(CNN) ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)総書記の会談を報道するのは、絵解きの腕を競い合うようなものかもしれない。両首脳はクレムリン(ロシア大統領府)が言うところの「極めて実のある」議論を13日に行った。しかしいくつかの写真撮影の機会を別にすれば、非公開の会談で何があったのか、我々に分かることはほとんどなかった。
プーチン氏と金氏は、ロシア極東アムール州にあるボストーチヌイ宇宙基地で握手を交わした。北朝鮮のリーダーは、プーチン氏専用のロシア製リムジン「アウルス」の乗り心地を楽しんだ。それから同氏のために乾杯し、ロシアが「悪しき勢力」に罰を与えるだろうと断言した。独裁者らしい言い回しで、プーチン氏によるぞっとするような対ウクライナの消耗戦への支持を表明したようだった。
しかし両首脳は記者会見を開かず、声明も出さなかった。いかなる協定も、公式には発表されていない。ロシア極東で開かれた首脳会談から真のポイントを見出すのは至難の業だろう。ただ、この会談によって世界が被る影響は相当に大きい。
7月、ロシアのショイグ国防相が平壌を訪問した時、買い物リストを持参していたのは明らかだ。ウクライナでの強度の高い戦闘が1年半続いた後で、ロシアの弾薬の備蓄は大幅に低減した。米国の当局者は、北朝鮮とロシアが協定を結び、ロシアに対してウクライナでの戦争に必要な武器の供給を取り決めることを検討する可能性があると警告していた。北朝鮮は朝鮮半島に相当量の武器を保有している。
このような取り決めがロシア国内で成立したとするなら(これまでのところそれを示す証拠は一切確認できていないが)、それは北朝鮮が米国及び北大西洋条約機構(NATO)の産業基盤との競争に乗り出すことを意味する。米国とNATOは徐々に、しかし着実にウクライナがロシア相手に戦い抜くための武器を供給している。状況はまさに生きるか死ぬかだ。米国が大統領選シーズンに突入する中、プーチン氏はウクライナへの支援が弱体化するのを当てにしているとみられる。
さらに北朝鮮にとっても何らかの見返りがありそうだ。金氏の体制は国際社会から著しく孤立する。核と弾道ミサイルの開発プログラムを理由に、度重なる制裁を受けている。ロシアも過去には、北朝鮮への制裁に署名したことがあった。
しかし、自らの政権がウクライナへの全面侵攻による制裁の対象となる中、プーチン氏は金氏の命脈をつないでいるように見える。ニンジンの代わりにぶら下げているのは、ロシアの有する技術だ。
宇宙基地訪問に当たり、ある記者がプーチン氏に尋ねた。ロシアは北朝鮮が「自前の衛星とロケットを打ち上げる」のを支援するのかと。プーチン氏は答えた。「我々はまさしくそのためにここへ来た」
「北朝鮮の指導部は、宇宙への大きな関心を示している。ロケット工学への関心だ。そして彼らは宇宙開発に取り組んでいる。我々の新しい開発品をお見せする」。プーチン氏はそう語った。
金氏の宇宙に対する関心は、当たり障りのない話に聞こえるかもしれない。しかしプーチン氏の言い回しは、コメディアンのモート・サルがベルナー・フォン・ブラウンについて口にしていた古いジョークを思い起こさせる。フォン・ブラウンはドイツのロケット科学者で、第2次大戦中ナチスドイツの弾道ミサイル技術を先導した。サルのジョークとはこうだ。「彼は星を狙っていたが、時々イングランドに当てた」
フォン・ブラウンがミサイルの技術や米国の宇宙開発プログラムにどれほど貢献したかはよく知られる。彼の業績は、宇宙探査と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発の両方に道を開いた。後者は核兵器を世界中に打ち上げる性能を有する。
つまり、北朝鮮とロシアの間で技術の交換が行われる可能性については、依然として未知の部分が大きいのが実情だ。米国は、北朝鮮が既にウクライナ戦争のプレーヤーになったと確信し、ロシアの傭兵(ようへい)集団ワグネルに武器を提供していると考えている。
ワグネル創始者のエフゲニー・プリゴジン氏は、そうした疑惑を「ゴシップや臆測にすぎない」と一蹴していた。同氏は先月、搭乗していた航空機が墜落して死亡した。
もしロシアがこうした打ち上げ技術を北朝鮮に手渡すなら、その時世界は、1945年以降の欧州で最大の地上戦の影響がより広範囲に及ぶのを目の当たりにするかもしれない。そして2つののけ者国家による結束は、予想外かつ危険な形で展開していく恐れがある。
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本稿はCNNのネーサン・ホッジ記者の分析記事です。