取材班がスネーク島に上陸、ウクライナ戦争の伝説になった小島

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ウクライナの抵抗のシンボルとなったスネーク島にCNN取材班が上陸した/Pierre Bairin/CNN

ウクライナの抵抗のシンボルとなったスネーク島にCNN取材班が上陸した/Pierre Bairin/CNN

ウクライナ・スネーク島(CNN) スネーク島はウクライナの民間伝承の中で特別な位置を占める島だが、その重要性は以前にも増して高まっている。島の決死の防衛(ロシア軍艦船に「くたばれ」との言葉が投げつけられたエピソードは有名だ)とその後の奪還は戦争初期のウクライナを鼓舞し、ロシア軍優位の神話に風穴を開けた。

冬の風が吹き付けるスネーク島はいま、ウクライナの確固たる支配下にある。岩がちなこの小島は、象徴的にも戦略的にも高い重要性を持つ。

CNN取材班は今回、6月の奪還以降に初めて外国メディアとして島を訪問し、解放作戦を率いた指揮官に話を聞いた。

別名ズミイヌイ島とも呼ばれるスネーク島は岩と草からなる小島で、樹木は存在しない。アクセスは難しく、ウクライナの沖合約48キロ、ルーマニアとの海上国境の近くに位置する。

島にたどり着くのは一苦労だった。小型ボートに乗り込んだ取材班は1時間にわたって波に揺られ、氷点下の気温の中で水しぶきを浴びながら海を渡った。黒海は過酷な環境なうえ、海岸線にも危険がひそむ。帰路ではボートが砂州に座礁し、暗闇の中で6時間をかけて一人ひとり別の船に乗り移った。

現在のスネーク島は残骸が散らばる荒涼とした場所だ。島にあるわずかな建物は骨組みだけの状態になり、半ば海中に沈んだ桟橋は潮にさらされている。不発弾や地雷が散乱する島は高額兵器の墓場の様相を呈しており、気を抜ける場所ではない。

CNN取材班は少なくとも4種類の地雷やロシアの地対空ミサイルシステム「パーンツィリ」、ほぼ無傷の対空ミサイルコンプレックス「トール」を目撃した。被弾したロシア軍ヘリの残骸もあった。

岩がちな島にはかつて灯台のペットだったと思われる猫が多数暮らしている/Pierre Bairin/CNN
岩がちな島にはかつて灯台のペットだったと思われる猫が多数暮らしている/Pierre Bairin/CNN

残骸の間を縫って数十匹のネコがうろうろしているシュールな光景も見られた。おそらく、まだ平和だった頃に灯台で飼われていたペットの子孫だろう。

ウクライナは監視任務の一環で島に小規模部隊を駐留させている。部隊の1人は実はロシア人だ。「フォルトゥナ」のコールサインを持つこの人物はウクライナ軍に志願した。

戦争前はウクライナで家族と暮らしていたというフォルトゥナ。「そこへロシアが攻撃してきた。我々を攻撃したのがどこか別の国であっても、我々は戦うだろう」と話す。

フォルトゥナによれば、最近のロシア軍は少なくともこの辺りではあまり攻撃を仕掛けてこない。

「現時点ではロシア軍の攻撃は空爆のみだ」「ロシア軍が接近してくれば音が聞こえる。加えて、島の全周に配置している監視員からも情報が入る。このため、攻撃の可能性について事前に警告を受けていることが多い」

時折、遠方にロシアの軍艦が見えることもある。

「週7日、24時間ひっきりなしに警戒に当たる必要があるので、退屈することはない。いつも何かやることがある」

ロシア軍が使用不能にして島に置いて行った対空ミサイルコンプレックス「トール」/Pierre Bairin/CNN
ロシア軍が使用不能にして島に置いて行った対空ミサイルコンプレックス「トール」/Pierre Bairin/CNN

抵抗の象徴

スネーク島は2月の侵攻開始から数日で陥落した。当時、ウクライナはロシア軍を相手に複数の前線で苦戦していた。しかし、島の陥落前に徹底抗戦の姿勢が示され、それが瞬く間にウクライナの抵抗の決意を示すミームになった。

接近してくるロシア艦から投降を命じられた際、島に駐留する小規模部隊の一人が無線で「ロシアの軍艦、くたばれ」と言い返したのだ。

この言葉はTシャツから郵便切手、道路標識まであらゆるものに登場することになった。

島に駐留する小規模部隊の一人はCNNに対し、これが人々に戦闘や軍への志願を促す転換点になったと振り返る。

島の占領から数カ月後に奪還作戦を率いたこの男性は、本名を明かさなかった。軍情報機関の将校である男性は「シェークスピア」のコールサインで通っている。

「ウクライナに私のような将校は4~5人しかいない。詳細を明かせば、誰もが私だと気付くだろう」

ただ、6月末までに成功した島の奪還計画については詳しく説明してくれた。

スネーク島に駐留するウクライナ軍の兵士ら/Pierre Bairin/CNN
スネーク島に駐留するウクライナ軍の兵士ら/Pierre Bairin/CNN

奪還作戦の大半が行われたのは5月。無防備なロシアの陣地は攻撃目標になった。「適切な火砲を選び、適切に組み合わせることが何より重要だった」とシェークスピアは振り返る。

「ロシアは我々の攻撃が届かないと判断するミスを犯した。多連装ロケットを発射することしかできないだろうと踏み、対空システムを設置した。彼らはロケット弾の迎撃には成功したが、我々は複合攻撃を仕掛けた」(シェークスピア)

「彼らは人員や多数の高額車両をむざむざ失った。これが彼らの大きなミスだった」

攻撃にはフランス製の自走砲「カエサル」やロケット砲「グラート」が使われたという。ただ、ウクライナが開発した射程40キロの榴(りゅう)弾砲「ボグダナ」については辛口の評価を下した。

「ボグダナは発射できずに壊れることの方が多かった」とシェークスピアは振り返る。

克服すべき課題は多かった。特に海を挟んで火砲を発射するのは、陸上とは比べものにならないほど難しい。「様々な異なる状況が生まれるので、照準は複雑になる」。偵察ドローン(無人機)が砲撃の精度を高めるのに役立ったという。

ロシアが島に電子戦装置や防空システムを持ち込む前には、トルコから供給されたバイラクタル無人機も活用した。

ロシアは島の防衛のため、クリミア半島セバストポリから装備品を輸送する必要に迫られた。それがロシアの2つ目のミスだったと、シェークスピアは指摘する。無防備な補給線が長く伸び、ウクライナの対艦ミサイルに対して脆弱(ぜいじゃく)になったためだ。

島には不発弾や地雷が散乱する/Pierre Bairin/CNN
島には不発弾や地雷が散乱する/Pierre Bairin/CNN

シェークスピアはロシア軍の陣地をたたいた後、6月末に初めて島に上陸した時のことも振り返った。

「特殊部隊や海軍歩兵の機雷処理班が投入された。戦闘水泳兵や潜水兵もだ。彼らが海中で機雷の有無を確認してくれたことで、他の要員が艦船で島に近づけるようになった」

上陸したウクライナ兵が目にしたのは、打ち捨てられた兵器の山だった。

「島には誰もいなかった。ロシア兵は弾薬や装備品を残したまま急いで島を離れた」

残された兵器の中にはほぼ無傷の「トール」コンプレックスもあった。「もし時間があればロシア兵はトールを爆破しただろう」(シェークスピア)

取材班の訪問は短時間にならざるを得なかった。我々の案内人はロシアに計画を練る時間を与えたくなかったうえ、天候も悪化していた。冬の午後の灰色の空の下、我々はそそくさと退散させられ、砂州に座礁する羽目になった。

だが、島をめぐる謎は今も残る。スネーク島はギリシャ神話のアキレスの埋葬地とされ、一時はギリシャ神殿が建っていた。島の支配を巡ってロシア帝国とオスマン帝国が争ったこともあり、あらゆる岩や洞窟に物語が隠されているように見える。

そして今、こうした伝承の数々に現代の伝説が加わった。

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