「法王は私を抱き締めた」――難病の男性の人生を変えた日
一行に近付いた法王はまっすぐにビニチオさんの前へ来て、その頭をしっかりと抱擁した。ロットさんは「法王は何も言わず、ただ心の奥深くまで届くような、それは美しいまなざしで私の方を見た」と話す。
ビニチオさんは法王が何のためらいも見せなかったことに戸惑い、ただ震えながら「大きな温かさ」を感じていたという。それはわずか1分足らずの出来事だった。
ビニチオさんは帰りのバスの中でも震えていた。自分が10歳も若返り、重荷から解放されたような気持ちになっていた。
家に帰ると、姉妹とアパートで暮らす日常が待っていた。自転車で高齢者施設に通い、ごみを集めたり雑用を片付けたりするのがビニチオさんの仕事だ。時間のある時は入居者らとサッカーの話に興じることもある。
だが法王と会ってから、ビニチオさんの中で何かが変わった。「私は以前よりも強く、幸せになった。神様が守ってくれるから前へ進めると感じるようになった」と話す。
いつか法王と直接話をするのが、ビニチオさんの夢だという。何を話すのかと尋ねると、「それは法王と私だけの秘密」という答えが返ってきた。