気候変動の脅威にさらされる米国、特に危険な地域は 政府報告書
(CNN) 急速な温暖化の影響は全米のいたるところで感じられている。米連邦当局が発表した厳しい最新の報告書によると、このまま化石燃料を使い続ければこの先10年でさらに状況が悪化するだろう。
連邦議会が約5年おきに公表を義務付けている報告書「第5次全米気候評価」は、米国では地球温暖化の鈍化が見られるものの、米政府が策定した目標値や、温暖化をセ氏1.5度以内に抑えるという国連の公式目標の達成には程遠いスピードだと警鐘を鳴らす。1.5度の境界線を越えると地球上の生命の存続が危ぶまれることになると専門家は懸念している。
今回の報告書は、米国人が身の回りで次第に気候変動の影響を目にし、肌で感じている現実を反映している。こう語るのは、気候研究の第一人者で報告書の寄稿者でもあるテキサス大学のキャサリン・ヘイホー氏だ。
「気候変動は生活のあらゆる側面に影響を及ぼしている」とヘイホー氏はCNNに語った。
報告書の包括的な結論の中には、耳にタコができるほど聞かされてきたものもある。全米には気候災害を完全に免れる場所はないということ。化石燃料の削減が被害を食い止める上で重要であるが、スピードが追い付いていないということ。ほんのわずかな気温上昇もより深刻な影響をもたらすということだ。
だが、新たに追加された重要なポイントもいくつかある。嵐やハリケーン、山火事の規模や頻度が増し、長期的な干ばつが深刻化し、猛暑も厳しくなる中、専門家はそれが気候変動によるものだと以前より自信を持って言えるようになった。
今年の夏だけでも、アリゾナ州フェニックスでは31日連続でカ氏110度(セ氏約43度)を超える記録的猛暑に見舞われた。同州マリコパ郡は2023年、観測史上最高気温を記録し、驚異的な熱波も災いして、暑さに関連した死者数は500人を超えた。
7月にはバーモント州で豪雨により大規模な洪水が発生し、各地が浸水した。その後8月にはマウイ島で山火事が猛烈なスピードで燃え広がり、フロリダ州湾岸ではこの2年で2度も巨大ハリケーンが上陸した。
バイデン大統領は14日の演説で、気候変動対策費として60億ドル(約9000億円)超の連邦資金の投入を発表。政権当局者は「具体的には、国内の送配電網の強化、水道インフラ改修への支出、各地での洪水リスクの軽減、誰でも安全な環境で暮らせるようにするための環境正義の推進だ」と述べた。
ホワイトハウスの気候関連の上級顧問ジョン・ポデスタ氏は記者団に対し、「自分たちや子どもたちの世代が生活できる未来づくり」のためには「人類史上例を見ない規模と範囲の世界経済の変革」を起こす必要があると記者団に語った。
以下、全米気候評価から五つのポイントを挙げる。
気候変動が原因で悪化した災害の絞り込みが容易に
最新の報告書には、いわゆる「アトリビューション科学」と呼ばれる重要な進歩が記載されている。つまり熱波や干ばつ、ハリケーンや豪雨などの異常気象に、気候変動がどう影響しているのか、科学によってより明確に示すことが可能になったのだ。
気候変動がハリケーンや山火事を引き起こすわけではないが、こうした災害の度合いや頻度を増加させる場合がある。
例を挙げれば、海水の温度や気温が上がるとハリケーンの強さと速度が増し、上陸時には大量の雨を降らす。気候変動により気温が上がって大気が乾燥すれば、草木は火口箱と化して、山火事は巨大化して制御不能に陥る。
「アトリビューション科学という分野のおかげで、今ではより具体的な発言ができるようになった」とヘイホー氏は言い、原因特定が可能になったことで気候変動の影響で洪水被害を受けやすい地域が絞り込めるようになったと語った。「アトリビューション科学はこの5年で目覚ましく進歩し、点と点を結ぶことができるようになった」
各地で痛感する気候変動は一部でさらに深刻化
バイデン政権当局や報告書の編纂(へんさん)に携わった研究者は、気候変動を免れる場所はないと強調する。今夏の異常気象でも痛感させられた。
カリフォルニア州、フロリダ州、ルイジアナ州、テキサス州などでは激しい暴風雨が多発し、降水量も激しく変動している。
内陸の州では海面上昇対策は必要ないが、ケンタッキー州やウェストバージニア州などアパラチア山脈周辺地域では、暴風雨により激しい洪水が発生している。
北部の州ではダニを媒介とする疾病の増加、雪不足、暴風雨の激化といった問題の対応に追われている。
「リスクがゼロという場所はないが、リスクが高い地域もあれば、低い地域もある」とヘイホー氏はCNNに語った。「直面する異常気象の頻度や度合いによって、また(都市や州の)備えがどのぐらいかによっても変わってくる」
気候変動が甚大な経済負担もたらす
報告書によると、気候変動による経済ショックがより頻繁に発生している。その証拠に、異常気象による災害の数は今年過去最多を記録し、被害額は少なくとも10億ドルにのぼる。災害の専門家は昨年から、米国での気候危機による経済被害はまだ序の口だと警鐘を鳴らしていた。
気候危機の影響を受けているのが住宅市場で、住宅保険料の高騰という形で表れている。中には危険度の高い州から完全撤退した保険業者もある。
猛烈な嵐で一部の作物がなぎ倒されたり、猛暑で家畜が死んだりすれば、食糧価格は高騰する。報告書では、気温がさらに上昇すれば、南西部では7月から9月にかけて農業従事者の身体的労働能力が25%減少する可能性も指摘されている。
米国は温暖化にブレーキをかけるも追い付かない
世界の上位に上がる中国やインドといった他の排出国とは違い、米国では温暖化が減速している。だが報告書によれば、現在のスピードでは地球の温暖化を落ち着かせることも、米国が定める気候変動目標値を達成することもできないという。
米国の年間の二酸化炭素排出量は05年から19年までに12%減少した。電力業界が石炭から再生エネルギーやメタンガスに転換したのが主な要因だが、メタンガスは温暖化に大きく影響しているため、化石燃料であることに変わりない。
排出量の減少は気候変動には朗報だが、細部に目を向けると事情は複雑だ。
報告書にもある通り、米国の温暖化ガスの排出量は「依然として多く」、世界全体で気温をセ氏1.5度下げるという目標を達成するには、毎年平均6%と思い切った減少が必要だ。こうした削減を考慮すると、05~19年の米国の排出量は平均すれば1年でわずか1%未満しか減少しておらず、すずめの涙だ。
あふれる水、足りない水
今回の報告書の一番のポイントは、米国の水問題に危険信号がともっているという点だ。将来的には米国各地が異常な干ばつや水不足、あるいは洪水の多発や海面上昇のどちらかに見舞われるだろう。
干ばつと雪不足がとくに大きな脅威となっているのが南西部地域だ。報告書ではアリゾナ州立大学の気候科学者デイブ・ホワイト氏が南西部の章を担当しているが、この地域では1991~2020年にかけて、30年前より大幅に乾燥していることが判明した。
地球温暖化が続く中、これは不吉な予兆だとホワイト氏は言う。西部の真水の貴重な水源であるカリフォルニア州のシエラネバダ山脈やロッキー山脈の雪塊に大きく影響するためだ。
真水は都市部や農地、先住民の生活を支えているため、西部で真水が不足すれば経済や農業にも甚大な影響が及ぶとホワイト氏は続けた。
「この地域では山は天然の貯水池だ」とホワイト氏はCNNに語った。「気候変動で山の雪塊の量が変化すれば、インフラ運営にも大きな負の影響が及ぶ。こうした資源を守ることが我々にとっても重要だ」