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米野球界の長年の悲願、日本が答えを握っている理由

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MLB東京シリーズの試合の前にはピカチュウの姿も=3月18日、東京ドーム/ Masterpress/Getty Images

MLB東京シリーズの試合の前にはピカチュウの姿も=3月18日、東京ドーム/ Masterpress/Getty Images

(CNN) 米大リーグ(MLB)の2025年シーズンが本格的に幕を開けている。こうした時期になると例年なら、野球は低迷しており、墓場に向かっていると指摘したくなるところだ。野球が初恋の相手だった私だが、過去にはそうした論を展開したこともある。

しかし、今回の原稿は野球の未来を悲観するものではない。その正反対だ。私はいま、野球が世界的な現象になる真のチャンスを迎えたと考えている。

考えを変えた理由は、1週間あまり前に開催された「東京シリーズ」だ。

ご存じない方のために紹介すると、視聴率は桁外れだった。ロサンゼルス・ドジャース対シカゴ・カブスの第1戦は、日本に住む2500万人以上が視聴。第2戦も日本在住の2300万人以上が視聴した。

この第1戦の数字を米国の文脈に当てはめると、昨年の米国でこれを超える視聴者数を集めたゴールデンタイムのイベントは五つしかない(いずれもプロフットボールNFLだ)。

米国の人口は日本を2億人あまり上回る。

日本での第1戦の視聴率を米国のテレビ番組に当てはめれば、ざっと6500万人を超える人が視聴した計算になる。米国でこれほどの視聴者数を集められるのは、スーパーボウルだけだ。

東京シリーズは1回限りの例外だと言うのは簡単だろう。こうした考え方の唯一の問題点は、昨年のワールドシリーズの視聴率だ。

ドジャース対ニューヨーク・ヤンキースの対戦は、日本では1試合あたり1200万人を超える人が視聴した。米国でのワールドシリーズの平均視聴数は1600万人近くだった。

ドジャースのスター、大谷翔平の母国である日本で午前中に試合が始まったことを考えると、日本の視聴者数が米国とほぼ並んだことは衝撃的と言っていい。もし夜に試合が行われていれば、日本国内での平均視聴者数が米国を上回っていた可能性もある。

実際、最初の数試合は日本での視聴者数が古き良き米国を上回った。

私が子どもの頃は、野球発祥の地である米国よりも日本の方がワールドシリーズの視聴者数が多いなどということは、基本的に考えられなかった。

とはいえ、そこまで驚くべきことなのかは分からない。米国の野球界が抱えている大きな問題の一つに、本物のスーパースターの不在がある。ウィリー・メイズやミッキー・マントルが活躍した時代は今は昔。ベーブ・ルースの最後の試合からは90年が経過している。

デトロイト・タイガースとの本拠地開幕戦でソロホームランを打ち、ベースを回る大谷/Mark J. Terrill/AP
デトロイト・タイガースとの本拠地開幕戦でソロホームランを打ち、ベースを回る大谷/Mark J. Terrill/AP

大谷こそ、まさにそうしたスターだ。インスタグラムのフォロワー数は900万人超とMLBトップで、元チームメートのマイク・トラウトを約700万人上回る。

日本での大谷人気は驚くべきものだ。読売新聞が昨年実施した世論調査で、大谷は3年連続「好きなスポーツ選手」1位に輝いた。好きな選手として大谷を挙げた人の割合は、過去のどの選手よりも多かった。今年の調査では、さらに人気が高まる可能性が高い。

MLBにとっての問題は、大谷がいなくなった後も日本からの支持を当てにできるかという点にある。これは簡単ではないだろうが、間違いなく可能だ。

考えてみてほしい。「好きなスポーツ」を尋ねる質問に対し、日本人の回答は「プロ野球」(45%)と「高校野球」(40%)がトップ2を占めた。別個に質問に挙げられた「MLB」は30%で4位に入り、前年の19%から急上昇している(複数回答可)。

これに比べ、米国で「見るのが好きなスポーツ」として野球を挙げた人は1割にとどまる。1940年代には39%がそう答えていたことを考えると、大きな落ち込みだ。野球はいまやフットボールに大きく水をあけられており、2023年には米国人の4割以上が「見るのが好きなスポーツ」としてフットボールを挙げた。

米国ではもはや落ち目の野球だが、日本では国民的娯楽なのだ。

MLBにとって重要なのは、この事実をうまく生かすことだろう。MLBがそれを試みていることは既に報道からうかがえる。MLBはグッズやメディア契約を通じ日本の視聴者への露出を図っており、米スポーツ専門サイト「ジ・アスレチック」が指摘するように、「その見返りは何十億ドルにも上る可能性」がある。

もしMLBの魔法が効果を発揮すれば、ワールドシリーズを真の意味で「世界的」にできるだろう。これまでにほとんどなかったような形で。

本稿はCNNのハリー・エンテン記者による分析記事です。

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