中国人留学生の入国規制、中国よりも米国にとって損失か
フィッシュ氏は「米国は、極めて有益な分野の、極めて価値の高い何千人もの中国人留学生を締め出している。彼らは米国の研究や、多くの研究所に多大な貢献をしている」と指摘する。
そして、これは米国にとってはマイナスだが、逆に中国にとってはプラスだ。フィッシュ氏によると、実はこの米国の政策は、最高の人材を自国に呼び戻すという中国の長年の目標の実現に貢献しているという。
近年、中国の大学は、一流の研究者を集めるために研究能力の強化を図っている。しかし、たしかに中国の研究成果には改善が見られるが、今も世界の研究の中心は米国であり、それゆえ世界の有能な人材が米国に集まる。
ウィルソン・センター・キッシンジャー米中関係研究所のロバート・ダリー所長は「米国の強さの源のひとつは、最高の人材が集まる世界最高水準の大学が米国に多数存在することだ」とし、さらに「米国の大学が優れているのは、誰にでも開放され、国際化しているからだ」と付け加えた。
たしかにスパイ活動について懸念するのは当然だが、その脅威がどれほどの規模なのかは定かではない。それが米国の機密情報の潜在的損失と中国人留学生がもたらすメリットの比較衡量を難しくしている。
今後の展開
米国では今、一部の政治家らが中国人留学生の入国規制のさらなる厳格化を強く求めている。一方、入国制限への不安を抱える一部の中国人留学生たちは、米国に完全に見切りをつけ、カナダ、英国、オーストラリア、シンガポール、香港に向かっている。
そのような状況の中、米中間の文化の違いに対する理解が最も必要な時に、米国に来る中国人留学生の数が減少すれば、互いの文化への理解がさらに弱まるとの声も聞かれる。
また中国人留学生たちが米国で受けている差別や、米中関係を不透明にしているスパイ容疑に不安を抱いた有望な学生たちが、今後米国留学を避ける恐れもある。
フィッシュ氏は「多くの中国人留学生は、米国は自由の地であり、世界の一流の科学者らが学んでいる場所と考え、渡米前は米国にあこがれを抱いていた。しかし、いざ行ってみると非常に不安定な立場に立たされた。恐らく彼らは、米国に対し以前はなかったネガティブな感情を抱いて帰国していることだろう」と言う。
フーさんはまさにそんな心境だ。フーさんは今も、中国で状況が好転するのを待ち続けている。
フーさんは「非常に悲しい。われわれ(中国人留学生たち)は大変真面目な研究者集団だと思っていたが、不当に起訴されたり、ぬれぎぬを着せられたりることすらある」と述べ、「(中国人留学生の)入国を規制しても国の安全が保障されるわけではなく、むしろ米国の大学の威信を危うくするだけだ」と付け加えた。