南海トラフ巨大地震に身構える日本、呼びかけは過剰? 疑問視する専門家も

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津波や地震の被害を受けた道路を移動する住民=2011年3月、宮城県石巻市/Kim Jae-Hwan/AFP/Getty Images

津波や地震の被害を受けた道路を移動する住民=2011年3月、宮城県石巻市/Kim Jae-Hwan/AFP/Getty Images

国民の備え

ただ、今のところ国民の間に疲労の兆候はなく、全国の人が警戒を強めている。

大学生のスガイ・ヨウタさん(22)はテレビで注意の呼びかけを見て、目覚ましコールを受けたような切迫感と恐怖感を覚えたと振り返る。8日の地震後、食料や水のような緊急物資を確保し、インターネット上の地図で危険区域を注視した。沿岸地域に住む親戚のもとを訪れ、避難ルート策定を手助けすることも考えたという。

スガイさんは能登半島を襲った1月1日の地震に触れ、元日に起きた地震により、いつ地震が起きるか分からないことを改めて思い知らされた、自然の恐ろしい力に気付かされたと振り返った。この地震では関連する原因で亡くなった数十人を含め、数百人が死亡した。

学生のオガワ・マシロさん(21)も同じような予防策を講じている。自宅に「緊急キット」を用意し、両親にも勧めた。当面は海岸に近づかないようにして、棚をベッドから遠ざけたり高さを低くしたりするなど、自宅の家具に変更を加えるつもりだ。

以前は差し迫った問題だとは思っていなかったが、いまは非常に現実味が感じられるという。

国民がこの問題をこれほど真剣に受け取っている要因としては、日本が地震多発国であること、地震の記憶が今なお新しいことが挙げられる。11年の東日本大震災は国民の心に大きな傷を残し、それに追い打ちをかけるように、数年ごとに新たな大地震が発生している。

神戸大の吉岡氏は、日本人は地震のたびに痛ましい人命の喪失や建物の倒壊、壊滅的な被害を引き起こす津波を目の当たりにすると説明。こうした恐怖は多くの市民に共有されており、それが日本の備えにつながっているとの見方を示した。

日本政府が11年の地震のような大災害の再発を避ける備えを強調しているのも、それが理由だという。インフラから建築基準、救援体制に至るまで、日本は地震への備えと対応力の点で世界をリードする国と広く認知されている。

防災を専門にする大阪大学の杉本めぐみ准教授は、備えは学校の段階で始まり、幼稚園ですら幼児を対象にした避難訓練や地震対策を行っていると説明した。

杉本氏は、特に夏のあいだは地震や津波以外の災害も頻繁に起きると指摘し、台風や豪雨、洪水に言及。国民の意識の高さや、非常用物資の備蓄のような備えはどんなタイプの災害にも有効だと語った。

ただ、やるべきことはまだ残されている。杉本氏も東京大学のゲラー氏も、能登半島地震により日本の防災体制の穴が露呈したと指摘する。道路の崩壊で被災地の住民は足止めされ、避難を余儀なくされた住民の多くは数カ月後の今も家がない状況だ。

両氏は能登半島の窮状について、他の地域も脅威にさらされている中で、南海トラフばかりに注目しすぎることのリスクを示していると指摘する。

例えば杉本氏は以前、九州の福岡で勤務していた。杉本氏の住んでいた地域も過去に大地震に見舞われたことがあるが、南海トラフ付近の高リスク地域には指定されていない。

このため人々の備えは十分ではないと、杉本氏は指摘する。南海トラフ地域は政府から防災資金を受け取っているが、杉本氏が住んでいた福岡一帯は中央政府の支援を受けていなかったという。

ゲラー氏は、南海トラフ地震を強調することで、その地域の対策は徹底されても「それ以外の地域にとっては良くない。『南海トラフは非常に危険だが、ここ熊本や能登半島は大丈夫だ』と人々が思ってしまうからだ」と付け加えた。

「差し迫った危険が想定される場所以外では、みんなに誤った安心感を持たせてしまう影響がある」(ゲラー氏)

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