ワシントン(CNN) パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスの軍事部門の司令官が、配下の工作員のための奨学金を要請していたことが分かった。奨学金はイランの大学で工学、物理学、科学技術を学ぶ資金となる。ガザ地区外のハマスのピックアップトラック内で見つかったコンピューターから回収された文書により明らかになった。
CNNは当該の文書をイスラエルの当局者から入手した。
イランが資金と軍事の両面からハマスを支援していることは広く知られているが、イスラエルの当局者並びに米国の元情報当局者らによれば、この文書は10月7日のイスラエル南部への奇襲に向けた準備行動に関する証拠となる。そこではイランが技術訓練を提供しようとしていた実態が示唆される。訓練はハマスが自前の兵器を製造できるようになることを念頭に置いたものだという。
イスラエル政府は文書についてのコメントを控えたが、政府内の複数の情報筋は文書が本物であることを非公式に確認した。
イスラエルの当局者らによれば、イランのハマス支援の取り組みとして、この種の大学主体の訓練を工作員に施している事例が明らかになるのはこれが初めてだという。米国の当局者は、こうした主張について確認できないと述べた。
CNNは文書の信憑(しんぴょう)性を独自に検証できていない。しかし米国の現当局者と元当局者は共に文書について、イランが中東全域に力を誇示する手法に合致していると指摘する。イランはかねて奨学金を利用し、自国の影響力の確立や潜在的な情報機関の育成、イデオロギーの宣伝を行ってきた。レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラが創設された1980年代以降見られる手法だという。
CNNはイラン国連代表部の報道官にコメントを求めたが、返答はなかった。
上記の奇襲の策定や遂行にイラン政府が直接関与した兆候はみられないが、イスラエル、米国両国はイランに広義での責任があると主張。理由として同国がハマスを支援してきた歴史的経緯を挙げている。
当該の文書は今年7月に作成された書簡とみられ、ハマス軍事部門の司令官からイラン政府に対し、配下の工作員7人によるイランへの渡航の許可を求める内容。渡航目的はある奨学金プログラムへの参加としている。
米国の当局者らによれば、このプログラムはイランが同盟国や連携する組織からの学生に提供するよく知られた訓練計画の一環。中東全域にソフトパワーの威力を誇示する狙いがあるという。
ガザ地区からは少なくとも50人の学生がより広範なプログラムに参加する見込みだったと、イスラエルの当局者らは明かす。全員がハマスの戦闘員ではなく、今のところイスラエルの諜報(ちょうほう)部門が既にイラン入りしたと特定するハマスの軍事工作員は少数に限られる。
イスラエルの当局者によれば、ハマスの戦闘員らには火薬学に関する明示的な訓練も提供される。こうした訓練は大学のプログラムを通じ、イラン革命防衛隊(IRGC)により施される公算が大きいという。
米国の元当局者で中東地域の情報分析を統括していたジョナサン・パニコフ氏は、こうした大学でのプログラムについて、イランがハマスやその他の代理勢力に対し軍事能力の増強を望んでいることを示唆するものだと指摘。これらの組織がイランに完全に依存するのを防ぐ意図があると述べた。
ガザに住む一般のパレスチナ人からは水道インフラなどの基本的な事業に対する不満の声も上がっていることから、ハマスの学生の一部は民生目的で工学を学んでいる可能性もあるとパニコフ氏はみている。
「それでも彼らの主眼は常に、自分たちの部隊と、イスラエルに対して使用可能な兵器の開発に置かれることになる」(同氏)
7月の書簡には奨学金の志望者各自の氏名、軍での番号、電話番号、大学での「専攻」が記されていた。
専攻の内訳は「科学技術」、「物理学」、「工学」、「プログラミング」、「法学」が1人ずつ。「経営学」が2人となっている。