ミシュランガイドの歴史 タイヤ会社がなぜ一流レストランの格付けガイドになったのか
米国にわずか13軒しかない三つ星レストランの一つ、「アディソン」の総料理長兼ディレクターを務めるウィリアム・ブラッドリー氏によると、世界中から訪れるゲストは、ほかの旅行プランを決める前に、サンディエゴにあるアディソンの予約を確保することが多いという。(10コースのテイスティング体験:375ドル)
アディソンは2019年に初の一つ星を獲得し、21年に二つ星を獲得。翌年の22年には三つ星を獲得した。ブラッドリー氏もスタッフも、覆面調査員がレストランを訪れているのではないかという疑念を抱くことも、誰かを特別視することもなかったという。
「そういった罠(わな)にはまりたくなかった。我々はただ、すべての人に最高の品質を提供したいと考えていた」とブラッドリー氏はCNNに語っている。
このシステムに批判がなかったわけではない。米紙ワシントン・ポストは23年の記事で、「シェフたちは既存の枠を逸脱しすぎるとペナルティーを受ける可能性があることを認識しているため、このシステムはイノベーションを支援するのと同じぐらい、イノベーションを阻害している」と指摘した。ミシュランガイドはまた、フランスのシェフや料理を優遇しているとして反発を受けている。
だが、星を一つでも獲得すれば、レストランはその名を知られるようになる。
サンディエゴ郊外のオーシャンサイドにあるモダンメキシコ料理レストラン「バレー」のシェフ、ロベルト・アルコサー氏によると、23年7月にミシュランの一つ星を獲得するまでは、レストランが常に満席になることはなかったという。だが一つ星を獲得した翌朝、予約は翌月まで満席になった。
これを機にバレーでは、予約の受付期間をこれまでの1カ月先から90日先までに伸ばしたが、すぐに予約で満席となった。
マンハッタンのアッパーウエストサイドにある一つ星レストラン「エッセンシャル・バイ・クリストフ」のオーナーシェフ、クリストフ・ベランカ氏も、似たような経験を持つ。
同氏は22年にレストランをオープン。昨年一つ星を獲得する前は、一晩のゲスト数は80~100人だったが、現在その数は120~140人に増えた。
「シェフのクリストフ・ベランカ氏が作る料理はシンプルでエレガントだ。香り豊かなベルガモット風味のクリームの上にのせたふっくらとしたホワイトアスパラガス、さわやかなハーブのビネグレットソース、紙のように薄い紅芯大根のスライスがそれを物語っている」とミシュランガイドには記載されている。
調査方法
では覆面調査はどのように行われるのだろうか。ミシュラン調査員の特徴は、高級レストランで一人だけで食事をする人だと人々は推測している。動画アプリ「ティックトック」では、ミシュランの星付きレストランや高級レストランに一人で来店し、テーブルでメモを取ると「より良い」待遇を受けられたと記録しているユーザーもいる。
ミシュランの調査員はいかなる優遇措置も受けないよう、身元を隠すため細心の注意を払っているという/Jorge Gil/Europa Press/AP
だが、本物のミシュラン調査員がレストランにノートを持ち込むことはないという。ミシュランガイドのインターナショナル・ディレクター、グウェンダル・プーレネック氏はCNNに対し、調査員はいかなる優遇措置も受けないよう、身元を隠すため細心の注意を払っていると述べている。
同氏はまた、星を与えるかどうかをチームで決定するため、審査対象となるレストランは複数の調査員にサービスを提供することになると付け加えた。これは、ミシュランの五つの評価基準のうちの一つである「一貫性」をレストランが提供しているかを判断するうえで有用だ。
その他の基準は、「素材の質、味付けと調理技術の高さ、食事体験で表現されるシェフの個性、味の調和」だ。
調査員は全員、ホスピタリティー業界で少なくとも10年の経験があり、ミシュランガイドの調査方法に関する広範な研修も受けている。同じ調査員が同じレストランを再訪することはない。
プーレネック氏によると、調査員は初めに「地元や国内メディア、ソーシャルメディア、口コミ推薦」などさまざまな手段を通じて、訪れる価値のあるレストランのリストを作成するという。
ブラッドリー氏は、レストランを訪れるゲストの大半は常連客ではないため、誰が調査員なのかを推測することさえ「不可能」だと述べた。「ミシュランガイドの素晴らしさは、調査員がいかに秘密主義であるかということ。彼らは我々と同じように仕事に真剣に取り組んでいる」