仮にトルコの問題が片付いても、別の問題がある。そこまで厄介ではないが、ハンガリーという存在だ。
ハンガリーのオルバン首相は北欧2国の加盟に反対しない立場を公言しているものの、さまざまな手段で正式決定を遅らせている。
オルバン氏が歩みを鈍らせる理由はいくつかある。フィンランドもスウェーデンも、これまでハンガリーにおける法の統治のあり方を批判してきた。首相は最新のインタビューでこの件に言及し、「ハンガリーについて平気でうそを並べながら、我々の軍事同盟に加わりたいなどと言えるのか」と問いかけた。
オルバン氏はEU首脳の中でももっともプーチン氏と親しい人物とみなされている。欧州議会のハンガリー代表議員カタリン・セェ氏は、スウェーデンとフィンランドの加盟申請を拒むオルバン氏の行為を「平たく言って、プーチン氏への好意だ」と述べた。セェ氏は、次第に専制色を濃くしていると非難されているオルバン氏が「10年以上もプーチン氏の政策の模倣とプーチン氏の制度の確立に力を注いできた」と述べた。いかなる形であれ、プーチン氏に対するNATOの勝利は「オルバン氏の体制全体を危険にさらす」という。
EU加盟国から譲歩を引き出すために、オルバン氏が時間稼ぎをしている可能性はある。EU諸国はハンガリーがEUの法律にことごとく違反していると非難し、その結果ハンガリーはEUの支援を打ち切られ、白い目で見られるようになった。NATOとEUは別の組織だが、両方に加盟する国も多く、両組織間の駆け引きからハンガリーとEU諸国の間でなんらかの折衝がある可能性もある。
だがオルバン氏の動きが鈍いとはいえ、トルコが片付けば、ハンガリーもフィンランドとスウェーデンのNATO加盟を反対しないだろうというのが大方の見方だ。
皮肉なことに、プーチン氏がウクライナ侵攻に踏み切った主な理由のひとつは、NATO拡大に歯止めをかけるためだった。おそらく侵攻が理由で、非同盟を貫いてきた国がNATOに歩み寄ることになった。このことは、今も西側関係者の目にロシア政府のオウンゴールとして映っている。
だが加盟が承認されるまで、NATOの運命は宙に浮いたままだ。ウクライナの戦争勃発以来、フィンランドとスウェーデンは実質的に自分たちの立ち位置を明らかにした。戦争が突如終結したとしても、両国が中立国に戻る公算は低そうだ。
NATOや西側同盟国にとってのリスクは、両国が加盟できず、ロシア政府がこれをプロパガンダの材料にした場合だ。そうなった場合、戦争が早期に終結しても、この先も西側の分断という物言いはNATOに対抗する国々の格好の宣伝材料になるだろう。
◇
本稿はCNNのルーク・マクギー記者の分析記事です。