女性起業家が増加、「シー・エコノミー」引き続き活況 米

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米国で女性の経営者による企業が増えている/The Good Brigade/Digital Vision/Getty Images

米国で女性の経営者による企業が増えている/The Good Brigade/Digital Vision/Getty Images

(CNN) バーナデット・コーベイルさんはショッピングモールで買い物するタイプの女の子ではなかった。

技術のクラスで女子はコーベイルさん唯一人だった。

「とにかく手作業でものを作るのが好きだった」とCNNに語ったコーベイルさんは10歳で溶接の仕方を覚えたという。

以来コーベイルさんは幼少期の情熱とスキルを生かし、10年近く建設業に携わっている。大半は企業の下で働く身だったが、昨年それが一変した。ミズーリ州ワイルドウッドに建設会社「アルテミス建設グループ」を立ち上げたのだ。

今ではコーベイルさんが社長だ。

コーベイルさんだけではない。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以降、女性の起業が急増している。最新のデータによると、女性は2023年に支出で景気回復を支えただけでなく、市場をしのぐペースで新規事業を立ち上げ、建設業や製造業などこれまで男性主体だった業界に進出している。

企業レビューサイトのイェルプ社で経済動向を専門とするタラ・ルイス氏は、「スケジュールや柔軟性、自立性に引かれる女性は多い」とCNNのインタビューで語った。「多くの女性たちがキャリアの選択肢を決めるのは自分だと気づいたのだろう」

アルテミス建設グループの創業者バーナデット・コーベイルさん/Courtesy Bernadette Corbeil
アルテミス建設グループの創業者バーナデット・コーベイルさん/Courtesy Bernadette Corbeil

イェルプでは最近レビューサイトの掲載企業を分析し、「女性経営」とタグ付けされた新規事業の数を23年と22年で比較した。その結果、女性が経営する新規事業は前年比17%増の5万8000件にのぼることが、同社の「シー・エコノミー(she―conomy=女性経済)動向調査」で公表された。

給与や福利厚生の管理サービスを提供するグスト社からCNNが入手した別のデータからも同様の傾向が見て取れる。

グストから提供された調査データによると、23年に設立された新規事業のうち女性経営者は49%。これに対して男性経営者は45%だった。

これが19年となると様相ががらりと変わる。グストによると、新規事業の女性経営者は29%だった。

「今年は70%の女性がフレキシブルな働き方を求めて起業した。一方男性は66%だった」。グストは23年の調査の全容を今月内に公表する予定。

米国勢調査では新規事業が性別で分類されていない。女性の経営企業に関する直近のデータは21年のものだ。絶対基準となるデータがない場合、それぞれ限界はあるものの民間の研究や調査をつなぎ合わせれば、潜在的な傾向が見えてくる。

「シー・セッション」から「シー・エコノミー」へ

こうした傾向はしばらく前から見られていたが、新型コロナのパンデミックで米経済に衝撃が走ったタイミングで一気に加速した。

女性の雇用が圧倒的に被害を受ける「シー・セッション(she―cession=女性不況)」の荒波の真っただ中、女性たちはチャンスを見つけてものにした。

今年発表された米大手銀行ウェルズ・ファーゴの「女性が経営する事業の影響力に関する報告書」によると、新型コロナ発生当初は、女性は会社をたたむよりも起業するほうが多かった。一方で男性経営の企業は減少した。経営支援会社のベンチャーニア、女性起業家を支援するコアウーマン、「公共政策に影響を与える女性の会(WIPP)」との共同実施による報告書によれば、これはほんの序の口だ。

報告書は国勢調査のデータを活用しているが、19~23年で女性が経営する企業の数は男性経営企業の倍近いペースで増えており、23年に関しては前年比の4.5倍だった。

前代未聞のこの時期、公共・民間セクターはもちろん、NPO団体や消費者からも、補助金や融資、技術支援や陳列スペースの提供など、様々な形で前代未聞の支援が行われていた。

「(起業のエコシステムは)女性経営者に手を差し伸べている」。起業家を対象に支援と研修を行うベンチャーニアの創業者兼社長、ジェリ・ステンゲル氏はこう語る。「とくに08年のリーマン・ショックと比較した場合、中小企業はどこも当時の金融危機より(回復が)早かった。とりわけ黒人やヒスパニック系の女性経営企業では顕著だった」

19年から23年にかけて、女性経営企業の売り上げは平均で12.1%増加した。とくに黒人およびラテン系の女性が経営する企業では顕著で、ウェルズ・ファーゴの報告書によればそれぞれ32.7%と17.1%の増収だった。

さらにステンゲル氏は、「女性自身の功績でもあるが、女性はうまく順応して転身した」と語った。

新たなチャンスと出発

マリー・サンシールさんはパンデミック中に転身し、起業した女性の一人だ。そればかりか、23年に新たに会社をそれも2社立ち上げた女性経営者でもある。

サンシールさんは新型コロナ以前、ニューヨークを拠点にビジュアルアーティストとして活動し、フリーランスとして壁画や絵画を制作したり、クラスで教えたり、アートプロジェクトをコーディネートしたりなど、いくつもの顔を持っていた。新型コロナをきっかけに、サンシールさんも自分が本当にやりたい仕事を深く考えるようになったという。

サンシールさんによれば、20年10月にマイノリティー(少数派)が経営する企業向けに政府との連携を教えていた際に「開眼した」という。翌年には約10のクラスを受講してビジネススキルに磨きをかけ、セールスとマーケティングの知識を取得し、各種テクノロジーを学んだ。

壁に絵を描くマリー・サンシールさん/Courtesy Saint-Cyr Art Studio
壁に絵を描くマリー・サンシールさん/Courtesy Saint-Cyr Art Studio

そうした知識をフルに活用し、サンシールさんは自ら運営していたアートスタジオを総合壁画代理業者に転換し、ニューヨーク市立学校やその他団体で公共壁画を制作するプロジェクトマネジャーを務めた。20年の会社の売り上げは5万ドルだったが、21年には23万ドル、22年には100万ドル近くまで増加した。

事業の成功と地域社会に及ぼした影響が認められ、サンシールさんは中小企業庁から若手起業家賞を授与された。

「5万ドルから100万ドルへと売り上げを伸ばすための過程を自ら作り出す必要があった」とサンシールさんはCNNに語った。「大勢がそのやり方に興味を示している」

サンシールさんは23年に放課後のアートプログラムの事業を立ち上げた他、ニューヨーク市教育組織など公共機関との連携による起業支援を目的としたコーチングおよびコンサルティング業も始めた。

(専門技能職の)ギャップを解消

イェルプの調査では、23年は、美容業界よりも住宅サービス業界で新規事業を立ち上げる女性が多いことが判明した。

「女性の目には、自分たちが入り込める場所を見つけ、優位性を見出せるチャンスとして映っているのではないか」とルイス氏は言う。

専門技能職には入り込める余地も需要もたっぷりある。

建設業を例に挙げてみよう。労働統計局のデータによると、建設業で働く労働者の約10%が女性だ。また全米女性建設労働者協会によると、建設会社の約13%で女性が経営権の過半数を保有している。

建設業などの専門技能職業界にはチャンスがごろごろ転がっている。インフラ事業では数億ドル単位の収入が転がり込んでくるし、数十年来の高金利と低金利の住宅ローンという名の「黄金の手錠」をかけられた持ち家所有者はこぞってリフォームに乗り出した。また職人の高齢化で労働者不足にも拍車がかかる。

テキサス州サンアントニオでは同州アラモシティー出身のアリー・ペレスさんが、女性やマイノリティー、若者を専門技能職に呼び込もうと立ち上がった。

「マーケティングの仕事を通じて、偶然にも建設技能者を知った。大勢の女性がそうやってこの業界に入っている」と言うペレスさんは、ジョージ配管会社でマーケティング部門と運営部門の主任を務めている。「いざ始めてみたら、のめりこんでしまった。『私のような女性は他にどのぐらいいるのだろう。この世界は全くノーマークで、選択肢になるとも知らずにいた女性はどのぐらいいるのだろう』と思った」

「テキサス・ウィメン・イン・トレード」を設立したアリー・ペレスさん(左)/Courtesy Allie Perez
「テキサス・ウィメン・イン・トレード」を設立したアリー・ペレスさん(左)/Courtesy Allie Perez

ペレスさんが13年に設立した「テキサス・ウィメン・イン・トレード」は、建築業界の女性リーダーとの人脈づくりや労働組合との関係構築の他、女性のキャリアアップや不動産契約、最終的には独立起業までをサポートするリソースを提供している。

ペレスさんと同団体はこうした問題に光を当てるだけでなく、労働水準の向上を目指して雇用主や労働組合、請負業者とも対話を図っている。この数年でペレスさんも大きな変化を目にしてきた。

女性の「専門技能職に対する関心はこの数年で間違いなく高まっている」とペレスさん。「いくつかの要因があると思う。具体的に言えば、学校で職業訓練を実施するところが出てきている。親は学生ローンや高い学費で子どもに学位を取らせるのではなく、別の選択肢を模索している。社会全体としても、こうした職業に就く女性が増えている」

中には会社経営に回る女性も多いとペレスさんは付け加えた。

昨年起業を決意したミズーリ州のコーベイルさんも努力が大きな実を結んだ。アルテミス建設グループは起業から半年で注文が殺到した。

「素晴らしいチームが後ろで支えてくれているということがある。だがこれまでずっと男性経営の会社でやってきたことを私が6カ月で達成したことで、『なんてこった、こいつは本物だ』という感じだ」とコーベイルさん。「専門技能職に携わる女性がもっと増えてほしい。この世界は以前より少しは女性を受け入れ始めたと感じる。実際女性もハンマーを振り回すことができるし、その上きっちり仕事をこなし、納期にぴったり間に合わせることが分かってもらえると思う」

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