抗不安薬による水質汚染、サケの回遊に変化 「恐怖感」薄れ外洋に早く到達
ミケランジェリ氏は「ベンゾジアゼピン系とオピオイド系という二つの主要な医薬品は世界中の河川や小川で普通に検出されている。我々の研究が行われたスウェーデンもそこに含まれる」と語る。
スモルトに埋め込まれた徐放性インプラントは、クロバザムとトラマドールの2種類の薬を放出。魚はクロバザムのみかトラマドールのみ、あるいは両方を投与された。対照群のスモルトは薬剤が全く含まれていないインプラントを埋め込まれた。
実地試験に加え、研究者らは256匹のスモルトを用いた実験室ベースの研究も行い、インプラントが意図通りに機能していること、薬剤がサケの体組織と脳に残存していることを確認した。
回遊するサケを送信機で追跡したところ、クロバザムに曝露されたサケは他のどの魚よりも数多くバルト海に到達したことが判明。対照群と比較すると、クロバザムのインプラントを埋め込まれたサケは倍以上の個体が海に到達した。
さらに実験室での試験の結果、捕食者を避けるために密集する「スクーリング行動」にクロバザムが影響を与えていることが判明。クロバザムの影響で、捕食者が近くにいても魚同士の間隔は広がっており、「薬が本来の恐怖反応を弱めた可能性がうかがえる」(ミケランジェリ氏)という。
恐怖感が減り、リスクは増加
クロバザムのインプラントを埋め込まれた魚は、回遊ルート上にある水力発電ダム2カ所を突破する速度でも、他のグループの約2~8倍に達した。ダムのタービンはスモルトを瞬時に切り刻む死の関門として悪名高い。
スモルトの恐怖感を軽減することで、クロバザムは一時的に回遊の成功率を高めるかもしれない。一方で、薬の影響で海の捕食者に対して脆弱(ぜいじゃく)になり、長期間生存して産卵のために帰還できる確率を下げる可能性もあると、コーディル氏は指摘している。