米FDA、初のうつ病治療用アプリを認可 研究はまだ初期段階と専門家指摘
(CNN) 米食品医薬品局(FDA)はこのほど、大うつ病の患者に処方される初のデジタル治療アプリ「Rejoyn」の使用を認可した。
Rejoynは大塚製薬とクリック・セラピューティクスが共同開発したスマートフォンアプリで、抗うつ薬と併せて使用する。対象となるのは大うつ病と診断された22歳以上の患者。認知機能訓練と認知行動療法を組み合わせた6週間の治療セッションを採用する。
Rejoynは低~中リスクの治療法に分類されることから、市販されている他の治療法と実質的に同程度の安全性と有効性が証明されればFDAの認可を取得できる。
大塚製薬取締役のジョン・クラウス氏はRejoynを「現在の標準治療を補うMDD(大うつ病)の革新的な補助療法」と位置付け、「従来のアプローチが有効な場合もあるが、治療に対して部分的にしか反応しない場合も多い」と指摘する。
調査機関ギャラップが米国で2023年に実施した調査では、成人の6人中1人にあたる約18%がうつ状態またはうつの治療中と回答した。抗うつ薬を服用している患者の30%は部分的な反応しかなく、薬を服用してもうつの症状が続くという調査結果もある。
Rejoynはそうした患者のための補助療法として設計され、顔に表れるさまざまな感情を認識して比較する認知機能訓練を採用している。初期段階の研究で、そうした訓練を通じてうつ病にかかわっているといわれる脳の扁桃体(へんとうたい)と背外側前頭前皮質が刺激され、抗うつ効果があることが示された。
クリック・セラピューティクスの科学顧問を務めるブライアン・タコビエロ氏はRejoynについて「うつ病が影響を与える脳の特定領域における連携を強化することを目指し、それぞれの患者に合わせて設計された一連の脳エクササイズを提供する。これは『脳の理学療法』のように作用する」と解説している。
一方、Rejoynの開発にかかわっていないベス・イスラエル・ディーコネス病院のジョン・トーラス医師は、認知機能訓練のアプローチはまだ仕組みが十分に確立されておらず、研究はまだ予備的な段階にあるとの見方を示した。
FDAの認可は、抗うつ薬に反応しない大うつ病と診断された22~64歳の386人を対象とする臨床試験の結果に基づいている。被験者にはRejoynか、認知機能訓練や認知行動療法を伴わない記憶訓練のシャムアプリのいずれかを使ってもらい、結果を比較した。
その結果、Rejoynアプリを使った被検者はうつ症状の改善が認められたものの、平均的な変化についてはシャムアプリを使った被検者との有意差はなかった。副作用は報告されていない。
Rejoynの開発にかかわっていないベス・イスラエル・ディーコネス病院のジョン・トーラス医師はこの臨床試験結果について、Rejoynに統計的に重要な効果があることは証明されていないと述べ、同アプリは単独の治療法として設計されているわけではないと指摘。「効果が最小限でもリスクが最小限なら、試してみても害はなさそうだ」「今後エビデンスがさらに増えるだろう。私は臨床心理医として、症状を改善させるものを人々に使ってもらいたい」とコメントした。
大塚製薬は、追加的な研究分野についても検討中としているが、具体的な研究予定は明らかにしなかった。
Rejoynのダウンロードには処方箋(せん)が必要で、米国で24年後半に提供を開始する予定。大塚製薬は「入手しやすく手ごろな」アプリにしたいとしているが、価格は発表していない。
トーラス氏によると、臨床試験で効果が実証されていないことから、保険会社が保険適用の対象としない可能性もある。FDAの認可で保険適用が保証されるわけではないとしている。
患者がどの程度アプリを使ってくれるかという問題もあるとトーラス氏は話す。Rejoynの臨床試験では、被験者の88%が18の治療セッションのうち少なくとも12セッションを完了していた。
心の健康問題に照準を合わせたメンタルヘルスアプリは無数に存在していて、処方箋は必要としない。医師は個々の患者のニーズや嗜好(しこう)を見極める必要があるとトーラス氏は話している。