ANALYSIS

ロシア産石油への制裁、プーチン氏とモディ氏の距離縮める 今度は原子力で連携

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ロシアのプーチン大統領と抱擁を交わすインドのモディ首相/GAVRIIL GRIGOROV/AFP/POOL/AFP via Getty Images

ロシアのプーチン大統領と抱擁を交わすインドのモディ首相/GAVRIIL GRIGOROV/AFP/POOL/AFP via Getty Images

(CNN) ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がインドのナレンドラ・モディ首相を小型電気自動車(EV)に乗せ、自らハンドルを取って大統領官邸内をドライブする。こうした光景から、両国首脳の仲睦(むつ)まじさが伝わってくる。

波紋を呼んだモディ氏のモスクワ訪問は、ロシアがウクライナの小児病院にミサイルの雨を降らせたのと同じ時期に行われた。戦争を理由に西側諸国はロシアに制裁を科し、プーチン氏の孤立化を図っているが、その効果が限定的であることをうかがわせる。

だが石油の豊富なロシアで移動手段にEVを選んだのは、もうひとつの意味合いがある。ロシア産石油とガスを対象にした欧米諸国の制裁で強化されたモディ氏とプーチン氏の連携が、今度は環境分野、そして原子力分野に発展したのだ。

ウクライナ戦争が勃発してからの2年間、世界最大の民主主義国を統治するモディ氏は、数少ない忠実な顧客としてロシア産石油とガスを自国に輸入し、プーチン氏を支えてきた。ロシア国営タス通信はモディ氏がロシア訪問中の9日、ロシアが高出力原子炉6基と次世代小型原子力発電所をインドに新規建設する方向で両国が協議を行っていると伝えた。

原子力をめぐっては賛否両論あるものの、発電時に二酸化炭素をまったく排出しないエネルギー源であり、最近はとくに多くの国々が気候変動対策のひとつとして採用している。世界で進行中の原子力発電および核燃料の供給競争で、ロシアは他国を大きく引き離している。

「商業的にみれば、ロシアは幅広い製造業には向いていない。だが天然資源を保有しており、ソ連時代から長年にわたって原子力開発を進めてきた。それらを有効活用する時が来た」。シンクタンク「大西洋評議会」のトランスアトランティック安全保障イニシアティブで上級研究員を務めるエリザベス・ブラウ上級研究員はCNNの取材でこう語った。「明らかにロシア政府はまんざらでもないと判断した。自国の原子力発電量の拡大に積極的な国もいくつかある。石油輸出と合わせて、インドも原子力発電に乗り気な国のひとつだ」

原子力分野でロシアが圧倒的地位を誇っているおかげで、プーチン氏はウクライナ戦争で欧米から非難を浴びつつも、国際舞台での立ち位置を維持している。明らかにモディ氏は非同盟政策というインドの伝統を貫いて、西側と良好な関係を保ちながらロシアとの貿易を続けている。

モスクワ近郊の公邸で行われた非公式の会合で、ゴルフカートに乗って移動するプーチン大統領とモディ首相/Gavriil Grigorov/Pool/Sputnik/AFP/Getty Images
モスクワ近郊の公邸で行われた非公式の会合で、ゴルフカートに乗って移動するプーチン大統領とモディ首相/Gavriil Grigorov/Pool/Sputnik/AFP/Getty Images

両国の友情はしばらく続きそうだ。原子炉6基の新設で原子力分野での協力関係が深まれば、両国の絆(きずな)はこの先数十年ますます強くなるばかりだ。発電所の建設には長い年月を要し、保守点検や技術更新も必要になる。ロシアが豊富に抱えるウランも継続して補充しなければならない。

ロシア産ウランに対する米国の規制

ロシアは再生エネルギー技術競争で中国に破れ、国内の風力および太陽光発電の開発もほとんど進まず、国内エネルギー転換でも米国に大きく後れを取っている。そこでロシアは原子力で大きな賭けに出た。従来型原子炉から次世代小型モジュール炉、他国が製造でいまだ十分なレベルに追い付いていない高純度濃縮ウラン燃料「HALEU」まで、あらゆるものを提供し、原子力輸出で収入と影響力を獲得しようという目算だ。

米国も問題の大きさを十分理解している。原子力技術輸出でロシアに対抗しようと図るバイデン政権は、当初ロシア産ウランへの制裁に難色を示していた。米国も原子力発電でロシア産ウランに相当依存していたためだ。だが5月に態度を変え、ロシア産ウランの輸入禁止に踏み切った。現在は次世代原子炉の燃料となるHALEUの自国生産に向け、国内産業の急速な発展に取り組んでいる。

ワシントンDCを拠点とする気候エネルギー研究団体「サードウェイ」の原子力気候エネルギープログラム次長、アラン・アーン氏は「ロシアは原子力発電所建設の海外事業件数で世界トップだ。ロシア政府は民間レベルの原子力協力で、非常に積極的に国際パートナーとの連携を進めている」と語った。

「ロシアが何十年にもわたって築いてきた市場での地位から他国が距離を置くのは難しい」と同氏は語り、原子力発電におけるロシアの世界的影響力を減じるためには、米国は「商業的に競争力のある製品を開発」する必要があると付け加えた。

EVを乗り回し、クリーンエネルギー源として原子力発電の強化に合意したとはいえ、ロシアあるいはインドがすぐにでも化石燃料から脱却するわけではない。両国が気候対策を牽引(けんいん)することもないだろう。

地球温暖化の原因である温室効果ガスの排出量で、インドとロシアはそれぞれ世界第3位と第4位。両国は石油およびガスの継続的な取引のみならず、地球温暖化による環境悪化で急速に氷山の融解が進む北極海の利用も狙っている。

9日、ロシアとインドの代表団は北極海航路のさらなる活用についても協議した。氷山の融解で、北極海航路はずっと航行しやすくなった。ロシア西部からインドへ向かうルートのほうが、東側から回るよりもずっと早い。2050年までには氷に悩まされることもなくなるだろうとも予測されている。このルートで二国間を行き来するエネルギー源――すなわち化石燃料こそが気候変動の主たる原因なのは、なんとも皮肉だ。

「インドは非常に現実的で、いささか日和見的なところもある」とブラウ氏は言う。「自分たちにリスクがない分野でロシアとの関係強化が可能ならば、実行したところで何の害もない。北極で密接な協力関係を築くことができれば、インドにはメリットしかない」

同氏はさらに、インドにとってはロシア産原油の精製も恩恵になると続けた。

「インドにしてみれば、格好の収入源がもうひとつ増えることになる」とブラウ氏。「だったらやるしかないというのがインドのスタンスだ」

本稿はCNNのアンジェラ・デュワン編集委員(国際気候問題担当)による分析記事です。

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