「エアコン大好き」のシンガポールが示す気候変動のジレンマ
ヒートアイランド現象
だが、シンガポールの気温が上昇した原因は、地球温暖化だけではない。
高度に都市化が進んだ地域で、周辺の地域よりも気温が高くなる「ヒートアイランド現象」もその一因だ。
これは建物や道路、自動車などの都市構造物が、特に夜間に熱を閉じ込め、環境中に放出することで起こる現象で、シンガポールのように高度に発展し、比較的密集した場所で特に顕著だという。
米環境保護局(EPA)によれば、ヒートアイランド現象は都市内の自動車や工場、エアコンによって発生した廃熱によって、さらに悪化するという。
この問題を専門とするシンガポール国立大学(NUS)のマティアス・ロス教授は、シンガポールの最近の気温上昇は、主に地球温暖化とヒートアイランド現象の組み合わせの結果であると指摘する。
ロス氏は、エアコンが放出する熱が都市部のヒートアイランド現象に及ぼす影響を正確に定量化することは困難だとしながらも、「人間の活動や交通量が多い特定の商業地域や、高層ビルが密集しエアコンが使用されている地域など、この局所的な温暖化はおそらく環境に1~2度の影響を与える可能性がある」と述べている。
同氏は、これらの地域の面積は概して小さく、人の数も少ないとして、都市全体の平均気温に大きな影響を与えることはないとしたものの、エアコンは「エネルギー効率が良いわけではなく、大量かつ継続的に使用すると、暑い場所におけるエネルギー消費の大部分を占めることになる」とも指摘している。
ある意味、気温上昇を巡る要因を巡っては、どの程度が地球温暖化によるもので、どの程度が都市部のヒートアイランド現象によるものかを議論するのは無意味ということだ。どちらにしても結果は同じで、人々はますます暑くなっていると感じているのだ。
そして、暑ければ暑いほど、人々はさらにエアコンを使用するようになる。
ループを断ち切る
それでも専門家らは、この悪循環を断ち切る方法があると指摘する。
16年に合意された国連の「キガリ改正」に基づき、多くの国ではエアコンに使用されている有害な冷媒HFCを段階的に削減し、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)のようなより気候に優しい選択肢への置き換えを行っている。
こうした動きは過去にもあった。このキガリ改正は、1980年代にオゾン層を破壊するクロロフルオロカーボン(CFC)を段階的に削減することを定めたモントリオール議定書を改正したものだ。