マスク氏、対談でトランプ氏への協力試みる ハリス氏旋風阻止へ

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米国のトランプ前大統領が起業家イーロン・マスク氏とX(旧ツイッター)上で対談した

米国のトランプ前大統領が起業家イーロン・マスク氏とX(旧ツイッター)上で対談した

(CNN) 世界一の富豪と、かつての、そして将来の最高権力者にもなる可能性のある人物とが、ほぼ全ての事柄において見解の一致を見た。

テクノロジー業界の巨人、イーロン・マスク氏は自身のX(旧ツイッター)プラットフォームを開放し、トランプ前米大統領にファクトチェック無しのパイプラインを提供した。トランプ氏は虚偽の言説や陰謀論、過激主義をそこへ注ぎ込み、民主党の大統領候補であるハリス副大統領の台頭に待ったをかけようとする。

マスク氏とトランプ氏のやり取りは、今回の大統領選に尋常ならざる新章を改めて加えることになった。ここまでの選挙戦ではトランプ氏の暗殺未遂事件や現職のバイデン大統領の撤退など、驚くべき事態が複数起きている。

トランプ氏は民主党の候補に名乗りを上げたハリス氏の勢いに手を焼いている。長時間に及んだ対談の中で、マスク氏は自身の知名度とプラットフォームが持つ力を駆使し、ハリス氏との論戦で優位に立つ手法をトランプ氏に指南しているようだった。

「彼女は過激な左派を自認している」。ある時点でトランプ氏はハリス氏をそう評した。世論調査でのトランプ氏の優位は、ハリス氏が大統領選に出馬して以降のたった3週間で消滅している。トランプ氏はまた、バイデン氏が違法な形で引きずり下ろされ、ハリス氏に道を譲ったとの根拠のない主張を展開。ハリス氏が審査を受けることもなく自由に発言できる現状に言及し、「これは合衆国大統領に対するクーデターだった」との見方を示した。

マスク氏はハリス氏が過激な左派だという点でトランプ氏に同意。強いのはトランプ氏であり、ハリス氏は弱いとの認識を示唆してトランプ氏を持ち上げた。米国の敵対勢力に言及し、暗殺未遂事件の映像を見ればこれらの勢力はトランプ氏に手出しする気を起こさないだろうと語った。

マスク氏は既にトランプ氏支持を表明しており、12日の夜もトランプ政権の2期目を望んでいることに疑いの余地はなかった。「あなたこそが繁栄への道であり、カマラ(・ハリス氏)はその逆だと思う」。マスク氏はそうトランプ氏に告げた。

マスク氏が提供したこの夜のトランプ氏との対談は、少なくとも130万人が同時視聴した。向こう数日で1億人以上が視聴するだろうとマスク氏は見込む。

トランプ氏とマスク氏は共に得るもの多し

イベントの間何度か、トランプ氏の発言が聞き取りにくい場面があった。それが音声に関する技術的な問題に起因するのかどうかは不明。トランプ陣営の広報担当、スティーブン・チャン氏に質問したところ、「聞く側の問題に違いない」と答えた。

大富豪と前大統領の気の置けない会話は、双方にとって何が必要なのかを示していた。

マスク氏の率いるスペースXは米国の宇宙プログラムで重要な地位を占める。電気自動車(EV)メーカーのテスラは政府の政策変更によって影響を受ける恐れがある。対談の間中、利害の対立にもなりかねない場面が散見された。

マスク氏が政権内で何らかの役職に就くことを申し出る一幕さえあった。諮問委員会のメンバーに入り、行政機構のスリム化に取り組む考えを示唆すると、トランプ氏は「素晴らしい」と返答。無駄を削減することにかけてマスク氏の手腕が非常に優れていることを認めた。

トランプ氏にとっても2時間以上をこの対談に費やしたメリットは大きかった。トランプ氏が虚偽の発言をしても、マスク氏がそれに異議を唱えることはなかった。大統領選に敗れれば不法移民6000万人が米国に侵入するとのトランプ氏の予測も不問に付された。

対談の間、マスク氏は地球温暖化の脅威を軽視する一方、自身の先駆的なEV事業を擁護した。これに対してトランプ氏は「核の温暖化」がもたらす脅威について警告。「地球温暖化」を上回る危機を引き起こすと警鐘を鳴らした。同氏が原子力のことを意味していたのかどうかは不明。マスク氏は原子力を「人々が考えるほど恐ろしくない」と主張している。

マスク氏を褒めちぎるトランプ氏

12日夜、トランプ氏は数え切れないほどの虚偽と誇張を繰り出した。その内容は国境を越えてやってくる移民の数、今は沈静化しているインフレの危機の度合い、自身の抱える訴訟、現政権のエネルギー政策など多岐にわたった。複数の国々が自国の囚人を米国に送り込んでいるとする聞き慣れた主張も繰り返した。

疑いなくトランプ氏の支持者らは、向こう数日の間にこの夜の対談の内容を視聴し、トランプ氏の発言の大半に同意するだろう。そこに同氏の政治的な底力が明確に示される。たとえハリス氏が大統領選の流れを変えたとしても、その力が失われることはない。

とはいえしきりに陰謀論を拡散するトランプ氏の姿勢は、多くの有権者が同氏を見下す理由を浮き彫りにする。激戦州において郊外の有権者や女性の有権者に訴えかける上で問題を抱える理由もここに表れている。

対談はトランプ氏のXへの帰還を意味した。トランプ氏のツイッター(当時)のアカウントは、2021年1月6日に発生した連邦議会議事堂襲撃事件を受け、サイトの前オーナーによって凍結された。アカウントはマスク氏によって復活されている。

2時間の対談を全て聴いた人は誰でも、マスク氏の政治的見解についてより理解を深めたことだろう。同氏は自身の能力と富を駆使してそうした見解を明らかにする意欲を一段と強めている。それは新味という点でトランプ氏の発言内容を上回るものだった。ただトランプ氏は、政治的に必要な場面で現れた新しい友人に対し、感謝の意を惜しみなく伝えている。

「あなたは素晴らしい男だ。信じられない仕事をしている。人々に極めて大きな刺激を与えている」。トランプ氏はマスク氏へのこのような賛辞を口にし、対談の場を後にした。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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