香港と東京で異なる検疫態勢、適切なのはどちら?
(CNN) 世界で新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、香港と東京を訪れたCNN記者が、アジアの2大ハブ空港で経験した違いの大きさを指摘している。
CNNのウィル・リプリー記者は15日に香港国際空港に到着した。搭乗機からは直接滑走路に下ろされ、空港の下層階にある検疫所に誘導されて、健康チェックや保安検査を受けたという。検疫所では体温を測られて質問票への記入を求められ、中国、イタリア、韓国などへの渡航履歴がないかどうか質問された。
空港を出た後の行動については検疫官2人から説明を受けてチェックリストを手渡され、1日に2回体温を測って、普段と違う症状があれば直ちに保健省に報告するよう指示された。
香港当局はその後、検疫態勢をさらに強化すると発表。外国からの入国者に対しては2週間の自己隔離を義務付け、自宅やホテルを出れば当局に通報される電子監視ブレスレットを装着させる可能性もあるとした。
香港国際空港の検疫官と話をするウィル・リプリー記者=15日/CNN
香港でこれまでに確認された症例は167例にとどまる。症例数は今週に入って急増したが、その大部分は感染が拡大している国からの渡航者によって持ちこまれた症例が占める。
香港市内でマスクをしていない人はほとんど見かけない。同市は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)流行で300人あまりの死者を出し、大きな教訓を学んでいた。
一方、日本の対応は香港とは大きく違った。
リプリー記者の搭乗した便は17日、成田空港で通常通りのゲートに到着。空港内は自由に歩き回ることができ、500メートル以上歩いて検疫所に入ると、10人ほどの検疫官が忙しそうに、同じ便で到着した人全員に応対していたという。
体温の高い人をスキャンして探す熱探知カメラは通過したものの、検温はされなかった。この晩は寒さが厳しくコートなどを着込んでいた人も多かったため、スキャン装置では正確な検温はできなかったかもしれないと同記者は推測する。
検疫官からは用紙に署名を求められ、自宅で14日間待機して、毎日体温を測定し、公共交通機関は避けるよう要請された。
成田空港で渡された用紙。公共交通機関の利用の回避などが要請されている/CNN
「これは単純な要請であって、強制ではない。私は要請に従っているものの、どこでも好きな場所へ行くことを阻むものは何もない」とリプリー記者は言う。
他国が緊急事態を宣言して封鎖に踏み切る中で、安倍首相は「現時点で『緊急事態』を宣言する状況ではない」との認識を示している。
日本では学校が休校になって大規模な集会は中止され、在宅で勤務する人も増えている。しかしバーやレストランは営業を続け、大勢の人が混雑した公共交通機関を使い、親は子どもたちを外で遊ばせていて、大抵はマスクを着けていない。スーパーマーケットの棚にはトイレットペーパーが豊富に並ぶ。
日本が封鎖に踏み切らない理由として安倍首相は、他国に比べて確認された症例数が少ないことを挙げている。
確かに日本で確認された症例は873例と、イタリアの3万1506人やイランの1万6169人、韓国の8413人に比べると少ない。
だが感染者が激増している国と、日本との間には大きな違いがある。日本で検査を受けている人は、他国に比べるとごく一部にすぎない。
香港で渡されたチェックリスト。1日2回の検温を行うようにとのアドバイスがあり、症状が出た場合には保健当局に連絡するよう求めている/CNN
厚生労働省によると、17日までに検査を受けたのはわずか1万4525人。しかも一部の人は何度も検査を受けている。これと比較して韓国では、1日あたり約1万5000人の検査ができる。
日本政府は今月末までに1日8000人の検査ができるようにすると説明している。
高齢化が進む社会でコロナウイルスの感染が急激に広がれば、壊滅的な影響が出かねない。
「東京の静けさが、新型コロナウイルスをめぐる日本の実態を本当に映し出しているのか、それとも嵐の前の静けさなのかは、検査が普及してみなければ分からない」。リプリー記者はそう指摘した。