中国人留学生の入国規制、中国よりも米国にとって損失か
香港(CNN) 2020年の春節(旧正月)に米国から母国である中国に帰国したデニス・フーさんは、ほんの短期滞在のつもりだった。家族とともに春節を祝い、米国のビザ(査証)を更新した後、ボストンに戻り、ノースイースタン大学で4年目となるコンピュータサイエンスの博士課程を続ける予定だった。
しかし、それから1年半が経過した今もフーさんは中国に足止めされ、いつ米国に戻れるかも分からない。
現在、新型コロナウイルスの影響に加え、トランプ政権下で始まった中国人向けのビザ発給の厳格化により、留学の中断を余儀なくされた中国人留学生が1000人以上存在し、フーさんもそのひとりだ。
米中間の緊張が高まる中、米国内における中国人留学生によるスパイ活動の脅威に直面した当時のトランプ大統領は、中国人留学生のビザ発給の条件を厳格化した。これにより中国のいくつかの大学を卒業した科学、技術、工学、数学の4つの分野(STEM)の学生は、米国留学に必要なビザの取得が事実上不可能になった。
しかし、この措置の影響を受けた中国人留学生らはスパイ容疑を完全否定しており、明確な説明がないことに不満を抱いた一部の学生は、米国政府に対して法的措置を講じるための弁護士費用をクラウドファンディングで募っている。
専門家らは、この問題の影響は直接的な被害を受けた個々の留学生にとどまらず、はるかに広範囲に及ぶと指摘。重要なSTEM分野の研究に貢献する海外の大学院生を締め出せば、米国の研究の質に影響を及ぼす恐れがあると警告する。
また、米国機関による中国人留学生の採用への影響や、すでに緊張している米中関係のさらなる悪化も懸念される。
新型コロナと入国規制
フーさんは、昨年の最初の数カ月間は新型コロナウイルスの感染急拡大の阻止を目的とした米国の入国制限の影響で中国から米国に戻れなかったのだが、5月からは政治的な理由に変わった。
米情報機関は長年、中国が学生のスパイを使って米国の機密を盗んでいると警告してきた。独立系シンクタンクのオーストラリア戦略政策研究所(ASPI)によると、学生をスパイとして採用する動きは、民間人を使って軍事力の強化を図るという中国の軍と民間が連携して進めている戦略の一環であり、過去10年間、学生の採用は増加傾向にあるという。
現在、米国には37万人以上の中国人留学生がおり、他国からの留学生のおよそ2倍に上る。米当局は、米国の開かれた学術環境の保護と国家の安全に対するリスクの緩和の両立という難題に直面している。
中国政府は、中国人留学生がスパイ活動をしているとの米国の主張は「事実無根」とし、「根拠のない」非難は一種の偏見、差別であり、最終的に米国の利益を損なうと主張する。
しかし、トランプ前大統領は昨年5月、軍とつながりのある中国人留学生へのビザ発給を制限する大統領布告に署名した。