OPINION

キング牧師暗殺から53年、黒人投票権を求める闘いは終わらず

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電話をするマーチン・ルーサー・キング牧師=1961年5月、アラバマ州モントゴメリー/Express Newspapers/Hulton Archive/Getty Images

電話をするマーチン・ルーサー・キング牧師=1961年5月、アラバマ州モントゴメリー/Express Newspapers/Hulton Archive/Getty Images

(CNN) 1968年4月4日、白人の男が米テネシー州メンフィスのロレーヌモーテルでマーチン・ルーサー・キング牧師を射殺した。それから50年あまりが経過した今なお、黒人米国人に平等な投票機会を確保することを目指したキング牧師の闘いは全く終わっていない。

ディーン・オベイダラ氏
ディーン・オベイダラ氏

米国では現在、共和党の公職者によって投票抑圧の措置が推進される例が相次ぎ、ブレナン司法センターによると、投票権を制限する法案が47州で361本提出された。(少なくとも今のところ)最も注目されるのはジョージア、テキサス両州だ。こうした共和党の試みに人種が絡んでいないふりをするのはやめよう。キング牧師がアラバマ州セルマからモントゴメリーに向かう公民権のデモ行進の最後に鋭く指摘したように、「人種主義と投票権剥奪(はくだつ)の根本」は絡み合っている。

当時の投票制限はホワイトパワー(白人の力)の維持をあからさまに目標としていた。今は共和党の党勢維持のためという色合いが濃いが、共和党が圧倒的に白人の政党であることを踏まえると、それほど大きな違いはない。実際、ジョージア州のブライアン・ケンプ知事がジョージア州の投票関連法――バイデン大統領はこれを「21世紀のジム・クロウ法(南北戦争後に南部で制定された人種差別的法律の総称)」と酷評した――に署名する姿は、何十年も前の場面をそっくり再現したようで、ケンプ氏の横には白人男性6人が並び、その後ろにはかつて奴隷農園だったキャラウェー・プランテーションの絵が掛かっていた。

キング氏は「私たちに投票用紙を」と訴えた1957年の有名な演説で、もし黒人米国人が自由に投票権を行使できれば、「議会を善意の人々で埋め尽くす」ことができるだろうと言及。続けて、南部の公職者が黒人有権者の選挙権剥奪に利用する「卑劣な手法」を非難し、「この神聖な権利を否定するのは、米民主主義の伝統の最も高次の要請に対する悲劇的な裏切りに当たる」と指摘した。

これと同じ力は現在でも働いている。100%明確にしておこう。共和党員による法改定のきっかけとなった選挙不正は存在せず、実際にあるのは支持を失うことへの懸念だけだ。依然として共和党が全域を押さえるテキサス州においてさえ、党関係者は明らかに票差の縮小を懸念している。共和党の大統領候補だったミット・ロムニー氏は2012年、同州で16ポイント近い差をつけて勝利した。だが、16年選挙で勝ったトランプ氏が付けた差は9ポイントに低下し、20年には5ポイントやや上回る程度となった。テキサス州の共和党は、これがどこに向かうのかをはっきり認識している。

その結果、我々は新しい「卑劣な手法」がほぼ外科手術のような精密さをもって駆使される事態を目の当たりにしている。その目的は有色人種から投票用紙を奪うこと、あるいは少なくとも憲法上の権利の行使をはるかに難しくすることにある。ジョージア州の新法では、州知事が非常事態を宣言しない限り、移動式の投票所の利用は禁止される。フルトン郡では昨年、こうした移動式投票所が効果的に活用され、黒人や中南米系が住民の大半を占める地域で1万1200票以上を集めた。同地域の票の大半はバイデン氏に投じられており、同氏がわずか1万1779票差で勝利したジョージア州でこうした票がものを言ったのは明らかだ。

テキサス州でも共和党主導の上院が1日、期日前投票を午後9時で終了することを義務付けたり、ドライブスルー投票を禁じたりすることを盛り込んだ包括的な法案を可決した。なぜか? バイデン氏が14ポイント以上の差で勝ったハリス郡では昨年、シフト制の労働者を受け入れるために投票所を午後10時まで開けていた。また同郡は10カ所の投票所でドライブスルー投票を認めていた。ハリス郡の当局者が指摘したように、ドライブスルーや延長時間を利用して集計された票の半数以上は黒人や中南米系の票だった。共和党が同州での投票を難しくしたがる理由は明らかだろう。

共和党員の大半はこうした措置に反対していない。世論調査機関「ピュー・リサーチ・センター」が発表した調査結果によると、投票を簡単にするために「可能なあらゆること」を行うべきだと考える共和党支持者の割合は2018年以降、48%から28%に低下した。

共和党支持者に考えの変化を促す手段として一つ考えられるのは、キング牧師も賛成した可能性が高い手法、つまり、米大リーグ(MLB)などによるさらなるボイコットだ。MLBは2日、投票制限措置に抗議してオールスター戦の会場をジョージア州から変更すると発表した。キング牧師といえばやはり、1955年から56年にかけてアラバマ州モントゴメリーのバス網でボイコットを主導したことが有名で、この運動は最終的に公共バスでの人種隔離を違憲とする最高裁判断につながった。

暗殺前日の1968年4月3日には、キング牧師はメンフィスでストを実施中だった清掃作業員を支持する演説を行い、政策変更を迫るために経済的ボイコットの活用を呼び掛けた。この戦術についてキング牧師は「本当に痛い場所に圧力をかける」のに効果的だと説明していた。

この手法は最近でも有効になりうるし、実際にうまくいった例もある。近年ではノースカロライナ州で2016年、共和党主導の州政府が「トイレ法」と呼ばれる反LGBTQ(性的少数者)法を可決し、トランスジェンダーの米国民が自ら認識する性別のトイレを使うのを禁じた。これに対し、米プロバスケットボールNBAは2017年オールスター戦の会場を同州から変更したほか、芸能人や企業もイベントや新規進出を取りやめた。1年間にわたって「本当に痛い場所に圧力をかけた」結果、共和党主導の州議会は同法案のうち特に異議の多い条項を廃止した。

キング氏は有名な最後の演説で、米国をあるべき姿にするため「一段の決意とともに立ち上がろう」と呼び掛けた。「私たちには米国をもっと良い国にする機会がある」と。キング牧師の言葉には今でも人を奮い立たせる力がある。そして、有害なホワイトパワーに対する米国の闘いがいまだ勝利に至っていないことも思い起こさせるのである。

ディーン・オベイダラ氏は元弁護士で、シリウスXMラジオで毎日放送される番組「ザ・ディーン・オベイダラ・ショー」の司会者や、米ニュースサイト「デイリー・ビースト」のコラムニストを務めています。記事の内容はオベイダラ氏個人の見解です。

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