年の選挙で共和党を失望させた責任がある。賢明な党指導部は、同氏の24年の選挙活動が及ぼす影響を恐れなくてはならない。結局のところ同氏を嫌悪し、民主主義の脅威とみなす有権者の数が減少する公算は小さい。それと同時に、共和党の有権者の間ではトランプ氏に対する思い入れが弱まりつつあるように見える。
トランプ氏の政治生命が継続している責任は誰にあるのか? 多くの人々がその一端を負っている。その中に間違いなく含まれるのは、16年の大統領選から21年1月6日の議事堂襲撃まで一貫して同氏のイエスマンだった人物だ。議事堂襲撃の日、ペンス氏ははっきりと自身の大統領に反抗した。今や同氏は、トランプ氏について行く形で、大統領選に出馬する場合の準備を進めているように見える。かつて自らが協力したまさにその人物を打ち負かすことを念頭に置きながら。
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マイケル・ダントニオ氏はトランプ氏の評伝「Never Enough: Donald Trump and the Pursuit of Success」の著者。またトランプ氏の弾劾(だんがい)を扱った「High Crimes: The Corruption, Impunity, and Impeach」はピーター・アイズナー氏との共著。記事の内容は同氏個人の見解です。