快眠を実現?、SNSで話題の「スリープマキシング」 専門家に話を聞く
(CNN) 寝る前には、赤いレンズの眼鏡をかけて、キウイフルーツを2切れ食べ、サプリメントを取り、鼻腔(びくう)拡張器を挿入して、部屋が真っ暗なのを確認するのを忘れないこと――。
歯磨きと洗顔、パジャマに着替えるといった簡単な就寝前のルーチンは忘れよう。今、完璧な睡眠習慣を求める人たちは、栄養補助食品や特定の食品、アプリや電子機器、美容のための階層化されたルーチンを含むさまざまな手段を付け加えている。
ある人たちにとって、こうした習慣は「スリープマキシング(sleepmaxxing)」と呼ばれる養生法の一部であり、睡眠の質と量を最適化するために同時に行われる活動や製品、あるいは「ハック」の集合体だ。米ミシガン大学アナーバー校のアニタ・シェルギカー教授はそう説明する。
スリープマキシングの起源は判然としないが、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の睡眠を高めたい利用者の間で人気となっている。「#sleepmaxxing」のタグがついた動画は数十万回再生されている。
ラトガース大学ロバート・ウッド・ジョンソン・メディカルスクールのジャグ・サンダーラム教授は「昔は睡眠は重要だと考えられていなかった」と指摘。睡眠の真の重要性や、睡眠が重要であることの理由、睡眠に集中することを理解しようとするのは良い傾向だとの見方を示した。
しかし、睡眠の質を高めるヒントやコツの中にも、よくいっても疑わしく、最悪な場合は有害なものもある。以下に、注意すべき点や実際に効果があるものについて紹介する。
スリープマキシングの一部には証拠あり
スリープマキシングに関する実践の多くは、専門家が睡眠の質について最も重要だとして長年推奨してきた基本的な習慣に重点を置いている。実証済みの対策には以下のようなものが挙げられる。▽涼しく暗く静かな部屋で眠る▽寝る前にスクリーンを見る時間や明るい光にさらされる時間を制限する▽寝る前の数時間はアルコールやカフェインを摂取しない▽就寝時間と起床時間を一定にする。
専門家によれば、涼しい温度(約15度から約19度)は睡眠の準備として体が自然にクールダウンするのに役立つ。
スクリーンやその他の光源から出るブルーライトは、脳を覚醒させ、睡眠ホルモンであるメラトニンの生成を妨げる可能性がある。アルコールは夜通しの睡眠を妨げる原因となる可能性がある。
専門家によれば、就寝時間を規則正しくすると体が眠る時間を知ることができて、眠りにつきやすくなるという。
効くかもしれないし、効かないかもしれない
スリープマキシングをする人の多くは睡眠を追跡するためのアプリを利用しており、専門家によれば、睡眠を助けたり妨げたりする要因を監視するのに役立つという。ただ、利用者はアプリを常に確認することに夢中になってしまい、そのフィードバックから、その後の睡眠の見方に悪影響を受けないように注意する必要がある。
加重ブランケットの愛用者もおり、専門家によれば、加重ブランケットの使用が睡眠の改善や起きている間の休息感の向上につながることを裏付ける証拠もある。
スタンフォード大学のラファエル・ペラヨ教授によれば、加重ブランケットは、寝ている間に包まれているような感覚を好む人には安心感を与えるものだという。
ブランケットの重みによって、人間が抱き合ったときに分泌する愛情ホルモンのオキシトシンが体内で多少多めに分泌される可能性がある。リラックスすれば、睡眠を妨げるストレスホルモンのコルチゾールが減少する。
赤い光を浴びるのはスリープマキシングの定番の一つ。しかし、睡眠の改善と血清メラトニンの濃度の関連性を発見した研究はわずかだ。
サプリメントやスナックは?
スリープマキシングではサプリメントの摂取も一般的で、特にメラトニンとマグネシウムが好まれる。しかし、専門家によれば、大部分の人にとって、それらは必要ではなく、寝つきの問題を軽減するためにこうしたサプリメントを継続的に摂取することは専門家による評価を必要とする睡眠障害を隠してしまう可能性がある。
ミシガン大のシェルギカー教授は「マグネシウムのサプリメントを摂取すると、一部の症状が悪化する可能性がある」と指摘した。
スリープマキシングでは、就寝前にキウイフルーツを1~2個食べることも多い。シェルギカー教授によれば、キウイフルーツには抗酸化物質とセロトニンの前駆体が含まれており、睡眠をサポートする可能性があることを示唆する研究もある。
深刻な睡眠障害を隠してしまうものも
スリープマキシングでは、口呼吸を止めるために口にテープをはる人もいる。口呼吸はいびきや、のどの渇き、口の乾燥、口臭、そして、時間がたつと歯周病や、上下の歯が正常にかみ合わない不正咬合(こうごう)につながるとされる。
専門家からは、こうした流行について、危険だとの批判が出ている。特に気道が完全にまたは部分的に閉塞(へいそく)する睡眠時無呼吸症候群の人にとって危険だという。口をテープで固定すると軟部組織に損傷を与える可能性もある。
鼻腔を拡張する機器を使う人もいるが、これは慢性的な鼻づまりやいびきに悩む人に役立つ可能性がある。
シェルギカー教授は、鼻呼吸の難しさが睡眠に影響していると感じたら専門家に相談するよう呼び掛けている。
夜の複雑なルーチンがOKなことも
スリープマキシングを宣伝するもののなかには睡眠の質を高めるというよりも見た目をよくすることと関係しているものもある。TikTokユーザーのなかには寝る前に顔や髪に幾重もの美容のためのルーチンを施し、目が覚めたらすべての製品を「脱ぎ捨てる」様子を撮影する人がいる。
「人によって効果的なリラックス方法は異なる。重要なのは一貫したルーチンと、一貫した睡眠と起床のスケジュールを持つことで、これらが安らかな睡眠をとるのに役に立つ」(シェルギカー教授)
睡眠が「プレッシャーのかかった仕事」にならないように
シェルギカー教授によれば、回復のプロセスであるはずのスリープマキシングを、プレッシャーのかかる仕事に変えてしまうと、逆効果になる可能性がある。「人によっては、毎晩の睡眠の最適化と睡眠パターンに過度に注意を払うと、時間の経過とともにストレスが増し、睡眠が悪化する可能性がある」
完璧な睡眠をとることへの強迫観念から睡眠障害を発症する人もいる。
専門家は、適切な睡眠習慣を常に実践しているにもかかわらず適切な量や質の睡眠がとれない場合には医師や専門家に相談することを勧めている。