若手映画監督が描く香港の近未来 希望か絶望か
監督の周冠威氏(36)はこの短編について、観客にショックを与え、現状を変えるための行動を促すのが狙いだと主張。「香港は長年、民主主義のために戦ってきたが、嘘を教えられてきた」と話す。
焼身抗議は中国当局の支配に抗議するチベット族らの間で広がった手法だ。周監督は、早急な変化がない限り、香港市民も同じような悲惨な状況に直面することになると懸念する。また、14年に香港の一部を占拠しつつも行政府から譲歩を引き出せなかった民主化運動「雨傘運動」に関しても、具体的な成果は上げられなかったと指摘。「香港市民はもっと貢献し、もっと犠牲を払わなければならない」と述べる。
「本地蛋」や「方言」などの他の短編は、中国本土への接近が強まるなか香港のアイデンティティーが失われていくことへの思いを扱ったものだ。「方言」では、北京語の運用能力を求める一方、地元の広東語を話す住民を排斥する規制が導入されたことを受け、働けなくなったタクシー運転手が描かれている。
監督の歐文傑氏(34)は、脚本家としての自身の体験から着想を得たと話し、「広東語を守る人は誰もいない」と述べる。元々は広東語で香港映画の脚本を書いていたが、商業的な圧力が強まるなか、中国との共同制作のために北京語を使わざるを得ない場面が増えているという。
歐監督の懸念は広く共有されている。香港のタクシー運転手に北京語を使うよう義務づける施策が一時検討されたほか、中国南部の広東省では、広東語を排斥しようとする動きがあるとして住民の抗議行動も起こった。
広東語は近代になって北京語が標準化される以前からあり、香港のアイデンティティーと文化を形作る重要な一部となっている。だが、中国当局は広東語を独自の言語とは認めておらず、「方言」としている。