エジプト・アビドスで3600年前の王墓発見、王の名は不明
(CNN) エジプトのアビドスで、3600年前の王墓が発見されたことが分かった。米ペンシルベニア大学考古学人類学博物館が先月27日に発表した報道発表で明らかになった。石灰岩でできた巨大な埋葬室には複数の区画と装飾された入り口があったが、この豪華な墓の主は謎のままだ。墓の盗賊が入り口のれんがに描かれた象形文字を破壊し、名前が判読できなくなっていたためだという。
この墓には、埋葬された人物の特定につながりうる遺骨は残されていなかった。発見した研究者は、この墓について、アビドス王朝の一員として紀元前1640年から1540年までの第2中間期に上エジプトを支配した王のものである可能性が高いと考えている。アビドス王朝は古代エジプトで最も解明が進んでいない王朝の一つとされる。この謎の王は、かつてこの地域を統治した君主の歴代の記録から抜け落ちていることで知られる数人の王のひとりかもしれない。
ペンシルベニア大学のエジプト考古学教授で発掘を主導したジョセフ・ウェグナー氏は「この王朝は、政治的衰退と分裂の時代にあり、古代エジプトの記録から基本的に忘れ去られていたような非常に神秘的で謎めいた王朝だ」と述べた。
墓は、同じアビドス王朝の王の墓として発見されたものの中で最大規模。今回の発見によってこれまで誤解されていた歴史の一時代を、物的遺物を通じて初めて明らかにできると専門家は指摘する。
失われたファラオ
考古学者は、アビドスで古代ネクロポリス(墓地群)があるアヌビス山の地下約7メートルでこの墓を発見した。アヌビス山はピラミッド型をした自然の地形。古代エジプト人にとって神聖な場所であり、その下に建てられた墓を隠すのに利用されていた。
歴史の記録によれば、アビドスは冥界の神オシリスがまつられ、エジプト初期のファラオが埋葬されている神聖な都市とされる。
ウェグナー氏らは10年以上前にこのネクロポリスで最初の墓を発見し、アビドス王朝の存在を確認した。
この墓に埋葬されていた王、セネブカイは、歴史に記録されていない、まったく無名のファラオだった。これまでに発見されたアビドス王朝の八つの墓のうち、埋葬室に名前が残っていたのはセネブカイのものだけだ。
今回新たに発見された墓の構造と装飾はこのセネブカイのものと似ているが、その大きさははるかに上回り、三つに区切られた埋葬室のメインの区画は、幅約1.9メートル、奥行き6メートルに及ぶ。墓は、ネクロポリスの初期に構築されたと考えられる一角に建てられていたため、研究者はここに埋葬された王についてセネブカイの先祖であった可能性が高いとの見方を示す。

三つに区切られた埋葬室のメインの区画は、幅約1.9メートル、奥行き6メートルに及ぶ/Josef Wegner/The Penn Museum
研究者は、墓が「セナイブ王」または「パエンジェニ王」のものかもしれないと推測している。この2人の王は、アビドスに建てられた記念碑の一部として現存する、同王朝のわずかな考古学的記録に示されている。
一方でウェグナー氏は「まったく知られていない王のものである可能性も同様にある」と話す。アビドス王朝の王たちに関する一貫した証拠が残っていないため、王の名前をすべて把握できているとは考えていないからだという。
研究者は、この地域の砂漠地帯約1万平方メートルを調査し、別の墓も発見したい考えだ。「この王朝を構成する王は12人から15人いる可能性が高い」(ウェグナー氏)