ミレイ氏が掲げる公約
独身で5匹のイングリッシュ・マスチフ(そのうち1匹は、新自由主義を代表する経済学者ミルトン・フリードマン氏にちなんで名づけられた)と暮らすミレイ氏は、リベタリアンと「無政府資本主義者」を自称している。公的助成金の大幅削減の他、文化省、教育省、環境省、女性・ジェンダー・ダイバーシティー省など各省庁の撤廃を公約として掲げている。
おそらくミレイ氏の公約でとくに重大なのが、通貨のドル化だろう。この過激な案こそ、アルゼンチンの慢性的な物価上昇問題を解決する究極の解決策だと本人は主張している。ペソに代わって米ドルを通貨として採用し、自国金融政策を放棄することは、南米諸国では決して珍しいことではない。エクアドル、エルサルバドル、パナマはいずれも米ドルを通貨として採用している。だが、アルゼンチンほどの規模の国では前例がない。
だが、マクロ経済ストラテジストとしてのミレイ氏の手腕も不確定要素だ。政界入りする以前、同氏は民間企業で金融アナリストを務めていた。
「保護政策が一切ない状態での経済解放は、アルゼンチンでは前例がない」と語るのは、ブエノスアイレスのロザリオ国立大学で金融を教えるハビエル・マルクス教授だ。他の国々では米ドルを採用して効率的に物価を安定させることができても、金融政策を放棄するということは、すなわちアルゼンチンが国の財政状況に影響を及ぼす能力を事実上放棄することになる。
マルクス教授が指摘しているように、ドル化によってアルゼンチンは海外の経済問題の影響をより一層受けやすくなるだろう。ここが他のポピュリスト指導者とは大きく異なる点だ。「トランプ氏やボルソナーロ氏はつねづね自国第一主義を掲げ、国内製造業を支持してきたので、これは大きな違いだ」と教授は言う。「だが見れば分かるように、ミレイ氏の場合はアルゼンチンを世界に開放せよと連呼している」
だが多くの人々にとって同じく受け入れがたいのは、ミレイ氏が時に性差別ともとれる極端な個人攻撃に走る点だ。ミレイ氏は18年、地元ジャーナリストのテレサ・フリア氏から経済戦略について質問された際、声を荒げてこう答えた。「私は全体主義者じゃない。言わせてもらえば、あなたは雌のロバで、自分の言っていることがまるで分かってない。あなたはただロバのように話している。私があなたのマヌケ面を正してやろう!」
ミレイ氏はこうした政治方針により、アルゼンチンで影響力の大きい女性有権者と衝突を繰り返している。選挙活動中にも、大統領に就任した暁には国民投票を実施して、人工妊娠中絶を合法化した20年の憲法改正を撤廃すると発言している。もっともCNNが取材した憲法の専門家は、このような措置の合法性を疑問視している。
ミレイ氏は政治的リスクを冒してローマ教皇フランシスコを攻撃することにも一生懸命で、20年11月には教皇を「悪魔の使い」とまで呼んだ。もっとも、ここ数カ月間はそうした見解とは距離を置いている。米中央情報局(CIA)のファクトブックによれば、アルゼンチンは敬虔(けいけん)なカトリック教国家で、国民の60%以上がローマ・カトリック教信者を自認している。
ミレイ氏も選挙活動中はフランシスコ教皇への個人攻撃は控えているが、CNNの取材に応じた広報担当者は、ミレイ氏にとって「フランシスコ教皇は社会の進歩を妨げる領域の代表格だ」と答えた。