人を次々に襲うアシカ 有毒な藻で発作、影響深刻化 米カリフォルニア州

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ドウモイ酸の影響に苦しむアシカ。頭を後ろにそらす症状を示している=3月27日、カリフォルニア州オクスナード/Mario Tama/Getty Images

ドウモイ酸の影響に苦しむアシカ。頭を後ろにそらす症状を示している=3月27日、カリフォルニア州オクスナード/Mario Tama/Getty Images

ロサンゼルス(CNN) 米カリフォルニア州南部の海岸沿いで、人がアシカに襲われる被害が続出している。専門家によると、アシカの生息する海で有害な藻が異常繁殖して病気になるアシカが増え、多くが命を落としている。

ロングビーチに住むフィービー・ベルトランさん(15)は3月30日、ジュニアライフガードの泳力テストを受けている最中、アシカに襲われた。右腕はかみ傷やあざやひっかき傷だらけになったが、幸いにも縫わずに済んだという

サーファーのRJ・ラメンドラさんは、突然水面から現れたアシカが自分に向かって突進してきたと振り返る。SNSの投稿によると、「その表情は悪魔みたいに狂暴で、いつもの好奇心いっぱいで遊び好きな様子からはかけ離れていた」といい、アシカは岸までずっと追いかけてきたと伝えている。

原因について専門家は、有毒な藻の大量発生(赤潮)に伴うドウモイ酸の影響を指摘する。

ロサンゼルスにある海洋哺乳類保護センターのジョン・ワーナー代表は、「アシカたちはほぼ昏睡(こんすい)状態となって岸に打ち上げられる。今回の赤潮は、これまでの何倍も悪いようだ。数の多さで言えば間違いなく過去最悪だ」と指摘した。

ボランティアの人々がアシカを保護している=3月25日、カリフォルニア州サンタバーバラ/David Swanson/AFP/Getty Images
ボランティアの人々がアシカを保護している=3月25日、カリフォルニア州サンタバーバラ/David Swanson/AFP/Getty Images

神経毒のドウモイ酸がアシカの餌に入り込むと、呼吸困難や発作を引き起こす。目を閉じた状態で頭を異常に長い間後ろにそらす発作の症状がみられることもある。

「この毒にやられると正気を失う」とワーナー氏は言う。「彼らは怖がっている。混乱状態になっておびえている。自分がどこにいるのか分からなくなって、おぼれないよう水から出ようとさえする」

恐怖のあまり攻撃的になったアシカは、近くに人がいれば襲うことがある。

病気になったり海岸に打ち上げられたりした生物について同センターに寄せられる通報は、普段であれば年間3000~4000件ほど。ところが今年は過去5週間だけで2000件を超えた。

ドウモイ酸は太平洋に存在する自然界の物質で、湧昇(ゆうしょう)と呼ばれる現象によって、海洋生物の食物連鎖に入り込むようになった。南カリフォルニアの沿岸部では冷たい海水が風にあおられて海底の堆積(たいせき)物が水面付近に浮上し、それを食べた小さな生物がペリカンやクジラ、魚などの餌になって、有毒な藻が食物連鎖に入り込む。

人間が引き起こした気候変動や陸地の開発が生態系を変化させ、有毒な藻類を異常繁殖させているとワーナー氏は指摘する。海面温度の上昇で酸性化が進むと藻が増殖し、農業廃水の窒素肥料は河川から海に流れ込んで藻の栄養になる。

かつてこうした藻の異常発生は数年に1度の現象だったが、今では毎年発生して、アシカやイルカ、海鳥に特に大きな影響を及ぼす。

今年は有毒な藻にやられる個体数が増えただけでなく、打ち上げられた個体の症状の激しさも増している。

ワーナー氏によると、50~60%程度は回復して海に戻ることができるものの、今年は毒性がはるかに強く、回復が難しいアシカもいる。「もう3週間もたつのにまだ昏睡に近い状態の個体もかなり多い。そのうち何頭が回復できるかは疑問だ」。ワーナー氏はそう語り、今回は過去に比べて生存率が低くなるかもしれないと予想した。

海岸に打ち上げられたアシカ。ドウモイ酸の影響を受けているとみられる=3月27日、カリフォルニア州オクスナード/Mario Tama/Getty Images
海岸に打ち上げられたアシカ。ドウモイ酸の影響を受けているとみられる=3月27日、カリフォルニア州オクスナード/Mario Tama/Getty Images

今年治療したアシカは推定で約80%が妊娠していたといい、ドウモイ酸中毒のアシカが生き延びるために胎児を排出せざるを得ないことも多いと思われる。

アシカの生息数は今のところは保たれているが、いずれは影響が及ぶ恐れもある。「ゾウアザラシの赤ちゃんやアシカの赤ちゃんが打ち上げられる数も増えている」(ワーナー氏)

同センターではアシカの毒素を洗い流して脳の損傷を防ぐ抗けいれん薬を投与するなどの治療を続けている。例年は1週間ほどで自力で餌を食べられるようになるが、今年は回復までに時間がかかるようになったという。センターは受け入れ数を増やすためにも、できるだけ早く海へ帰そうと努めている。

イルカも犠牲に

ドウモイ酸はアシカだけでなくイルカの命も奪う。同センターによると、今年に入って打ち上げられたイルカは、ロサンゼルス郡だけで過去最悪の70頭を超えた。

「イルカに効く治療法はない。ほとんどは漂着した時点で死んでいる。海岸で苦しんでいる個体は発作を起こしている」「我々には、苦しまないように安楽死させることしかできない。残念ながら、我々がそうしなければならなかった数は、これまでで最も多かった」(ワーナー氏)

同センターが遭遇した座礁イルカのうち、約20頭はまだ生きているという。

3月末までに同センターが治療した個体数は240頭。しかし同センターの予算で治療できるのは年間300頭に限られる。

サーファーのラメンドラさんがアシカに襲われたのは、繁殖地のチャンネル諸島付近だった。同センターによれば、アシカの85%はこの諸島で6月に生まれており、「ここが過去4年間のドウモイ酸事案の中心地になっているようだ」とワーナー氏は話している。

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