ロシアに収容所、ウクライナの子ども6000人超を「再教育」か 米報告書

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児童養護施設の空のベビーベッド=2022年11月、ウクライナ・ヘルソン州/Bernat Armangue/AP

児童養護施設の空のベビーベッド=2022年11月、ウクライナ・ヘルソン州/Bernat Armangue/AP

ワシントン(CNN) ロシア政府は昨年ウクライナに侵攻して以来、広域にわたって数十カ所の施設を運営し、ウクライナ人の子ども数千人を収容していることがわかった。14日に発表された報告書で明らかになった。

報告書には、ロシア政府の行為について不穏な詳細が新たに記されている。ロシア政府が、ウクライナの子どもの移送や再教育、場合によっては軍事訓練や強制的な養子縁組を行っているとしている。こうした行いは戦争犯罪にあたるほか、ロシア側の行為がジェノサイド(集団虐殺)に相当するという証拠を提供することも可能だとしている。

報告書は米国務省が支援するイエール大学人道研究所の「紛争監視団」の調査の一環で作成された。紛争監視団は昨年、ウクライナにおけるロシアの戦争犯罪の証拠収集を目的として設立された。

イエール大人道研究所のナサニエル・レイモンド氏は14日、報道陣に、「あらゆるレベルでロシア政府が関与している」と語った。

「今回の報告書は、ウクライナの子どもを対象にした非常に大きなアンバーアラート(子どもの誘拐事件を伝える警報)ととらえてほしい」(レイモンド氏)

報告書によると、1年近くに及ぶ戦争の期間中、生後数カ月から17歳までの6000人以上の子どもたちがいずれかの時点でロシアの拘束下に置かれていたことが判明した。「そうした子どもの総数は分からないが、6000人をはるかに上回る可能性もある」という。

レイモンド氏によれば、報告書が特定した43カ所の施設は「ロシアを横断する」ネットワークを形成し、その中にはロシア占領下にあるクリミア半島や、「モスクワよりもアラスカに近い東部太平洋沿岸」、シベリアも含まれているという。

「収容所の主な目的は政治的な再教育だ」とレイモンド氏は述べ、報告書で特定された収容所のうち少なくとも32カ所は「組織的な再教育活動に関与し、ウクライナの子どもにロシア中心の学校教育、文化教育、愛国心教育を受けさせていたとみられる。そのうち2カ所ではとくに軍事教育が行われていた」と指摘した。

報告書について、CNNはワシントンのロシア大使館にコメントを求めている。

武器の使い方を訓練される子ども

レイモンド氏によると、チェチェン共和国とクリミアの収容所は「子どもに銃器や軍事車両の使い方を教える訓練と深く関わっているとみられる」。ただし現時点で、こうした軍事キャンプで訓練を受けた子どもが戦場に送り込まれたという証拠はあがっていない。

報告書によると、「収容された子どもの多くは、両親の同意により数日間ないし数週間の約束で収容所に送られ、当初の予定通り両親の元に戻された」。しかし、「戦時下で占領軍の暗黙の脅しを受けている状況は強要されているに等しいことから、多くの場合、両親がよく考えて同意できたかは疑わしい可能性がある」という。

「中には収容所に数カ月間拘束された子どももいる。そのうち数百人はいまだ状況が不明で、報告書作成の時点で家族の元に戻れたかどうか分かっていない。報告書が特定した2カ所の収容所では、子どもの帰宅予定日が数週間先延ばしにされた。別の2カ所の収容所では、無期限で帰宅が延期された」

それとは別に、「孤児」とみなされてロシア人家族のもとに養子に出された子どももいる。

「こうした子どもたちは両親と連絡が途絶えるか、散発的にしか連絡できない場合もあり、毎日のように現実的で潜在的な害がもたらされている。この点を理解しておくことが極めて重要だ」と、同じくイエール大人道研究所のケイトリン・ハワース氏は語った。

報告書は「活動の運営や政治的な正当化に直接関わった連邦、地方、地域レベルの人物を数十人特定した」とした。「このうち少なくとも12人は、米国と国際社会の両方またはいずれか一方の制裁対象から外れている」という。

レイモンド氏は「今回はジェノサイドと結論づけていないが、こうした制度は、ある集団から別の集団への子どもたちの移送を禁じるローマ規程やジェノサイド条約の法令上の基準に合致している」と指摘した。

子どもの連行は「ウクライナのアイデンティティー抑圧のため」と米国

米国務省のネッド・プライス報道官は「ロシア政府はウクライナの子どもを強制的に移動させ、再教育し、養子縁組を行う制度を中核として、ウクライナのアイデンティティーや歴史、文化を組織的に否定し、抑圧しようとしている」と述べた。

同報道官は14日の記者会見で、「成果の上がらないロシアの侵攻による壊滅的な影響は、この先何世代にもわたって尾を引くだろう」と述べた。

米国務省がメディアに配布したメモにも、「保護された人物の不法な移送や国外退去は、民間人の保護について定めたジュネーブ条約の重大な違反にあたり、戦争犯罪を構成する」と書かれていた。

「子どもの移送や退去が行われていることは、あらゆる基準に照らし合わせても非良心的だ。ロシアは強制移送および強制退去を即刻停止し、子どもたちを家族や法定後見人の元に帰さなければならない。ロシアは移送や退去をさせられた子どもの名簿を提出し、外部独立機関のオブザーバーに対して、ウクライナ国内のロシア占領地域およびロシア国内の関連施設を訪問する権限を与えなければならない」(米国務省)

さらにメモは「ロシアの行為が示す山のような証拠は、ウクライナのアイデンティティーや歴史、文化を否定し、抑圧しようとするロシア政府の意図を浮き彫りにしている」と続く。「プーチン氏の戦争が子どもたちに与える甚大な影響は、何世代も尾を引くことになるだろう。米国はウクライナとともに立ち向かい、どんなに時間がかかろうとも、ロシアによる恐ろしい虐待の責任を追及していく」

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