「ガザの地下鉄」 イスラム組織ハマスの謎多き地下トンネル
(CNN) パレスチナ自治区ガザ地区の地下には無数のトンネルが存在し、エジプトからの密輸やイスラエルへの攻撃に利用されていることはよく知られている。
だがもうひとつ、イスラエル国防軍(IDF)の内部で「ガザの地下鉄」と呼ばれるトンネルがある。一説によると、深さ数キロメートルの広大なトンネルの迷路はIDFの戦闘機や偵察ドローン(無人機)の監視の目を逃れ、人間や物資の運搬やロケットや弾薬の保管の他、イスラム組織ハマスの指令室としても使われているという。
ハマスは2021年、約500キロメートルのトンネルがガザの地下に存在すると主張した。この数字が正しいのか、はったりなのかは定かでない。正しいとすれば、ハマスの地下トンネルの長さはニューヨーク市地下鉄の路線距離の半分弱ということになる。
「狭い領域にしては、非常に入り組んだ巨大な、広大なトンネル網だ」とイスラエルのライヒマン大学で教鞭(きょうべん)を取る地下戦争の専門家、ダフネ・リッチモンドバラク教授は語る。
困窮する海岸地区を統治するハマスがトンネル網の建設でどれほどの代償を払ったのかはわからない。費用の点でも労力の点でも、相当な負担だったと思われる。
イスラム組織ハマスとガザの武装組織イスラム聖戦のトンネルを視察するイスラエル軍の司令官=2018年2月/Uriel Sinai/The New York Times/Redux
ガザは07年以来、イスラエルから陸海空を包囲され、エジプトからも陸路を封鎖されている。したがって、地下深くのトンネル掘削に通常使われる重機を所有していたとは考えにくい。作業員は基本的な工具で地下にトンネルを掘り、電気を通し、コンクリートで補強したのだろうと専門家は予想する。イスラエルもかねて、ハマスが民間利用や人道目的で供給されたコンクリートをトンネル建設に流用していると非難してきた。
トンネル建設にこれほど巨額の費用をかけるぐらいなら、ハマスはイスラエルとの国境沿いに設置されているような民間用の防空壕(ごう)や空襲警報ネットワークを建設することもできただろうという批判的な意見もある。
非対称戦争に有利
地下トンネルは中世以降、戦争の道具として重宝されてきた。今日も非対称戦争においては、トンネルはIDFのような近代化された軍隊の技術的優位性の一部を覆し、ハマスをはじめとする民兵組織に優位性をもたらしている。
国際テロ組織アルカイダはアフガニスタンの山岳部に、南ベトナム解放民族戦線は東南アジアのジャングルにトンネルを建設したが、ハマスのトンネルは世界でもとくに人口密度の高い場所に掘られたという点で異なる。ガザ市を形成する88平方マイル(約228平方キロ)に200万人近い人々が暮らしている。
リッチモンドバラク教授は「誤解のないように言っておくと、山岳地であろうがどんな状況であれ、トンネルはつねに扱いが難しい。だが都市部となると何もかもが複雑化する。戦術的にも、戦略的にも、作戦面でも。それからもちろん、民間人に保証しようとしている保護の点でも」と述べた。リッチモンドバラク教授は、米陸軍士官学校(ウェストポイント)のリーバー陸戦法研究所と現代戦争研究所で上級研究員も務めている。
イスラム組織ハマスのトンネルを模倣した仮想現実(VR)を使って訓練を行うイスラエル軍特殊部隊の兵士=2017年4月/Rina Castelnuovo/Bloomerg/Getty Images/File
今月7日のイスラエルに対する奇襲で民間人を中心に1400人以上の死者が出て以来、IDFはハマスが「罪のないガザ市民が集まる住宅の地下や建物内の」トンネルに隠れ、市民を事実上の人間の盾にしていると再三主張している。
IDFは来たるガザでの地上戦でトンネル網を標的にするとみられている。近年も、ハマスのトンネルを除去するためには努力を惜しまないという姿勢を見せてきた。14年には地下道壊滅を掲げて、ガザを地上攻撃した。
国連によると、イスラエルは13日、想定される地上戦を前に、ガザで暮らす約110万人の住民に南方へ移動するよう警告した。戦闘まっただ中の地域で、直前になってこうした命令を遂行するのは不可能だという批判の声が上がった。国連人権機構の幹部は、避難命令が「戦争のルールと人道の原則に背くものだ」と述べた。
ガザから民間人を非難させれば、安全にトンネルを除去することはできるだろう。だがリッチモンドバラク教授が言うように、そうした作戦は危険を伴う。
IDFが一時的にトンネルを利用不可にする、または破壊するという手も考えられる。リッチモンドバラク教授によれば、一般的に最も効果的な方法は地下道を空爆することだが、そうすれば民間人にも影響が及びかねない。
ひとつわかっていることは、テクノロジーだけでは地下トンネルの脅威を阻止できないという点だ。
イスラエルは数十億ドルを投じ、最先端のセンサーや地下外壁などのスマート技術で境界の強化に当たってきた。だがそれでもハマスは今月7日、陸海空から奇襲を仕掛けることができた。
画像解析や境界の監視、さらには怪しいことがないか目を光らせるよう民間人に求めるなど、包括的な対策が必要だとリッチモンドバラク教授は言う。
「トンネルの脅威の対策として、鉄壁の解決法はない。トンネル用の『アイアンドーム』など存在しない」(リッチモンドバラク教授)