北京への渡航、かつてないほど困難に ゼロコロナ対策強化で
筆者が乗った便の乗客はほとんどが中国のパスポートを持っていたようだ。
外国人はごく限られたケースしか入国が認められない。特に米中関係の悪化により、米国人ジャーナリストが中国の入国ビザを取得するのは極めて困難だ。昨年11月に行われたバイデン大統領と習近平(シーチンピン)国家主席の会談を受け、両国は双方のジャーナリストに対するビザ規制を緩和することで合意した。筆者も年明け、何度も面接を受けた末にビザが下りた。
だがそれでも筆者が米国籍のパスポートを手渡すと、入国管理局の職員は数分間ページをめくったあと、「警察」の文字が書かれた防護服の集団を呼んだ。どうやらあの便で脇に呼ばれたのは筆者だけのようだった。
その後別室に案内されて尋問を受けた。職業や私生活について長々と尋問を受けた末、ようやく入国管理と税関に進むことが許可された。
入国管理をパスしたあと、隔離用のホテルに向かうバスを待つ間、隣に並んでいた男性に話しかけた。男性は上海出身で、この30年は日本に住んでいるという。パンデミックが発生してからは一度も帰省していなかったが、入国後に21日間の隔離を受けてでも上海に住む年老いた母親を訪ねようと決心したという。上海は数週間にわたるロックダウンの真っ最中。男性に残された道は唯ひとつ、雲南に飛んで状況が回復するまで待機するしかなかった。
中国の国家衛生健康委員会は4月29日、上海で「ゼロコロナ」政策による効果が見え始めたとし、中国全土の感染者数も減少傾向にあると述べた。
ホテルでの21日間の隔離
バスの車内は満席で、荷物は通路に山積みにされていた。車窓から人口660万人の昆明市の夜景が流れていく。明るい照明がビルや高速道路を照らしていた。
バスに揺られること2~3時間、温泉リゾートを改装した隔離施設に到着した。防護服を着た職員の案内で部屋へ向かった。
翌朝になって、窓から絶景が望めることに気が付いた。緑の木々と山々が、地平線の向こうに点々と広がっている。雲南省の省都である昆明は人気の観光地だ。景勝地として、また茶葉の生産地としても名高い。
部屋にはバルコニーがあったが、外に出ることはできなかった。だが景色が見えるのはありがたい。なにより窓を開けて新鮮な空気を吸えるのはうれしい。隔離施設の中には、窓の開閉が禁止されているところもある。
ドアを開けることができるのは検診と食料の受け取りのみ。検温は1日2回、検査も定期的に行われる。時には1日2回検査を受けることもあった。