カマラ・ハリスは「DEI枠」 選挙戦の展開を予兆させる共和党議員の発言

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
大統領選に挑むハリス氏に対し、資質を疑問視する声が早くも共和党議員から出ている/Daniel Steinle/Bloomberg/Getty Images

大統領選に挑むハリス氏に対し、資質を疑問視する声が早くも共和党議員から出ている/Daniel Steinle/Bloomberg/Getty Images

(CNN) 米大統領選に向けた選挙活動の開始初日から、カマラ・ハリス副大統領は早くも民主党選出候補内定に十分な代議員の票を獲得し、史上最高額となる8100万ドル(約126億2510万円)の選挙資金を集めた。

とはいえ、ハリス氏が正式に大統領選に参戦して24時間も経たないうちに、一部の共和党員は攻撃の矛先を同氏の人種に向けた。

22日、共和党のティム・バーチェット下院議員(テネシー州代表)はCNNのマニュ・ラージ記者とのインタビューで、ジョー・バイデン大統領がハリス氏を副大統領候補に指名したのはひとえに黒人だったからだと示唆した。「DEI(多様性、平等、インクルージョン)の枠で選ばれたのは100%間違いない」と同議員は述べ、「副大統領の経歴は、どう頑張っても最悪としか言いようがない」

政治アナリストには聞きなじみのある戦略だ。バーチェット議員の発言は、2008年大統領選でバラク・オバマ氏の出生地に関する陰謀論をぶち上げた共和党の戦術を彷彿(ほうふつ)とさせる。すでに波乱含みの選挙戦が投票日までにどう転ぶかを暗示するような発言だと牽制(けんせい)する声も上がっている。

「こうした凡庸VS実力主義という議論は延々と繰り広げられてきた。実際はというと、米国史でこれまで検討対象にされてきたのはほぼ白人男性のみで、凡庸かどうかは取りざたされなかった」。民主党ストラテジストのキース・ボイキン氏はこう語り、現在の状況を1960年代に共和党が展開した「南部戦略」になぞらえた。当時の共和党は人種の怒りをばねに、白人有権者を投票に駆り立てた。

「黒人、女性、有色人種や性的マイノリティーが公的な立場で職場や社会に参入し始めると、(実力主義が)話題にのぼってきた。そこから突如、ストレートの白人男性以外は参入するに値しないという思い込みが生まれた」

その後共和党のマイク・ジョンソン下院議長は22日の記者会見でバーチェット議員の発言に触れ、「人格ではなく政策」を争点にした選挙にするべきだと訴えた。

「今回カマラ・ハリス氏に関する発言は個人攻撃ではない。同氏の人格、人種、性別とは無関係だ。米国民の期待に応え、泥沼状態から救い出してくれる人物は誰かという発言だ」

多様性が蔑称になった瞬間

バーチェット氏の発言にはたちまち反論が起きた。人種を理由にハリス氏が適任ではない、あるいは凡庸だとほのめかすのは、職場で有色人種の女性、とりわけ黒人女性に向けられるおなじみの人種差別的表現に乗っかったものだという指摘も多かった。

副大統領に就任する以前、ハリス氏は数十年にわたって検察官を勤めたのち、サンフランシスコ地方検事、ついでカリフォルニア州司法長官を歴任した。2016年の上院議会選挙で当選し、カリフォルニア州初の黒人および南アジア系上院議員となった後、20年に副大統領に就任した。

だがアイデンティティーに基づく政治観を頼りに有権者を動かそうとする人々にとって、ハリス氏の経歴は重要ではないようだ。黒人団体「National Black Justice Coalition」の共同創立者で「Why Does Everything Have to Be About Race?」の著者、ボイキン氏はこのように語る。

「(オバマ氏は)上院議員だった。それ以前は州上院議員を務め、憲法学者で、ベストセラー作家でもあったが、大統領にはふさわしくないと言われた。ところがその後共和党が大統領候補に指名したドナルド・トランプ氏は、政治経験がないにもかかわらず適性については何も言われなかった」(ボイキン氏)

「地方検事、州司法長官、上院議員を経て副大統領になったカマラ・ハリス氏は、黒人女性だというだけで共和党の中では『DEI枠』となってしまう」と同氏は言い、「火を見るよりも明らかだ」と述べた。

バカリ・セラーズ元民主党サウスカロライナ州下院議員は、バーチェット議員の発言が「多様性の価値観を蔑称に変えてしまった」と語る。現在CNN政治コメンテーターを務めるセラーズ氏はCNNのジム・アコスタ氏にこう述べた。

「果たして、人々はこうした選挙活動が行きつく先を見届ける心構えができているのだろうか。カマラ・ハリス氏が見た目通りの戦士だということも知らずに、寄ってたかって同氏の人格に泥を塗る共和党は地の底まで堕(お)ちていくことになるのではないか」

裏目に出かねない戦略

黒人女性の政治参加を呼びかける政治団体「Higher Heights for America」のトップを務めるグリンダ・カー氏によれば、ハリス氏の人種や性別を攻撃し続けることは最終的に共和党に対して裏目に出かねない。

バイデン氏が民主党指名候補の後任にカマラ・ハリス氏の擁立を表明してから72時間、全米の黒人男女はこぞってハリス氏支持に回った。

21日と22日の2日間、ハッシュタグ「#winwithBlackwomen」「#winwithBlackmen」のもとハリス氏陣営への結束を呼びかけるZoom会議が実施され、数万人の黒人米国人が参加した。主催者によると合計280万ドル以上の政治献金が集まったという。

バーチェット議員の発言は「まさにカマラ・ハリス副大統領の当選に必要な有権者を活気づかせている」とカー氏は言う。

「ハリス氏は選挙に出馬し、当選し、あらゆる段階で政治を統括してきた女性だ。学歴から職歴まで実に見事な経歴だ。あのような発言を繰り返したければどうぞ。女性、有色人種女性、黒人女性がどう反応するか……ああいう有害な虚偽の発言に私たちがどう対応するか見るがいい」

ボイキン氏も言うように、結局はハリス氏の経歴がものを言う。「DEI枠」という当てこすりは余興でしかない。

「議員として本来解決すべき問題に対処する代わりに、移民や黒人、女性……自分とは異なる人々に後ろ指を指すのは簡単だ」(ボイキン氏)

「カマラ・ハリス氏が『DEI枠』だと揶揄(やゆ)したところで、雇用創出にどう役立つというのか? インフレ対策になるだろうか? こうした分断やマウンティングこそが、我々の団結を阻もうとするやり方だ」

23日午後、ミルウォーキー州で選挙集会に臨んだハリス氏は、こうした発言などお構いなしという様子だった。24年大統領選の暫定民主党指名候補として初めて姿を見せた副大統領は、むしろ検察官や政治家としてのキャリアを全面に打ち出した。

「これまでの職務で私はあらゆる犯罪者と接してきた。女性を虐待した加害者、消費者から金を巻き上げた詐欺師、私欲のためにルールを破るペテン師。そう、私はドナルド・トランプ氏のような人間をよく知っている」。大歓声の中でハリス氏はこう語った。

「今回の選挙戦ではことあるごとに、トランプ氏と比較する形で私の経歴を誇らしくアピールしていくつもりだ」

メールマガジン登録
見過ごしていた世界の動き一目でわかる

世界20億を超える人々にニュースを提供する米CNN。「CNN.co.jpメールマガジン」は、世界各地のCNN記者から届く記事を、日本語で毎日皆様にお届けします*。世界の最新情勢やトレンドを把握しておきたい人に有益なツールです。

*平日のみ、年末年始など一部期間除く。

「米大統領選2024」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]