今も実在する「貴族猫」、エルミタージュ美術館に受け継がれる伝統 ロシア
ソ連の崩壊と猫たちの復興
ピオトロフスキー館長が1990年代初めに就任した当時、国は混乱のさなかにあった。ソ連が91年に崩壊した後、経済危機に直面し、窮状に陥った市民はペットを捨てるほかなくなった。
美術館は、当時地下に残っていた数匹に加え、そうした野良猫の一部を受け入れることを決めた。
その理由についてピオトロフスキー館長は「人間性の象徴、動物に対する人間の愛情の象徴」を示しかったと振り返る。ただし「誰もが好んだわけではない。みんなが猫のにおいを好きだったわけではない」と言い添えた。
長年の間、美術館の職員たちは勤務時間外に猫に餌をやったり面倒を見たりしてきたが、今は寄付にも支えられている。毎年開かれる「猫の日」には子どもたちがやって来て、猫について学んだり猫の絵を描いたりする。
今も宮殿の猫たちは、ネズミ捕りの任務を忠実にこなす。最年長の22歳の猫でさえも。
「ネズミが猫の近くを通れば捕まえる。みんなとてもいい仕事をしている」とハルツネンさんは目を細める。
地下の猫たちと地上の芸術作品に引き寄せられて、同美術館には世界中から観覧者が訪れる。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まった当初、エルミタージュの芸術作品はオンラインでしか鑑賞できなった。しかしピオトロフスキー館長は、この壮麗さの中で作品と対面することの大切さが認識されるようになったと語る。
「偉大な象徴的美術館だと思う」と館長は言い、同美術館は何世紀もの間、幾多の戦争や政治的混乱を切り抜けてきたと指摘、「エルミタージュのような歴史を持つ美術館はほかに存在しない」と強調した。