「エアコン大好き」のシンガポールが示す気候変動のジレンマ
専門家らは、他の方法で涼しさを保つことで、エアコンの消費エネルギー量を削減できると述べている。
英オックスフォード大学スミス・スクール・オブ・エンタープライズ・アンド・エンバイロメントのラディカ・コスラ准教授は、豊富な緑地、日陰、水域、換気など、より持続可能な「受動的冷却戦略」を提案している。
「気温が高く、湿度が高いことを考慮すると、エアコンが必要な場合は多々あるが、重要なのは、エアコンを猛暑から逃れるための解決策とするのではなく、常にエアコン以外の選択肢を初めに検討することだ」とコスラ氏は指摘している。
「高温多湿のシンガポールは、他国の模範となるよう、持続可能な冷却ソリューションを特定し、促進し、拡大すべきだ」(コスラ氏)
エアコンの新鮮な変化
かつてエアコンを20世紀最大の発明のひとつと謳(うた)ったシンガポールは現在、エアコンを21世紀の用途に適合させようとする取り組みの最前線にいる。
シンガポール国家環境庁(NEA)は、2022年10月以降、GWP(地球温暖化係数)が高い冷媒の供給を禁止した。またNEAは一般家庭に対し、可能な限りエアコンではなく扇風機を使用するよう奨励。エアコンを使用する場合は、タイマーを設定し、設定温度は25度以下にせず、効率を維持するため定期的にエアコンユニットのメンテナンスを行うよう、住民に助言しているという。
NUSは環境への懸念を考慮し、自然換気されたオープンスペースと革新的な 「100%新鮮な予冷空気を供給するハイブリッド冷却システム」を誇る、シンガポール初の「ネットゼロ・エネルギービルディング」と称する建物を建設した。
19年に完成したNUSデザイン環境学部の6階建て新校舎「SDE4」は、熱的快適性がいかに「環境を犠牲にする必要がなかったか」を証明するものだと、SDE4に携わった建築家はCNNに語った。ヘン・チェ・キアン副学部長は「我々はSDE4がネットゼロの建物になるよう懸命に取り組んだ」と話している。
SDE4では、エアコンユニットの代わりにシーリングファンを使用。スマートセンサーが温度、湿度、二酸化炭素(CO2)から空気粒子、光、音に至るまでの変数を測定・管理し、「エネルギー消費をさらに抑える」という。
NUSはこうした取り組みについて、「気候変動との戦いの中で、他の建物や設計者たちにも同じことを実現し、エネルギー使用量を減らすよう促すきっかけになればと願っている」と述べている。
ヘン氏はSDE4を数年間運用した結果、この建物は「エネルギー・ポジティブ」、つまり消費エネルギーよりも生産エネルギーの方が「圧倒的に多い」ことが判明したと付け加えた。
つまり、厄介なパラドックスの中にも、ポジティブなエネルギーは存在するということだ。