「人生変わった」 資金難に陥った米地方自治体が週32時間労働で成功した理由

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ワシントン州サンファン島にあるフライデー・ハーバーの街並み=5月19日/Wolfgang Kaehler/LightRocket/Getty Images

ワシントン州サンファン島にあるフライデー・ハーバーの街並み=5月19日/Wolfgang Kaehler/LightRocket/Getty Images

(CNN) 昨年の夏、レザベク夫妻は窮地に陥っていた。エリックさんは、より高い収入のために4時間かけて通勤することを検討。二つの仕事をすでにこなしていたクリステンさんは家計を助けるために、すでにフルタイムで働いているスケジュールにさらに1日追加することを計画していた。

そのとき、2人の雇用主から独特な提案が示された。毎週1日追加される有給休暇を自由に使えるというものだ。

「これは間違いなく、私たちの時間をより大切にするための解決策であり、より多くの選択肢を与えてくれる」(エリックさん)

夫妻は2人の子どもとともにワシントン州のサンファン島で暮らしている。2人とも勤め先はサンファン郡だ。組合は職員の賃上げを交渉していたものの、資金繰りに苦慮している郡は、わずかな生活費の引き上げ以上の昇給を行える余裕はなかった。

その代わり、合意に達したのは、職員が福利厚生付きでフルタイムの職を維持しながら、勤務時間の短縮や柔軟なスケジュールを享受できる週32時間労働だった。

郡のマネジャー、ジェシカ・ハドソンさんは「従業員に福利厚生を提供する方法はたくさんある。さまざまな解決策を受け入れられる限り、たとえ直接的な昇給ではなくても、素晴らしい才能のある従業員を維持できる別の方法が見つかる可能性がある」と語った。

サンファン郡はこのほど、週32時間労働を導入した最初の1年を無事に終えて、報告書を発表した。サンファン郡によれば、採用から定着、従業員の幸福にいたるまで、多くの前向きな結果が得られたほか、組合の賃上げの要求に応じた場合に郡が支払ったであろう金額と比較して、97万5000ドル(約1億5000万円)以上のコスト削減につながったという。

エリック・レザベクさん(左)とクリステン・レザベクさん夫婦。サンファン諸島の州立公園にて=9月/Courtesy Eric Rezabek
エリック・レザベクさん(左)とクリステン・レザベクさん夫婦。サンファン諸島の州立公園にて=9月/Courtesy Eric Rezabek

郡によれば、週32時間労働が多くの新たな人材を引き付けている。応募の数は85.5%増加したほか、欠員の23.75%が素早く埋まった。より多くの従業員が職にとどまり、離職率(従業員の離職または退職)は48%減少した。従業員の84%が、ワーク・ライフ・バランスが改善したと回答した。

ハドソンさんは、週32時間労働について、導入時に目指した目標の多くを達成しているとして、この取り組みをさらに拡大する機会を模索していると明らかにした。

レザベク一家にとっては、仕事の負担を軽減し、好きな他の仕事をするための時間の余裕が生まれた。地元の病院でも働いているクリステンさんは現在、40時間の労働にとどまっているにもかかわらず、事実上週6日働いた分の給料を受け取っている。

柔軟に働けるおかげで、エリックさんは小さな農場で作業する時間が得られたほか、地元の消防署でボランティアをしたり、子どもたちの面倒を見たりすることができた。以前は休暇を取る必要があった他の島への移動を伴うサッカーの試合やイベントに、より簡単に参加できるようにもなった。

「ワーク・ライフ・バランスが重要だ」とエリックさん。「賃金が人生の全てではない」

週4日勤務の仕組み

サンファン郡の各部署はさまざまな形で週32時間労働を実施した。これまでと同様の受け付け時間を維持するために人員をずらして配置したところもあれば、スケジュールを短縮して週4日しか稼働しないところもある。

郡の公園にベンチを設置するイングマンさん=2023年9月/Courtesy Joe Ingman
郡の公園にベンチを設置するイングマンさん=2023年9月/Courtesy Joe Ingman

郡の公園の管理者、ジョー・イングマンさんは「みんなに言っているのは、あなたたちの視点からは何も変わることはないということだ」と語る。「事務所は開いているし、トイレは掃除され、芝は刈られる」

イングマンさんの部局では、職員を週7日配置できるようスケジュールを調整した。シフトを越えたコミュニケーションが最初の難関だったが、すぐに乗り越えることができた。

「10年以上公園で働いてきたが、おそらく、これまでで最も順調な夏だった」とイングマンさん。週32時間勤務は採用活動にとってプラスになると考えている。以前は欠員が何カ月間も続くことがあったが、夏には応募が増えただけでなく、より適切な人材が集まった。イングマンさんが採用した職員2人はいずれも同郡を訪れた理由に週32時間労働を挙げた。

イングマンさんは週32時間労働が仕事のやりがいにつながっていると指摘した。これまでに同僚が燃え尽きるのを見てきたが、今ではこの部署での自身の将来にも展望が開けているという。

より賢く働く

郡のマネジャーのハドソンさんは「わたしたちが行った最大の取り組みは効率を生み出す方法を見つけることだった」と振り返る。「そもそもやるべき仕事が足りなかったというよりも、どうすればその仕事をより良くこなせるのかということが重要になった。納税者の税金と従業員の時間を最大限に活用し、仕事を遂行するためのより良い解決策を見つけるには、どうすればよいのかと」

マシュー・スチュワードさん。週32時間労働について初めて耳にした時は「できすぎた話のような気がした」と振り返る/Courtesy Matthew Steward
マシュー・スチュワードさん。週32時間労働について初めて耳にした時は「できすぎた話のような気がした」と振り返る/Courtesy Matthew Steward

マシュー・スチュワードさんのような部署では、それは優先順位を重視することにつながる。「優先度の高い項目はいつものようにすぐに終わらせる。優先度の低い項目はもう少し時間がかかるかもしれない」とし、50個の電球のうち一つが切れている場合には対処するのに数週間かかることもあると説明した。

サンファン郡が週32時間労働を導入したきっかけは経済的なものだったが、同郡で挙げられた利点は、より大きな流れとなりつつある。燃え尽き症候群と闘い、人材を引き付けて維持するために、勤務時間に柔軟性を取り入れる傾向が強まっているのだ。

最高経営責任者(CEO)を対象に行われた今春の調査によれば、米国の大手企業の約3分の1が、1週間あたり4日もしくは4日半の勤務を検討していることがわかった。

郡の公園で釣りを楽しむイングマンさん=22年5月/Courtesy Joe Ingman
郡の公園で釣りを楽しむイングマンさん=22年5月/Courtesy Joe Ingman

ギャラップの昨年の世論調査では、全体の労働時間が減らなくても、3日目の休みが広く受け入れられる可能性が示された。米国の労働者の77%が、週当たり4日間40時間の勤務は健康に良い影響を与えると回答した。

週32時間労働の維持か、20%の昇給かどちらを得るのかと質問されると、サンファン郡の職員からは、現在の仕事でそうした昇給を得られるのは実行可能な選択肢ではないとの指摘が出た。むしろ、現在は両方の良いところを手にした状況だと考えている。クリステン・レザベクさんは「追加の時間を求めるか、副業という形で追加の収入が得られるかを選択できるが、その選択肢は働く側に委ねられている」と述べた。

全ての職員が正式に週32時間労働の対象となっているわけではない。現時点では組合が代表する約155の職にだけ適用されている。週32時間労働への移行の影響については、現在の契約期間中も引き続き調査が行われる。郡は来年、2年分の報告書を提出することを予定している。

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