「消耗戦という現実」
英ロンドン大学キングス・カレッジで戦争や戦略について教えるアレッシオ・パタラーノ教授は、タングレディ氏の研究を称賛した。
「同氏の研究は、海上戦で数は重要でないという愚かな思い込みに、実に見事な反論を展開している」(パタラーノ教授)
パタラーノ教授はとくに2つの重要点を強調した。
数が大きければ、指揮官も指令を出す際に強気な姿勢を取ることができる。
「艦隊の規模が大きければ、兵士の訓練プログラムでも作戦能力でも、より優位に立つことができる」(パタラーノ教授)
また大規模な国防産業の存在も必要不可欠だと同教授は言う。とりわけ戦闘で死傷者が出た後、新たな部隊を用意することができる。
「海上戦では、消耗戦は現実のものだ。補充能力が肝になる」(パタラーノ教授)
第2次世界大戦中の航空母艦に注目したタングレディ氏の研究も、明白な数字を示している。開戦当時、日米が保有していた空母はいずれも8隻だったそうだ。
「大日本帝国は戦時中に空母相当の艦船を18隻建造した。これに対し、米国が建造したのは144隻。米国が戦闘を止めない限り、日本にはまるで勝ち目がなかった」(タングレディ氏)
1940年代の米国は世界に冠たる工業国であり、造船業は米国の強みだった。現在その地位は中国に明け渡されている。
「冷戦終結以降、統合と縮小を続けてきた米国の国防産業が瞬時に業務を拡大し、戦時中の需要を満たせるだろうか。大半の専門家が懐疑的だ」(タングレディ氏)
弾薬の在庫補充
確かに米国の国防産業を巡っては、ウクライナへの武器供与のニーズについて行くことができないのではないかとの懸念がある。ロシアの侵攻と戦うウクライナへの支援を行いつつも、国内の武器在庫は適正な水準に保たなくてはならないからだ。
米国艦隊総軍司令官のダリル・コードル大将は先週、米国の国防産業は「我々が必要とする軍需品を納品できていない」と述べ、業務拡大を求めた。
ワシントンで行われたシンポジウムでコードル大将は、「勝利のためには極めて重要だ。私も軍需品なしでは手も足も出ない」と述べ、米国は「これから相手にするのは、いまだかつて見たことのないような対戦国であり、仮想敵国なのだ」と続けた。
コードル大将の上官に当たるマイク・ギルデイ海軍作戦部長も先週行われたオンラインフォーラムで、太平洋での紛争で米国が直面するであろう数の問題を指摘した。
「米国海軍は、ミサイルの数でPLANに太刀打ちすることができないだろう」とギルデイ大将は発言した。
米海軍がミサイルや艦隊の数で中国と肩を並べることができないのであれば、果たしてどこに優位性を見出せるだろうかとタングレディ氏は首をかしげる。
「そうした戦闘の際、数の優位性がない状態で、自分たちが技術面での優位性をどこまであてにできるのか、米国の指導者は自問するべきだ」(タングレディ氏)
「私はなにも、数は劣れど技術的に優れた艦隊が、多勢の艦隊を打ち負かすのは到底無理だと言っているわけではない。ただ――過去1200年間で3件を例外とすれば――成功例はひとつもないと言っているのだ」
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本稿はCNNのブラッド・レンドン記者の分析記事です。